新型インフルエンザ等対策特別措置法と消防法、臨時の医療施設は消防法第17条第1項が適用されない!

消防用設備等

消防法の特例と言えば令32条の消防用設備等の特例が思い浮かぶよね。でも特例は消防法施行令だけに記載される訳では無いって知ってる?

コロナウイルスの感染拡大によって今後、臨時の医療施設が増える可能性があるけど、火災予防の観点から見るとどんな危険性が在るんだろう? 臨時の医療施設って6項だよね?

コロナウイルス感染拡大により今後臨時の医療施設が設置されることが予測されます。しかし、臨時の医療施設は新型インフルエンザ等対策特別措置法により消防法第17条の規定が免除されており、消防用設備等の基準が適用されません。また、臨時の医療施設は消防法施行令別表第一の何項に該当するのかという疑問も残ります。

この記事では、医療法や新型インフルエンザ等対策特別措置法を解説し、消防用設備等の特例の理解を深めます。

臨時の医療施設って何だ? 

新型インフルエンザ等対策特別措置法での視点

5月中旬を目途に幕張メッセが臨時の医療施設に整備される予定であると話題になっていますが、臨時の医療施設って何でしょうか?

私自身、医療法や新型インフルエンザ等対策特別措置法に関してあまり知識が無かったため、初めに感じたのは、『軽症患者を収容するホテルは臨時の医療施設ではないのか!』です。結論からお話すると、これらのホテルは臨時の医療施設には該当していません。

新型インフルエンザ等対策特別措置法について見てみましょう!

新型インフルエンザ等対策特別措置法第48条(臨時の医療施設等)

特定都道府県知事は、当該特定都道府県の区域内において病院その他の医療機関が不足し、医療の提供に支障が生ずると認める場合には、その都道府県行動計画で定めるところにより、患者等に対する医療の提供を行うための施設(第四項において「医療施設」という。)であって特定都道府県知事が臨時に開設するもの(以下この条及び次条において「臨時の医療施設」という。)において医療を提供しなければならない。

ポイントは医療を提供を行うための施設になるかどうかのようです。軽症患者であれば、自宅療養やホテルでの療養を促しているため、医療を提供を行うための施設には該当しないようです。ここで医療の提供を行えば病院と同様の施設に該当すると考えます。

医療法での視点

医療法では医療を受ける場所は「医療提供施設」と「医療を受ける者の居宅等」に分かれます。

医療提供施設は、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設とされており、「医療提供施設≠施行令別表第一(6)項イ」ということが分かりますね。

医療法第1条の2 第2項

医療は、国民自らの健康の保持増進のための努力を基礎として、医療を受ける者の意向を十分に尊重し、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設(以下「医療提供施設」という。)、医療を受ける者の居宅等(居宅その他厚生労働省令で定める場所をいう。以下同じ。)において、医療提供施設の機能に応じ効率的に、かつ、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。

臨時の医療施設は消防法第17条第1項及び第2項の規定は適用しない!

新型インフルエンザ等対策特別措置法では臨時の医療施設については消防法施行令第17条第1項及び第2項の規定は適用しない旨が定められています。それと同時に都道府県知事が一定の基準を定めることで安全性を確保する必要があるとされており、本来用途にある程度準じた設備規制や安全措置を設定することになります。

新型インフルエンザ等対策特別措置法第48条 第3項

消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)第17条第1項及び第2項の規定は、臨時の医療施設については、適用しない。この場合において、特定都道府県知事は、同法に準拠して、臨時の医療施設についての消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設の設置及び維持に関する基準を定め、その他当該臨時の医療施設における災害を防止し、及び公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならない。

逆読みをすると、消防用設備等の基準については一定の緩和措置を行うけれども、消防法第8条の防火管理や消防法第8条の2の4の避難施設等の管理については適用を受けるため、火災予防全般の規制については臨時の医療施設であっても適用を受けると考えられますね。

では、幕張メッセが臨時の医療施設となった場合、どのような用途として規制されるのでしょうか?

臨時の医療施設は感染症の病院扱い?

コロナウイルスで現状不足している病床は感染病床ですね。消防法での病院の用途判定は医療法に基づきます。医療法と消防法それぞれの視点から見てみましょう。

消防法での視点では規制が強いのは(6)項イの(1)と(2)であり、入院施設が在り(1)や(2)に該当しなければ(3)に分類されます。無床であればさらに規制の緩い(4)ですね。以下6項イ(1)と(2)について施行令別表第一より抜粋します。

6項イ(1)

次のいずれにも該当する病院(火災発生時の延焼を抑制するための消火活動を適切に実施することができる体制を有するものとして総務省令で定めるものを除く。)

  • 診療科名中に特定診療科名(内科、整形外科、リハビリテーション科その他の総務省令で定める診療科名をいう。(2)(i)において同じ。)を有すること。
  • 医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第七条第二項第四号に規定する療養病床又は同項第五号に規定する一般病床を有すること。

6項イ(

次のいずれにも該当する診療所

  • 診療科名中に特定診療科名を有すること。
  • 四人以上の患者を入院させるための施設を有すること。

医療法での視点

病院や診療所、病床の違いは医療法に基づいています。

病院か診療所かの違いは患者を入院させるための施設数に依存します。19人以下なら診療所、20人以上なら病院ですね。

医療法第1条の5

この法律において、「病院」とは、医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であつて、二十人以上の患者を入院させるための施設を有するものをいう。病院は、傷病者が、科学的でかつ適正な診療を受けることができる便宜を与えることを主たる目的として組織され、かつ、運営されるものでなければならない。

2 この法律において、「診療所」とは、医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であつて、患者を入院させるための施設を有しないもの又は十九人以下の患者を入院させるための施設を有するものをいう。

続いて大切なのは病床の違いについてです。下の表に病床の種類とその内容を纏めていますが、診療所には精神病床、感染症病床、結核病床がないことが分かりますね。消防法施行令別表第一(6)項イ(2)の病床とは療養病床か一般病床しか無いことがわかりますね。

病床の種別内容
精神病床病院の病床のうち、精神疾患を有する者を入院させるためのもの
感染症病床病院の病床のうち、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第六条第二項に規定する一類感染症、同条第三項に規定する二類感染症(結核を除く。)、同条第七項に規定する新型インフルエンザ等感染症及び同条第八項に規定する指定感染症の患者並びに同法第六条第九項に規定する新感染症の所見がある者を入院させるためのもの
結核病床病院の病床のうち、結核の患者を入院させるためのもの
療養病床病院又は診療所の病床のうち、前三号に掲げる病床以外の病床であつて、主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させるためのもの
一般病床病院又は診療所の病床のうち、前各号に掲げる病床以外のもの

以上のことから幕張メッセが臨時の医療施設となり、感染病床のみの病院扱いとなればは6項イ(1)や(2)には分類されないことが分かります。つまり6項イ(3)ですね。

おわりに

最後に、臨時の医療施設(感染症病床のみの病院を想定)である6項イ(3)に分類された場合の消防設備規制について考えてみましょう。

幕張メッセのような大規模な集会施設であれば元々設置されている消防用設備等の充実しており、それほど不足する消防用設備等は無いように感じます。しかし、このまま病床数が不足し、臨時の医療施設が求められた場合には、小中学校規模の体育館等も対象とされる可能性も考えられます。その場合、自火報やスプリンクラー設備、避難器具等が不足する可能性もありますが、新型インフルエンザ等対策特別措置法第48条第3項に基づき消防用設備等が特例免除されます。

臨時の医療施設の課題としては、「元々消防用設備等の設置が充実している防火対象物を対象とする」または「特例は適用されるものの不足する消防用設備等の替わりとなる安全措置を施す」のかで議論されそうですね。

消防としてはどちらにせよ、本来目的とは異なる施設が医療機関とし利用されることに着目し、ソフト面での防火意識を充実させる必要がありますね。もちろん防炎規制についても忘れてはいけませんよ。

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