消防同意における消防用設備の設置指導が「行政指導の中止等の求め」の対象とならない理由

査察、違反処理実務

新型コロナウイルスに関連して、個人に対して行政からマスクの着用とかの対策について協力が要請されているよね。

消防同意でも感知器のや避難器具の設置位置などの設置数を増やすことをお願いすることがあるけれども、これって両者とも行政指導の中止等の求めの対象になるの?

 この記事では、消防機関が行う消防同意において、消防用設備等の設置指導が行政手続法上の「行政指導の中止等の求め」の対象とならない理由について、新型インフルエンザ等対策特別措置法に関連付けて解説します。

 新型インフルエンザ等対策特別措置法では「都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。」と定められていますが、これに対して行政指導の中止等の求めをすることは可能なのでしょうか?

 同様に、消防同意時に設計会社や建築士に法令には具体的に書かれていない避難器具の設置位置などの設備指導を行った事に対し中止等の求めがあるのでしょうか?

そもそも消防同意は建築主への「処分」ではない

建築確認申請時に消防同意を行った後に検査済証交付となりますが、建築主と建築主事等、消防の関係は下図の様に示すことが出来ます。

  1. 建築主が建築主事等へ確認申請書を提出
  2. 建築主事等が建築関連規定を審査した後に消防へ同意依頼
  3. 消防が防火や避難に関する規定を審査し法令に問題無ければ同意
  4. 建築主事等が建築主へ確認済証を交付
  5. 工事に着手

 建築主や建築士と消防用設備の設置位置等で様々な交渉がありますが、図示すると分かるように消防が建築主に対し処分権を有する訳ではありません。

消防同意のやり取りの対象はあくまでも建築主事や指定確認検査機関であることがポイントですね。

つまり、指導内容に対して建築主や建築士、指定確認検査機関等から「行政指導の中止等の求め」を消防機関へ届出することは原理上あり得ないという事です。

消防法第7条第1項

建築物の新築、増築、改築、移転、修繕、模様替、用途の変更若しくは使用について許可、認可若しくは確認をする権限を有する行政庁若しくはその委任を受けた者又は建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第六条の二第一項(同法第八十七条第一項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による確認を行う指定確認検査機関(同法第七十七条の二十一第一項に規定する指定確認検査機関をいう。以下この条において同じ。)は、当該許可、認可若しくは確認又は同法第六条の二第一項の規定による確認に係る建築物の工事施工地又は所在地を管轄する消防長又は消防署長の同意を得なければ、当該許可、認可若しくは確認又は同項の規定による確認をすることができない。

「行政指導の中止等の求め」の対象とは?

今回の「行政指導の中止等の求め」とは法令違反があった際に行政側からそれらの行為の是正を求めた行政指導に対して中止を求める点がポイントです。

  • 特定の対象者が法令に違反する行為によって
  • 行政機関から違反行為に対する是正を求める行政指導があった
行政手続法第36条の2 第1項(行政指導の中止等の求め)

 法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)の相手方は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる。ただし、当該行政指導がその相手方について弁明その他意見陳述のための手続を経てされたものであるときは、この限りでない。

 行政手続法の法文だけだとイメージしにくいため、時事ネタを絡めます。

 2021年の5月現在では緊急事態宣言も延長され、コロナウイルス変異株が猛威を奮っていますね。

コロナウイスルの感染防止対策としてマスクの着用などが呼び掛けられていますがこれらに対し行政指導の中止等の求めが可能なのかという疑問が生まれそうです。しかし、これらに対し「行政指導の中止等の求め」をしても要請が無くなったり中止されることはありません。

 法令に違反する行為と是正を求める行政指導について、ここからは他法令に関連付けて読み解きたいと思います。

新型インフルエンザ等対策特別措置法における行政から個人への「要請」

新型インフルエンザ等対策特別措置法では第三章に新型インフルエンザ等の発生時における措置について定められています。その中でも第24条には都道府県対策本部長の権限についてが定められており、個人への感染防止対策について必用な協力の要請を行うことが出来る根拠はココになります。

新型インフルエンザ等対策特別措置法 第24条第9項

都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。

相手方が存在する行政指導として成立するか

 この個人への必要な協力の要請が「行政指導の中止等の求め」の対象なのかどうかは行政手続法から読み解きます。

 行政指導は行政手続法第2条に「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。」と定められています。

 ここでのポイントは行政指導とは「特定の者」への指導、勧告、助言その他の行為です。

 行政指導とは、役所が、特定の人や事業者などに対して、ある行為を行うように(又は行わないように)具体的に求める行為(指導、勧告、助言など)をいいます。

 行政指導は処分ではないので、特定の人や事業者の権利や義務に直接具体的な影響を及ぼすことはありません。

 つまり「行政」対「特定の者」が前提となるため、広く一般的な感染症予防対策を呼び掛けることは「行政指導」とは呼べ無さそうというのが1つ目の理由です。

違法行為に対しての是正指導があったのか?

「マスクを着用して下さい!」

「屋内への入場時にはアルコールで手指消毒を!」

 これらのような要請内容は感染予防対策への一般的な協力の呼びかけであり、これらをしなかったから「違法」であるとは言えないですよね。

つまり、違法行為を理由としていないこと。これが2つ目の理由となります。

余談ですが、まん延の防止に関する措置(感染を防止するための協力要請等)に関しては、興行場その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができ、従わない場合はそれを理由として命令、公表に移行できます。

この場合、要請に従わないという事を違法行為と捉えている訳ですね。

まとめ

  1. 特定の対象者が法令に違反する行為によって
  2. 行政機関から違反行為に対する是正を求める行政指導があった

「行政指導の中止等の求め」の対象はこの2つの条件が大きく関与していることが分かったと思います。行政指導や処分については査察業務や違反処理において理解を深める事が重要です。

また、消防同意については確認申請における建築主と建築主事等、消防機関それぞれの関係性についての理解も大切であり、この構造の理解は「行政指導の中止等の求め」の対象とならない事と直結しますね。

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