高濃度エタノールの消毒効果と消防法、強いお酒を多量に貯蔵するなら60~66vol%を選択すべき理由!

危険物関連

コロナウイルスの感染拡大に伴って手指消毒用のエタノールが全然買えないよ!

高濃度のお酒でも消毒効果があるって聞いたけど本当!? 本当ならどれぐらいの濃度のお酒が消毒効果を有するの? 少し備蓄しようと思うんだけど消防法の規制についても教えて!

コロナウイルスの感染拡大に伴い、手指消毒用のエタノールの需要が非常に高まっていますが、市場ではなかなか手に入りません。厚生労働省では医療機関においても高濃度エタノール製品を手指消毒に用いる際は、使用者の責任において使用することを認める通知文書が発出されており、一定の消毒効果が期待されます。しかし、高濃度のエタノールは消防法に定められる危険物に該当する可能性が高く、貯蔵量や貯蔵方法についても一定の規制を有します。この記事では、高濃度エタノールについての消防法目線での引火性という危険性と医療目線での消毒効果について分かり易く解説します。

消防法の危険物に該当せず、消毒効果もある濃度は60~66vol%!

結論から分かり易く解説すると、引火性について消防法の危険物として規制を受けるエタノール濃度は67vol%以上の濃度のものです。また、消毒効果があるとされ、手指消毒の効果に期待されるエタノール濃度は60~83vol%であり、濃すぎでも薄すぎても効果はありません。家庭用として高濃度のお酒を消毒用として数本購入する分には消防法規制のことをあまり考える必要は無いかもしれませんが、引火性という危険性については留意しておく必要があります。さらには危険物に該当すると貯蔵量や貯蔵環境についても規制されるため注意が必要です。

消防法の危険物に該当せず、消毒効果もある濃度は60~66vol%という理由について以下詳しく解説していきます。

高濃度エタノールは引火性液体に該当する!

消防法の規制を受ける高濃度エタノールの濃度

高濃度エタノールは消防法別表第一において第4類/引火性液体/アルコール類に区分されています。

アルコール類とは、一分子を構成する炭素の原子の数が一個から三個までの飽和一価アルコール(変性アルコールを含む。)をいい、組成等を勘案して総務省令で定めるものを除くとされており、危険物の規制に関する規則第1条の3第4項にて次のように低濃度のアルコール等が除かれています。

危険物の規制に関する規則 第1条の3第4項(品名から除外されるもの)

法別表第一備考第十三号の組成等を勘案して総務省令で定めるものは、次のものとする。

  1. 一分子を構成する炭素の原子の数が一個から三個までの飽和一価アルコールの含有量が60%未満の水溶液
  2. 可燃性液体量が60%未満であつて、引火点がエタノールの60%水溶液の引火点を超えるもの(燃焼点(タグ開放式引火点測定器による燃焼点をいう。以下同じ。)がエタノールの60%水溶液の燃焼点以下のものを除く。)

なるほど、では高濃度のお酒はアルコール類として消防法の規制を受けるのか!

でも、お酒に表記される「アルコール度数60%」は危険物に該当しませんよ。なぜならば、消防法上のアルコール類は、重さで考えたときの濃度(重量%。wt%)が 60%以上のものが該当します。酒造等において一般的に使用される「アルコール度数〇〇%」は体積で考えたときの濃度(容量%。vol%)であり、消防法の規制の考え方とは異なるため注意が必要です。体積で考えたときの濃度においては、概ね 67 容量%(vol%)以上が消防法上のアルコール類に該当します。

高濃度エタノールの引火性

消防法で規制を受けるアルコール類は引火性液体です。文字通り引火性を有しており、気体比重は空気より重いことが特徴です。また、アルコールは燃焼すると炎の色は青白く、日中の時間帯や照明によっては燃焼していることに気付きにくい点も注意が必要です。

よくある行動例としては帰宅後にアルコールで手指消毒を行い、乾燥する間もなくコンロで調理を始めた時に、乾燥していない部分や衣類に残ったアルコールに引火し着衣着火してしてしまいます。調理を始める時はアルコール類がしっかり乾燥してから行いましょう!

参考:エタノール(100%)の性質 引火点 13℃、沸点 78℃

高濃度エタノールの指定数量

忘れてはいけないのがこの「指定数量」です。67vol%以上が消防法上のアルコール類に該当すると説明しましたが、規制対象になると、貯蔵数量にも気を付ける必要があります。

指定数量は危険物の規制に関する政令別表第3に定められており、アルコール類は400ℓです。

400ℓ = 指定数量1

指定数量以上の危険物は、貯蔵所以外の場所でこれを貯蔵し、又は製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所でこれを取り扱つてはならない(消防法第10条)とされており、貯蔵所や製造所、取扱所とするためには市町村長等の許可が必要になります。

指定数量未満の規制

では、指定数量未満であれば何でもアリかと言うとそうでもありません。各市町村条例により指定数量未満の危険物の取り扱いや貯蔵についても定められています。

まずは危険物全般について一般的な取り扱い方法についてです。「危険物」とされているため当たり前と言えば当り前の内容となっていますが、一応一通り目を通してください。

火災予防条例(例)より (指定数量未満の危険物の貯蔵及び取扱いの基準)

法第九条の四の規定に基づき危険物の規制に関する政令(昭和三十四年政令第三百六号)で定める数量(以下「指定数量」という。)未満の危険物の貯蔵及び取扱いは、次の各号に掲げる技術上の基準によらなければならない。

  1. 危険物を貯蔵し、又は取り扱う場所においては、みだりに火気を使用しないこと。
  2. 危険物を貯蔵し、又は取り扱う場所においては、常に整理及び清掃を行うとともに、みだりに空箱その他の不必要な物件を置かないこと。
  3. 危険物を貯蔵し、又は取り扱う場合においては、当該危険物が漏れ、あふれ、又は飛散しないように必要な措置を講ずること。
  4. 危険物を容器に収納して貯蔵し、又は取り扱うときは、その容器は、当該危険物の性質に適応し、かつ、破損、腐食、さけめ等がないものであること。
  5. 危険物を収納した容器を貯蔵し、又は取り扱う場合においては、みだりに転倒させ、落下させ、衝撃を加え、又は引きずる等粗暴な行為をしないこと。
  6. 危険物を収納した容器を貯蔵し、又は取り扱う場合においては、地震等により、容易に容器が転落し、若しくは転倒し、又は他の落下物により損傷を受けないよう必要な措置を講ずること。

上記の規制は危険物であれば酒瓶1本からでも対象となります。

次に規制強化されるのは指定数量の1/5以上になってからです。アルコール類で言えば80ℓ以上400ℓ未満の範囲です。この範囲の数量の危険物を屋内に貯蔵等する場合は不燃材料や防火戸等で区画する必要があり、そのまま山積みに置くことができません。

火災予防条例(例)より (指定数量の五分の一以上指定数量未満の危険物の貯蔵及び取扱いの技術上の基準等)

指定数量の五分の一以上指定数量未満の危険物を屋内において貯蔵し、又は取り扱う場所の位置、構造及び設備の技術上の基準は、次のとおりとする。

  1. 壁、柱、床及び天井は、不燃材料で造られ、又は覆われたものであること。
  2. 窓及び出入口には、防火戸を設けること。
  3. 液状の危険物を貯蔵し、又は取り扱う床は、危険物が浸透しない構造とするとともに、適当な傾斜をつけ、かつ、ためますを設けること。
  4. 架台を設ける場合は、架台は不燃材料で堅固に造ること。
  5. 危険物を貯蔵し、又は取り扱うために必要な採光、照明及び換気の設備を設けること。
  6. 可燃性の蒸気又は可燃性の微粉が滞留するおそれのある場合は、その蒸気又は微粉を屋外の高所に排出する設備を設けること。

屋外に貯蔵するとしても次のような専用貯蔵庫が必要になってしまいます。


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高濃度エタノールの消毒作用

手指消毒用エタノールの不足により、厚生労働省から高濃度エタノールを代替使用しても差し支えないことが通知されています。

さらに、酒税法(昭和 28 年法律第6号)に規定する酒類製造者又は酒類販売業者のいずれかから購入した場合は、当該製品が以下の要件を満たすこと確認することとされています。

高濃度エタノールを酒類製造者又は酒類販売業者から購入する場合の要件
  1. エタノール濃度が原則 70~83vol%の範囲内であること(消毒効果が十分に得られるよう、より高濃度のものは精製水等で同範囲に薄めて使用するれるよう、より高濃度のものは精製水等で同範囲に薄めて使用すること。なお、新型コロナウイルスに対して、60vol%台のエタノールによる消毒でも一定の有効性があると考えられる報告等があることを踏まえ、70vol%以上のエタノールが入手困難な場合には、手指消毒用として、60%台のエタノールを使用しても差し支えないこと。)。
  2. 含有成分に、メタノールが含まれないものであること。

エタノール濃度が70~83vol%の範囲内であることを推奨していますが、コロナウイルスに対しては60vol%台のエタノールによる消毒でも効果があるとされています。

濃度が83%を超えるさらに高濃度のものは精製水等で60~83%まで薄めて使用することで消毒効果が得られるとされており、濃ければ濃いほど消毒効果が高いという訳ではないようです。

また、60vol%以上の高濃度エタノールを販売する事業者は、「本製品は医薬品や医薬部外品ではありませんが、消毒用エタノールの代替品として、手指消毒に使用することが可能です。」といった内容を製品の表示や広告等に記載して差し支え無いとしており、インターネットサイトでも既に「手指消毒に使用できます!」といったアナウンスがされています。

強いお酒は手指消毒用エタノールの替わりになるけど…

以上のことから、消防法や火災予防条例の規制を受けず、ある程度の高濃度エタノールを貯蔵したいと考えた時には、60~66vol%を選択することが合理的であることが分かったと思います。

しかし、家庭で数本や数ℓほど保管、使用するのに留まるのであれば、消毒効果を有する60~83vol%の範囲内であれば問題ありませんね。事業所等である程度の数量を備蓄することを考えている場合は消防法規制についても注意して下さい。

上記に挙げた強いお酒は手指消毒用エタノールの替わりとして消毒に使う事ができますが、同時にお酒として飲むことが可能です。

何が言いたいかと言うと… 酒税が課せられているのです!

これについても国税庁酒税課から通知が発出されており、5月1日以降出荷する「高濃度エタノール製品」に該当する酒類のうち、一定の要件を満たしたものを酒税法上の不可飲処置が施されたものとして承認するとしています。

つまり、酒税が課せられない訳です。

現状では高濃度アルコールの強いお酒を購入すると販売価格の中に酒税が含まれています。

これに、お酒として飲めない不飲化処理を施すと、お酒では無くなる扱いとなり、酒税が課せられなくなります。

主な承認条件は次の3点になります。

厚生労働省が臨時的・特例的な対応として「高濃度エタノール製品」の取扱いを定めている間の承認要件
  • 厚生労働省が定める取扱いに従って、手指消毒用エタノールの代替品として使用されるものであること
  • 製造・販売に関して、都道府県等の衛生主管部(局)及び市町村の消防本部に相談し、その指示・指導等に従うこと
  • 容器に「飲用不可」の表示や、販売先を管理するための番号等の表示を付すこと

※この承認は、令和2年5月1日以降に出荷する製品が対象となります!

5月中旬から6月以降は、不飲化され酒税の課せられない高濃度アルコールが入手できるかもしれませんね。このような代替エタノールを使用せざるを得ない状態ですので手指消毒用の噴霧容器は捨てずに残しておきましょう!

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