立入検査に行くと収容人員が明らかに少ないのに避難器具が設置されていることってあるよね。あれって自主設置?撤去したいって相談があったらどうしよう?
階段の必要な本数と避難器具の関係を建築基準法に基づく視点から教えてほしい!
避難器具の設置基準は何に基づいて設置義務が生じているかご存じですか? 消防法に基づいて指導していると、明らかに収容人員が少ないのに避難器具が設置されていることってありますよね。任意設置かなって考えがちですが、建築基準法令で設置根拠があるかもしれません。
消防法に基づく避難器具の設置要件と建築基準法に基づく避難上有効なバルコニーとして設置される条件を法文と簡単な図で解説します!
避難器具=消防法 だけではない! 建築基準法に基づく避難器具との違いは?
消防法令に基づく避難器具の設置基準は何に基づいて設置義務が生じているかご存じですか?
答えは用途と収容人員ですね。
しかし、立入検査や消防同意審査で指導していると、明らかに収容人員が少ないのに避難器具が設置されていることってありますよね。
設置されている分には法令違反ってこともありませんが、もし、そんな避難器具が消防法17条の3の3に基づく点検がされていなかったら立入検査で指摘はしますか?
実は、その避難器具は消防法に基づく消防用設備等では無いかもしれません。
消防法に基づく避難器具の設置要件と建築基準法に基づく設置要件を解説します!
避難器具の設置義務、消防法施行令第25条第1項を各号ごとに解説!
消防法に基づく避難器具は消防法施行令第25条第1項に定められています。第1項では避難器具の設置の要否について、第2項では設置される避難器具の種別と個数について定められています。どの条文で設置義務が生じているかが重要になるため、「第1項の〇号の避難器具」といったように根拠を考えるように心掛けましょう!
もちろん知っているかもしれませんが、避難器具の設置義務は避難階と11階以上の階は除かれていることを忘れないようにしてください!
第1号 (6)項に掲げる防火対象物の2階以上の階又は地階
第1号は6項についての避難器具です。2階以上の階(又は地階)に6項があり、かつ、その部分での収容人員が20人以上の場合に避難器具の設置義務が生じます。
さらに、用途の組み合わせでも規制強化の可能性が有り、下階に1項から4項まで、9項、12項イ、13項イ、14項又は15項があれば10人以上で避難器具の設置義務が生じます。
第2号 (5)項に掲げる防火対象物の2階以上の階又は地階
第2号は5項についての避難器具です。2階以上の階(又は地階)に5項が有り、かつ、その部分での収容人員が30人以上の場合に避難器具の設置義務が生じます。
さらに、用途の組み合わせでも規制強化の可能性が有り、下階に1項から4項まで、9項、12項イ、13項イ、14項又は15項があれば10人以上で避難器具の設置義務が生じます。規制強化に関しては第1項と同様ですね。
面白いことに5項イと5項ロが分けられていませんね。就寝施設として同等の火災危険や逃げ遅れのリスクがあると考えるためです。
第3号 (1)項から(4)項まで及び(7)項から(11)項までに掲げる防火対象物の2階以上の階又は地階
第3号は1項~4項、7項~11項についての避難器具です。2階以上の階(又は地階)に当該用途が有り、かつ、その部分での収容人員が50人以上の場合に避難器具の設置義務が生じます。
しかし忘れてはいけないのが耐火構造での規制緩和であり、主要構造部を耐火構造とした建築物の2階は避難器具の設置は不要となります。この構造による2階の設置免除は第3号だけです!
第4号 別表第一(12)項及び(15)項に掲げる防火対象物の3階以上の階又は地階で、収容人員が、3階以上の無窓階又は地階にあつては100人以上、その他の階にあつては150人以上のもの
第4号は12項及び15項についての避難器具です。3階以上の階に当該用途が有り、かつ、その部分での収容人員が150人以上の場合に避難器具の設置義務が生じます。しかし、無窓階及び地階だけは規制がやや厳しくその部分での収容人員が100人以上で避難器具の設置義務が生じます。
ここまで読んでピンときた方もいると思いますが、1~4号では14項についての記載はありませんでしたね。もともと収容人員の算定方法も従業員数であるため無人倉庫や小規模倉庫は避難器具の設置義務は生じにくいと考えられます。
第5号 前各号に掲げるもののほか、別表第一に掲げる防火対象物の3階以上の階のうち、当該階から避難階又は地上に直通する階段が2以上設けられていない階で、収容人員が10人以上のもの
1号から4号に該当しない場合でも第5号で設置義務が生じる場合があります。第5号は3階以上で1階段、収容人員10人が設置の条件になります。注意点は1階段であって、特定1階段ではありませんよ。
さらに、3階が条件と書きましたが、2階に2項又は3項がある場合は2階が条件に規制強化されます。
具体的には下図のようになります。当該階に総務省令で定める避難上有効な開口部を有しない壁で区画されている部分が存する場合はその区画された部分ごとに階段数を算定します。1階段なら第5号が適用されます。
建築基準法に基づく避難器具の設置要件は≪建基令121条での2つの要件≫と≪H27国交告255号での2つの要件≫の合計4つ!?
ここからが建築基準法令に基づく内容となります。建築基準法施行令第121条では2以上の直通階段を設ける事が定められています。同時に、その2本以上の直通階段の代わりに、避難上有効なバルコニーを設けることができるとも記載されています。
建基令121条での建築基準法に基づく避難器具とは、この避難上有効なバルコニーに設置される避難器具の事であり、それが認められる条件はたったの2つです!
- キャバレー、カフェー、ナイトクラブ又はバー等の用途に供する階が五階以下の階であり、その階の居室の床面積の合計が100㎡(※200㎡)を超えない!
- 6階以上の階で第1号~第4号までに掲げる用途(建築基準法による用途)に供する階以外の階で、その階の居室の床面積の合計が100㎡(※200㎡)を超えない!
※印は主要構造部が準耐火構造であるか、又は不燃材料で造られている建築物にした場合の倍読み緩和での面積です。
先ほどは階段数についての緩和でしたが、これからは建築基準法27条の緩和についてです!3木学や3木共が可能となるための条件は1時間以上の準耐火構造とする必要があることを平成27年国交省告示第255号で定められています。この中で、建築物周囲通路基準の代わりに、避難上有効なバルコニーを設けることができるとも記載されています。
平成27年国交省告示第255号での建築基準法に基づく避難器具とは、この避難上有効なバルコニーに設置される避難器具の事であり、それが認められる条件はたったの2つです!
- 1時間以上の準耐火構造とする共同住宅の建築物周囲通路基準の代わりに避難上有効なバルコニーを設置する
- 1時間以上の準耐火構造とする学校等の建築物周囲通路基準の代わりに避難上有効なバルコニーを設置する
これらの合計4つが建築基準法に基づく避難器具となります。ではそれぞれの法令根拠を深掘りして見てみましょう!
建基令第121条 二以上の直通階段を設ける場合の代替緩和
建築基準法令第121条の適用要件は用途とその階での居室の床面積が関係することが多いです。それでは各項目を見ていきましょう。
第1号 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂又は集会場の用途に供する階
消防法施行令別表第一で(1)項に区分されるような集会施設が対象です。
第2号 物品販売業を営む店舗の用途に供する階
消防法施行令別表第一では(4)項ですね。
しかし、忘れてはいけないのが「床面積の合計が1500平方メートルを超えるものに限る。」とされています。避難階以外に売り場があり、かつ床面積の合計が1500平方メートルを超えるものがポイントです!
第3号 キャバレー、カフェー、ナイトクラブ又はバー等の用途に供する階
次に掲げる用途に供する階でその階に客席、客室その他これらに類するものを有するものには原則2以上の直通階段が必用になります。
- キャバレー、カフェー、ナイトクラブ又はバー
- 個室付浴場業その他客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業を営む施設
- ヌードスタジオその他これに類する興行場(劇場、映画館又は演芸場に該当するものを除く。)
- 専ら異性を同伴する客の休憩の用に供する施設
- 店舗型電話異性紹介営業その他これに類する営業を営む店舗
消防法施行令別表第一では(2)項に区分されるような用途が並びます。
ついに避難器具の話です!原則2以上の直通階段としたのは理由があります。
「その階の居室の床面積の合計が100平方メートルを超えず」と「5階以下」の条件をクリアすれば避難上有効なバルコニー等で2本目の階段を代替できます!
建築基準法に基づく避難器具とは、この避難上有効なバルコニーに設置される避難器具の事です!
でも、絶対忘れてはいけない条件として設置される1つの階段は屋外避難階段か特別避難階段とする必要があります!
第4号 病院若しくは診療所又は児童福祉施設等の用途に供する階
消防法施行令別表第一で(6)項に区分される用途ですね。第4項も居室面積が重要になり、病院若しくは診療所の用途に供する階でその階における病室の床面積の合計又は児童福祉施設等の用途に供する階でその階における児童福祉施設等の主たる用途に供する居室の床面積の合計が、それぞれ50平方メートルを超えるものには2以上の直通階段が必用になります。
第5号 ホテル、旅館、下宿、共同住宅の用途に供する階
消防法施行令別表第一で(5)項に区分される用途です。ホテル、旅館若しくは下宿の用途に供する階でその階における宿泊室の床面積の合計、共同住宅の用途に供する階でその階における居室の床面積の合計又は寄宿舎の用途に供する階でその階における寝室の床面積の合計が、それぞれ100㎡超えるものは2つの直通階段が必用です。
ホテルは宿泊室、共同住宅は居室、寄宿舎は寝室と用途の危険性と比例するように対象も変化していることが分かりますね。
第6号 前各号に掲げる階以外の階
6階以上と5階以下で基準が異なります。
イ 六階以上の階でその階に居室を有するもの
6階以上に居室がある場合は原則2以上の直通階段が必用になります。しかし、「第一号から第四号までに掲げる用途に供する階以外の階で、その階の居室の床面積の合計が100平方メートルを超えず、かつ、その階に避難上有効なバルコニー、屋外通路その他これらに類するもの及びその階から避難階又は地上に通ずる直通階段で第百二十三条第二項又は第三項の規定に適合するものが設けられているものを除く。」とされており、第3号と同じような考え方です。
第一号から第四号(建築基準法での用途)以外の用途で居室の床面積が100㎡以下、かつ避難上有効なバルコニー等を設けた場合は2以上の直通階段が緩和されます。
ロ 五階以下の階でその階における居室の床面積
階の用途は関係なく、居室面積が規制対象となります。
五階以下の階でその階における居室の床面積の合計が避難階の直上階にあつては200平方メートルを、その他の階にあつては100平方メートルを超えるものは2以上の直通階段が必用になります。
第2項 主要構造部による倍読み規定
主要構造部が準耐火構造以上であるか、又は不燃材料で造られている建築物は今まで説明した居室の基準となる面積が2倍に緩和されます。
平成27年国交省告示第255号に基づく1時間準耐火構造での建築物周囲通路基準
建築基準法第27条では3階部分に共同住宅や学校等の用途が入る場合は耐火建築物等にする必要がありますが、平成27年国交省告示第255号で建築物の周囲通路基準を満たしたものは1時間の準耐火構造とすることができるとされています。しかし、この建築物の周囲通路基準というものが厄介で、建築物の周囲に3m以上の幅員を有する通路を設ける事が定められています。この3m通路を緩和する条件の1つに「各宿泊室等に避難上有効なバルコニーその他これに類するものが設けられていること」があることで建築基準法上必要な避難器具が設置される訳です。
告示 | 建築物の区分 | 主要構造部等 | 外壁の開口部 |
第1第一号 | 法第27条第1項第二号 | 準耐火構造等 | 両面20分防火設備 |
第1第二号 | 3階建ての共同住宅 | 1時間準耐火基準 建築物周囲通路基準 | 両面20分防火設備 |
第1第三号 | 3階建ての学校等 | 1時間準耐火基準 建築物周囲通路基準 | 両面20分防火設備 |
第1第2項 | 告示第1第一号〜第三号以外 | 耐火構造等 | 両面20分防火設備 |
おわりに
同じ避難器具でも設置根拠が大きく違う事を理解できましたか? 避難器具≠消防用設備等という認識が重要で、常に収容人員を意識した立入検査が必用になります。消防法第17条の3の3で対象となる避難器具は消防用設備等である必用があるため、建築基準法が設置根拠となる避難器具は点検報告義務は生じません。しかし、利用者の安全を考えるとイザという時使えない避難器具は設置されていないのと同様であるため維持管理を強くお願いすることが大切なポイントであると考えます。
忘れるところでしたが、中高層建築物事前協議で避難器具の設置を指導することもありますね。各市町村により設置基準が異なるため、この際一度確認してみてはどうでしょうか!?
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