建築基準法改正により構造規制が細分化、次の時代の消防活動を考察!

大部分が木造であることが分かる建築物 建築基準法関係

令和元年6月25日に改正建築基準法が施行されたね。木造建築物の促進により、消防への影響はあるのかな?

今後の消防活動で注意すべきポイントや建築基準法の改正内容を分かり易く教えて!

平成30年6月27日に改正建築基準法が公布され、令和元年6月25日に施行されました。建築物の主要構造部の木造化が進むことで消防機関はこれからの時代をどう対応するのか、消防戦術は今のままで良いのか?筆者の経験と視点から建築基準法と今後の消防活動を考察します。

改正建築基準法について、消防に関連度の高い内容を解説!

建築確認を要しない特殊建築物の範囲の拡大 第6条第1項1号

建築基準法別表第1(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物のうち確認を要するものを、当該用途に供する部分の床面積の合計が現状の100㎡を超えるものから200㎡を超えるものに変更(規制緩和)されます。用途変更についても緩和されるため、一般住宅からの改装や用途変更であれば多くが確認不要となります。

新築に関してももちろん影響はあります。

なじみが無く、イメージしにくいかもしれませんが150㎡ほどの平屋建てコンビニであれば従来消防同意は7日以内に同意を与えていましたが、現在は3日以内に同意を与える必要があります。

既に詳しく解説した記事がありますので気になる方はこちらをどうぞ!

木造建築物等の耐火性能について「通常火災終了時間」という新たな概念が導入! 第21条第1項関係

次のいずれかに該当する建築物(主要構造部の一部又は全部が可燃物を用いたものに限る)はその主要構造部を通常火災終了時間が経過するまでの間、当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために必要な性能を有すること。

  1. 地階を除く階数が4以上である建築物
  2. 高さが16mを超える建築物
  3. 建築基準法別表第1(い)欄5項又は6項に掲げる用途に供する特殊建築物で高さ13mを超えるもの

新しい考え方である「通常火災終了時間」とは、建築物の構造、建築設備及び用途に応じて通常の火災が消火の措置により終了するまでに通常要する時間のことです。ポイントは消火の措置によりという点で、これは消防隊が消火活動を適切に実施し消火することが前提の考え方です。つまり、消火活動がされない場合は主要構造部までもが燃焼し倒壊します。

さらには、ただし書きがあり、その周囲に延焼防止上有効な空地で政令で定める技術的基準に適合するものを有する建築物についてはこれを要しないとしています。

木造化を推進するものであり、仮に火災で建物が倒壊したとしても周囲への影響が少なければ耐火建築物としなくても良いようになっています。

耐火建築物以外のものを火災時対策建築物と言い、通常火災時間終了に基づく構造である火災時対策準耐火構造とする必要があります。

木造建築物等である特殊建築物の外壁等に関する規制の廃止 第24条関係

すでに施行されている部分です。通称22条地域と言われる、防火地域や準防火地域以外で指定される区域内の木造建築物等である一定の特殊建築物について、その外壁及び軒裏で延焼のおそれのある部分を防火構造としなくてはならないとされてきましたが、今回改正で廃止されています。

これは法23条で木造建築物の外壁で延焼のおそれのある部分には準防火性能(20分間)が求められている状態は変わらない事と、昭和36年当時に比べ消防力が向上したため廃止しても十分に延焼の防止という目的は達成されると考えられています。

しかし延焼防止の観点で話をするならば、昭和36年当時に比べ交通量は大幅に増えています。現場到着から延焼防止筒先の配備までは、より効率的に実施する必要がありそうです。しかしこれは小規模な特殊建築物に限った話ですので、従来の木造一般住宅への考え方を拡大させても問題ないかもしれません。前向きに考えるならば、消防機関の活動はそれだけ進歩が認められている!ということにしておきましょう。

特定避難時間倒壊等防止建築物から避難時対策建築物へと 第27条第1項

建築物内部の避難経路の状況に不案内な不特定の者が利用する用途や、一斉避難に支障をきたすような多数の者が利用する用途においては、火災が発生した場合に在館者の避難が困難になるおそれがあることから、早期に建築物が「倒壊」することや、避難経路の利用を制限するような「内部延焼」を防止することの観点です。この観点は平成26年の法改正で先行して実現していますね。その時は「特定避難時間倒壊等防止建築物」として登場しています。現行告示で木3共や木3学が1時間準耐火として建築できますね。

耐火建築物以外のものを避難時対策建築物と言い、特定避難時間に基づく構造である避難時対策準耐火構造とする必要があります。

建築基準法第27条では一定規模以上の特殊建築物は在館者が避難するまでの間倒壊しない構造としなくてはならないとされていましたが、階数が3以下で延べ面積が200㎡未満のものは除かれるようになります。

小規模な建築物の耐火要件が緩和され、民泊の推進を狙っているように感じますね。しかし、3階を法別表第1(い)欄(2)項のような宿泊用途は自火報や特定小規模自火報の設置が必要です。消防法での特定用途になる場合は特定1階段等防火対象物の規制で自火報が義務となりますが、2階段があったり、特定用途以外が3階にある場合は建築基準法として設置が必要な「自火報、特小自火報」の設置が必要になります。検査についても建築指導部局や指定確認検査機関はするのでしょうか…

整理された考え方「延焼防止建築物」と「準延焼防止建築物」 第61条

防火地域又は準防火地域内にある建築物はその開口部で延焼のおそれのある部分に防火設備その他政令で定める防火設備を設け、かつ、壁、柱、床その他建築物の部分及び当該防火設備を通常の火災による周囲への延焼を防止するためにこれらに必要とされる性能を防火地域又は準防火地域に応じたものにする必要があります。これに関しては規制強化も緩和も無く、考え方が整理されただけと考えても問題ありません。

防火地域や準防火地域の建築物については、1棟1棟の建築物火災が繰り返されることによって市街地全体の大規模火災へと拡大するおそれがあることから、隣接する建築物からの貰い火による延焼や、自らが火災建築物となった場合の隣接する建築物への延焼などの建築物間の「外部延焼」を防止することの観点です。

延焼防止時間という考え方で、「通常の火災による周囲への延焼を防止するための性能」についての時間を従来の防火地域や準防火地域に応じて整理されています。

耐火建築物相当の延焼防止時間を有する建築物を「延焼防止建築物」とし、準耐火建築物相当の延焼防止時間を有する建築物を「準延焼防止建築物」と定めています。

耐火建築物相当の延焼防止時間を有する建築物  → 「延焼防止建築物」

準耐火建築物相当の延焼防止時間を有する建築物 → 「準延焼防止建築物」

消火活動への影響 消火戦術の変化が必用なのか?

都心部に関しては、耐火構造が十分条件としての考え方から変化したとしても、それぞれの観点を満たすために耐火構造しか選択肢が無い状態となります。しかし、地方はそれと異なり、立地の観点が欠けている可能性が高いです。立地の観点とは防火地域や準防火地域といった建築基準法第61条の観点です。立地の観点が欠けると法22条地域の規制のみとなるため、耐火構造ではなく、火災時対策建築物と避難時対策建築物の両者の基準のみを満たす建物が可能になるわけです。

近年我々は糸魚川の市街地火災で学びました。消防力を上回るような火災拡大要因があれば現代の消防力であっても市街地大火となり得ることを…

市街地(22条地域)の木造化が促進されるという事は、一度でも消火の措置が機能することが出来なければ、主要構造部までもが燃焼し市街地大火へと延焼拡大する可能性があることを消防機関は改めて認識すべきと感じます。

燃焼建物への消火活動の考え方

耐火建築物での消火活動について考えると、従来通りの耐火構造は燃焼終了後も建物が倒壊しない事を法令基準で定めていますね。準耐火構造では燃焼中は耐火構造と同様の非損傷性、遮熱性、遮炎性を有していますが加熱想定時間である45分(60分)経過後は異なります。

準耐火構造では想定される加熱時間を超過後には建物の倒壊防止等は定められておらず、保証されていません。今後設計可能となる「燃えしろ設計」による主要構造部は予め要求時間分の木材が燃える事を計算に入れ、残った部分で要求時間を耐えうることを考えています。

つまり「燃えしろ設計」とは柱等の周囲は燃えて炭化することが前提となっていますが、それと同時に消火隊による適切な消火の措置も前提となっています。もちろん予め設定した要求時間以上燃焼が続けば建物の倒壊危険は急激に高まっていきます。

法改正を踏まえた消火戦術へのポイント 

1、 構造の早期把握

一般住居であれば木造建築物であることを念頭に入れて活動を行うことが多いですが、複数階層の防火対象物ならそうとは限りません。

3階建ての飲食店ビルで火事だ!と指令が鳴れば、耐火建築物や竪穴区画がイメージされるものです。しかし、今後はこんなビルが木造の可能性もあります。燃えしろ設計ならば、さらに建物内部の可燃物量が多いため燃焼速度も変わってきます。指令情報時や早期に構造を把握できる体制作りが重要と思いませんか。

2、構造が木造と判明すれば最低基準である45分を目安とした活動

今回改正で特定避難時間や通常火災終了時間に基づき建築物の倒壊しないような時間が設計されています。しかし、スプリンクラー等の設置があれば、階層に基づく想定時間が緩和されるため、出動した消火隊が「この建物は○○分間は倒壊しない!」という判断をできる可能性は非常に低いです。ならば最悪の事を想定し、最低基準である45分を目安とした活動を考えるべきです。

燃焼開始から45分が経過すれば建物の倒壊危険が高まります。建物が倒壊すれば、内部で活動する消火隊は甚大な被害を負うとともに、倒壊による周囲への被害や外部延焼の危険性も高まります。

45分という最低基準経過後には退避命令や延焼防止筒先への切り替え判断が求められます。

3、活動完了後も注意! 火災調査は燃焼時間を考慮して安全を確保!

我々消防隊の活動は消火で終わりではありませんよね。消火の次は「なぜ火災が発生し、拡大したのか」という火災の原因調査を行います。準耐火構造であれば燃焼時間経過後の倒壊等への危険性へは基準が定められていません。つまり、調査を行うにあたり、倒壊する危険性を有しているかの判断は非常に重要です。燃焼継続時間をとらえ、総合的に安全を確保してから調査に取り掛かりましょう。

おわりに

今回の建築基準法改正で木造化が推進されることは止められない流れだと思います。消火活動の根幹の部分は当時の「8分消防戦略」と大きく変わろうとしています。まずは延焼防止!という考え方では内部燃焼を止めることはできず、結果倒壊からの延焼拡大の危険性が高まります。消防隊の屋内進入能力を向上させ、内部燃焼を45分以内に完結させること。これが筆者の考える新たな消防基本戦術です。屋内進入する消火隊、屋内進入させる指揮隊ともに大きな勇気が必要です。10年から20年で建物の状況は変わります。時代とともに消防も変化が求められているのかもしれません。

消防業務の根幹である火災予防と現場対応、このどちらもが今注目されています!

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チャレンジ問題1

建築基準法第2条に記載される主要構造部に該当しないものを1つ選べ。

  1. 最下階を除く床
  2. はり
  3. 屋根
  4. 屋外階段
クリックして答えを見る。
答え 4 屋外階段は主要構造部から除かれる。
チャレンジ問題2

建築基準法に基づく用語の定義について誤っているものを1つ選べ。

  1. 耐火性能とは通常の火災が終了するまでの間当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止 するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。
  2. 準耐火性能とは通常の火災が終了するまでの間当該火災による建築物の倒壊及び延焼を抑制するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。
  3. 通常火災終了時間とは建築物の構造、建築設備及び用途に応じて通常の火災が消火の措置により終了するまでに通常要する時間をいう。
  4. 延焼防止時間とは建築物が通常の火災による周囲への延焼を防止することができる時間をいう。
クリックして答えを見る。
答え 2 正しくは準耐火性能とは通常の火災による延焼を抑制するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。 (1及び2は建築基準法第2条参照 / 3は建築基準法第21条参照 /4は建築基準法施行令第136条の2 第1号ロ参照)

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