消防法第4条に定められる立入検査権、資料提出命令、報告徴収を深掘り!

消防隊員とガンタイプノズル 査察、違反処理実務

消防法第4条といえば消防の立入検査権のことだよね! 立入検査権や質問権については何となく分かっているけども、他の2つの権利についてはイマイチ…

立入検査権拡大の前後についても知りたい!

そうそう、防災管理者未選任等の防災関連の違反を理由に立入検査権は行使できるの?

この記事では消防法第4条について、新宿歌舞伎町雑居ビル火災を契機とする改正の前後を比較するとともに、定められる4つの権利について分かり易く解説します。その結果、消防法第4条への理解が深まり、上記のような疑問についても解決します!

消防法4条の法改正前はいろいろと制約が多かった… 消防法4条についての改正前後を解説!

消防法第4条は新宿歌舞伎町の雑居ビル火災を契機として大きく権利拡大されたことはご存じかと思います。しかし、当時の法改正から20年近くが経っているため過去の制約を経験していた職員はかなり減っていると思います。令和元年の現在に査察業務を行うあなたが過去の法令と見比べたら「これだけ権利拡大されていたのか!」と驚くと思いますよ。

法改正により撤廃された制約をご覧ください!

時間的制約が完全撤廃! 昔は営業時間や日没までが条件だった!?

【旧】消防法第4条第2項ではその場所の公開時間内又は日出から日没までの時間、営業時間内にしか原則立入検査権や質問権を行使できないとされていましたが、現在は撤廃されています。

【旧】消防法第4条第2項

前項の規定による立入及び検査又は質問は、左の各号に定める区分に従い当該各号に定める時間内に行わなければならない。但し、山林に立ち入って検査又は質問する場合当該舟車、船きよ若しくはふ頭に繋留された船舶又は建築物その他の工作物の関係者の同意を得た場合及び火災発生の恐れが著しく大であるため、特に緊急の必要がある場合は、この限りでない。

 興行場、百貨店、旅館、飲食店その他公衆の出入する場所で市町村条例の指定するものについてはその場所の公開時間内又は日出から日没までの時間。

 工場、事業場その他多数の者の勤務する場所で市町村条例の指定するものについては、その場所の従業時間内。

 前二号に規程する以外の場所(個人の住居は関係者の承諾を得なければならない。)については、日出から日没までの時間。但し、特に緊急の必要がある場合又は四十八時間以前にその旨をその場所に在る舟車、船きよ若しくはふ頭に繋留された船舶又は建築物その他の工作物の関係者に通告した場合に限る。

事前通告についても完全撤廃!

事前通告に関しては特に緊急の必要がある場合を除いて48時間以内に通告しなければならないという定めもありましたが、これも現在では完全撤廃されています。

そうそう、市町村によっては内部規定で事前通告を実施しない事を定めているところもあります。その市町村の査察員に話を伺ったところ、アポなしでの立入になるため計画していたところの半数近くは断られるらしいです。その代わりにその場で次回の立入日を調整するそうで、調整できなければ対応した相手方の従業員の氏名と断った理由、時間を控えて日を改めるそうです。完全事前通告なしも大変そうですね…

【旧】消防法第4条第3項

前項各号の日出から日没までの時間(第一号及び第二号の場合にあっては、公開時間及び従業時間を除く。)に立入及び検査又は質問をする場合においては、四十八時間以前にその旨を当該関係者に通告しなければならない。但し、前項但書の場合は、この限りでない。

証票を関係者に示すのは求められた場合に緩和! 昔はすべて示していた!?

証票を相手に示す必要性についても緩和されています。昔は立入検査をする際に証票を相手に示していましたが、法改正により、求められた場合に限定されています。

【旧】消防法第4条第4項

消防職員は、第一項の規定により関係のある場所に立ち入る場合においては、市町村長の定める証票を関係者に示さなければならない。

改正のまとめ

消防機関が立入検査を実施するにあたり、時間的な制約や事前通告の撤廃は非常に大きな前進と言えます。拡大された権原の意味とは、消防機関が実施する立入検査による防火安全確保への期待の表れと言えます!

現在の消防法第4条 4つの権利について深掘り!

活動の目的は火災予防のため!

消防法4条で記載されていることと言えば、「立入検査権」、「質問権」、「報告徴収権」、「資料提出命令権」ですね。しかしこれらの権利には大前提があります。

それは、火災予防のために必要があるときは~することができるという点です。

少し脱線しますが、防災管理の対象となる災害は何か知っていますか?

地震毒劇物放射線です!

つまり、防災管理は「火災以外の地震や毒劇物が拡散するような災害」を対象としているため、防災管理違反を理由に消防法4条の権限を行使することはできない!ということです。

具体例としては、防火管理上問題は無いけれども、防災管理点検が未実施である場合については、防災管理点検未実施を理由に立入検査を実施することはできません。実務上はあり得るかもしれませんが、その場合は任意での立入となりますね。

施行令第四十五条(防災管理を要する災害)

法第三十六条第一項の火災以外の災害で政令で定めるもの及び同項において読み替えて準用する法第八条の二の二第一項の火災以外の災害で政令で定めるものは、次に掲げる災害とする。

一 地震

二 毒性物質の発散その他の総務省令で定める原因により生ずる特殊な災害

規則第五十一条の三 令第四十五条第二号の総務省令で定める原因は、毒性物質(化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律(平成七年法律第六十五号)第二条第一項に規定する毒性物質をいう。)若しくはこれと同等の毒性を有する物質の発散生物剤(細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約等の実施に関する法律(昭和五十七年法律第六十一号)第二条第一項に規定する生物剤をいう。)若しくは毒素(同条第二項に規定する毒素をいう。)の発散放射性物質若しくは放射線の異常な水準の放出又はこれらの発散若しくは放出のおそれがある事故とする。

立入検査権と質問権についての注意点

立入検査業務の最終責任者は消防長又は消防署長で、そこに勤務する消防職員をあらゆる場所に立ち入らせ検査や質問をさせることが定められています。注意点は個人の住居に対しての取扱と第2項から第4項です。

さて、問題です。個人の住居は法第4条の対象と思いますか?

正解は法第4条の対象です!

しかしながら、個人の住居の立入検査には制限があり、次の場合に該当する時でなければ立ち入らせてはいけません。

  • 関係者の承諾を得た場合
  • 火災発生のおそれが著しく大であるため、特に緊急の必要がある場合

質問権については、もちろん火災予防のために必要がある内容に限られますよ。間違っても質問権を行使して好みの女性の連絡先を入手しないでくださいね(笑)

消防法第4条 第1項

消防長又は消防署長は、火災予防のために必要があるときは関係者に対して資料の提出を命じ若しくは報告を求め又は当該消防職員(消防本部を置かない市町村においては、当該市町村の消防事務に従事する職員又は常勤の消防団員。第五条の三第二項を除き、以下同じ。)にあらゆる仕事場、工場若しくは公衆の出入する場所その他の関係のある場所に立ち入つて、消防対象物の位置、構造、設備及び管理の状況を検査させ、若しくは関係のある者に質問させることができる。ただし、個人の住居は、関係者の承諾を得た場合又は火災発生のおそれが著しく大であるため、特に緊急の必要がある場合でなければ、立ち入らせてはならない。

2 消防職員は、前項の規定により関係のある場所に立ち入る場合においては、市町村長の定める証票を携帯し、関係のある者の請求があるときは、これを示さなければならない。

3 消防職員は、第一項の規定により関係のある場所に立ち入る場合においては、関係者の業務をみだりに妨害してはならない。

4 消防職員は、第一項の規定により関係のある場所に立ち入つて検査又は質問を行つた場合に知り得た関係者の秘密をみだりに他に漏らしてはならない。

第4項の「秘密をみだりに他に漏らしてはならない」については少しだけ触れておきます。ここでの「みだりに」とは不必要にという意味です。なので、上席に違反の状況を説明したり、火災予防に関する違反を建築部局に連絡することは問題ありません。

しかし、火災予防のためとは関係のない違反については別です。消防機関は火災予防のために立ち入っているため、他の違反については本来知り得ないはずです。

例えば、福祉関連の知識に長けている職員が立入検査で、入居室の面積が足りていないことに気付いたとします。これを福祉関係部局に通報することは本来業務である火災予防のためとは関係のないため消防法第4条の適法性自体が危ぶまれます。たとえ知り得た違反であったとしても、これは関係者の秘密になるわけです。

資料提出命令権での注意点と提出された資料の所有権は?

ここでいう「資料」とは消防法以外を含み法律等で作成することが決まっているものを指します。例えば建築確認申請書や消防設備等点検結果報告書(点検している場合)です。

これらの「資料」を消防機関に強制的に提出させることができますが、注意すべき点はそれらの「資料」の所有権は消防機関に無いことです。紛失等には十分注意して下さい。

報告徴収権での注意点と作成報告されたものの所有権は?

報告徴収では「資料」以外を引き出すことが可能です。具体的には数量がはっきりしない塗料(危険物に該当するもの)について、数量等をまとめて文書で提出させたりすることが可能です。ここで徴収したものの所有権は消防機関へ移ります。

まとめ

  • 消防法第4条で定められる権利は立入検査権、資料提出命令権、報告徴収権
  • 立入検査の事前通報や時間的制約は撤廃された!
  • 立入検査を実施するための要件は火災予防のためであり防災管理とは異なる観点!
  • 資料提出命令で提出される資料の所有権は相手側
  • 報告徴収で提出させた書類等の所有権は消防側

予防技術検定にチャレンジ! 消防法第4条編(問題数6)

チャレンジ問題

次の防災管理についての文章を読み、適当でないものを1つ選べ。

  1. 防災管理の対象となる災害に地震は含まれる。
  2. 防災管理の対象となる災害に『地下鉄サリン事件』は含まれる。
  3. 防災管理者が未選任であることを理由に消防法4条に基づく立入検査を実施することができる。
  4. 消防設備点検結果報告書の届け出時に火災予防上問題があることが発覚したため消防法4条に基づく立入検査を実施した。
クリックして答えを表示する!?
答え 3 →火災予防のためではないため消防法4条に基づく立入検査を実施することはできない。
チャレンジ問題

消防法第4条に定める立入検査に関する記述のうち、正しいものを1つ選べ

  1. 消防吏員は消防法第4条に基づく立入検査権を有する。
  2. 立入検査を実施する場合は、市町村長の定める証票を携帯し、関係者やその従業員等から提示の請求があるときは証票を示さなければならない。
  3. 立入検査は日の出から日没までの時間帯又は営業時間内の時間帯に行わなければならない。
  4. 個人の住居は関係者の承諾を得なくても、特に緊急の必用があれば、目的及び理由を問わずに立ち入ることができる。
クリックして答えを表示する!?
答え 2 → 検査時間等についてはS14の改正時に撤廃されている。また、個人の住居は火災発生のおそれが著しく大きい場合に限られるため誤り。
チャレンジ問題

消防法第4条に規定する立入検査に関する記述のうち、正しいものを1つ以上選べ。

  1. 消防本部を置く市町村で立入検査に従事することができる者は消防吏員だけである。
  2. 立入検査は事前通告することなく、終日実施することができる。
  3. 立入検査の要件は、火災予防のために必要があるときに限り、同条に規定される資料提出命令や報告徴収の場合と全く同じである。
  4. 立入検査は消火器の設置が必要となる防火対象物全てが対象であり、4年に1度の頻度を目安として実施しなければならない。
クリックして答えを表示する!?
答え 2及び3 → 1について、消防吏員ではなく消防職員が正しい。
チャレンジ問題4

消防法第4条に規定する消防職員の遵守事項に関する記述について、誤っているものを1つ以上選べ。

  1. 知り得た情報は利用目的が火災予防であるか否かを問わず、行政目的であるならば積極的に転用すべきである。
  2. 立入検査を行うための事前調整は必ず電話等で立入検査を行う7日前までに行わなければならない。
  3. 消防職員には、権限を行使し、知り得た関係者の秘密について守秘義務が課せられている。
  4. 立入検査を行うにあたり、消防職員は関係者の業務をみだりに妨害してはならない。
クリックして答えを表示する!?
答え 1及び2 → 1について、情報の転用や共有は個々の事案ごとに比較考慮し決定しなければならないため誤り。
チャレンジ問題

消防法第4条に定める資料提出命令、報告徴収及び立入検査に係る罰則の適用に関する次の記述について誤っているものを1つ以上選べ。

  1. 消防職員の実施する質問に対する回答を拒否した場合
  2. 資料提出命令に対して資料の提出を行わなかった場合
  3. 正当な理由なく立入検査を拒否した場合
  4. 立入検査の実施に関係者が立ち会いを拒否した場合
クリックして答えを表示する!?
答え 1及び4
チャレンジ問題

消防法第4条に規定する立入検査についての記述について、正しいものを1つ以上選べ。

  1. 立入検査権は火災予防という公益目的の実現を図るために付与された権限であり、その権限の実効は「立入検査の拒否等の罰則」の担保によって保障されている。
  2. 立入検査を関係者が拒否した場合、その理由の正否に関わらず、火災予防上必要であるならば、実力をもって強行すべきである。
  3. 証票の不提示を理由に立入検査を拒否された場合、当該立入検査には手続き上の瑕疵があったと認められるため、立入検査を拒否されたことに対して処罰を求める事はできない。
  4. 立入検査において証票の提示を複数回求められた場合は、その都度提示しなければ手続き上の瑕疵があったと認められる。
クリックして答えを表示する!?
答え 1及び3 立入検査権の実効は罰則の担保によって保障されているものであり、強行することは違法である。

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