消防法設備等未設置違反での告発を解説 警察機関との連携は何をどうするの?

2人の警察官 査察、違反処理実務

消防法令での違反処理の最終手段って告発になるよね。

でも刑事訴訟法についてあまり知らないから、警察との連携方法も分からないよ(汗

この記事では、消防機関が告発を行うために警察機関とどのように調整を行うのか、何を調整するのかについて筆者の実体験を交えて解説します。

消防と警察との連携 事前協議で何を調整する?

 消防法第5条の3第1項命令や消防法第17条の4命令を実施したときに考えることは、「もし命令に従わなかったらどうするべきか」ですね。二次措置としての使用停止命令を示唆することもできますが、終局的には「告発」へと辿り着きます。

 「告発」をもって対応するとなれば、告発書類の提出先との調整が必用となります。告発書類の提出先は警察又は検察です。どちらを選択しても問題ありませんが、今回は警察を提出先として選択して考えていきます。

 結論からお話しすると、警察機関と協議する内容は「今も違反している場合」と「過去の違反」で大きく分ける事ができます。

「今も違反している場合」について具体例

 「今も違反している場合」について具体例を挙げると、自火報が設置されていない等の消防用設備等未設置違反です。この場合については違反が継続していることから、告発後の犯罪行為の立証が比較的容易です。消防機関が集めた行政行為のために必要な証拠資料等を家宅捜索等で現状確認すれば事足ります。端的に言ってしまえば「名宛」と「違反内容」である一定規模以上の面積や消防用設備等が未設置である事実が後から証明できれば良いわけです。

「過去の違反」について具体例

 「過去の違反」については言い換えれば現在は是正されてしまった違反行為への告発です。消防用設備等の未設置違反であれば、それらを告発することは違反是正という観点ではあまり意味が無いかもしれません。しかし、消防法第5条の3第1項命令の繰り返し違反であれば、「再発防止」という観点では有効となり得ます。これについては消防機関の告発資料で一定ライン以上の証拠能力が求められるため、どのように違反事実を残すかというポイントを協議する必要があると言えます。

「今も違反している場合」の協議内容

消防法第17条の4命令の履行期限の1か月前には警察機関へ伺いましょう。そこで調整するのは次の4点です。

  1. 告発書提出の予告
  2. 消防法違反の説明
  3. 他都市等の事例に係る情報提供
  4. マスコミへの情報提供のタイミング

以下、それぞれの詳細について解説します。

告発書提出の予告

告発書類を予め準備して警察機関との調整に臨みましょう。この時点で既に命令してからある程度の時間が経っているため「もしかしたら命令では是正しないかもしれない…」と考え始めるものです。必要書類については「消防法の研究」等の本を参考にして下さい。

消防法違反の説明及び他都市等の事例に係る情報提供

警察機関にとっても消防法違反での犯罪捜査というものは経験が非常に少ないです。知りたい情報としては次のようなものです。

  • 消防用設備等の役割
  • 建築物(防火対象物)の面積算定の方法
  • 消防無窓階
  • 他都市での告発事例

告発書類の予告時に丁寧に説明しても度々これらの問い合わせがあると思ってください。

マスコミへの情報提供のタイミング

消防機関としては類似事案の防止のためメディアを通して告発事実を公に公報したいと考えますが、警察機関としては証拠がある程度集まるまでマスコミへの情報提供を避けたいと考えます。告発事実がマスコミ発表されてしまうと少なからず捜査に影響が出ます。

なので、マスコミへの情報提供をいつまでに実施したいという意思表示を行ってください。警察機関としては家宅捜索等を終えてからと考えることが多いようですので連携を図る必要があります。

消防としての「告発」の目的は違反是正!

告発の目的は消防と警察で異なる!?

告発の目的について考えてみます。

告発とは

「被害者その他の告訴権者または犯人以外の第3者」が捜査機関に対してその事実を申告し、かつ犯人の処罰を求める意思表示

告発とは犯罪事実を申告し、なおかつ犯人の処罰を求める意思表示です。なので、警察機関や検察はこの意味通り、犯罪事実を立証し、犯人に処罰を与える事を目的に行動しています。

消防の立場を考えてみると、処罰が与えられるかどうかはさほど重要ではないハズです。消防の立場としては違反是正させることが目的であり、告発とは違反是正達成という目的のための手法の1つでしかないのです。

警察機関は告発書類を受理すると「捜査する義務」が生じるため、告発書類等の受領を少し嫌がります…

警察機関での協議でよく言われる言葉

警察機関
警察機関

これで告発することについて、市の弁護士とは相談しましたか?

「告発」しても起訴されない可能性がありますよ

証拠資料が足りないため受け取れません…

質問調書には署名と押印が必ず必要です

こんな言葉を掛けられると、告発を躊躇いそうになりますが、ここで挫けてはいけません。違反是正という目的と少しの予備知識があれば切り抜けられます。

消防機関
消防機関

告発することについては、弁護士と相談していません。

違反事実は消防機関で確定しており、告発することについても組織としての意思決定ができています。

消防機関
消防機関

告発して起訴する、起訴しないを判断するのはそもそも検察官です。

それに消防機関としては、起訴されなかったからといって負けたとは思っていません。違反是正させることを目的としていますので、そこは問題ではありません。

行政行為移行のための質問調書での供述録取に署名押印は必ずしも必要ではありません。証拠資料としての質問調書であるなら警察機関の捜査として作成してください。

消防機関
消防機関

証拠資料を集めるのは警察機関の仕事です。告発とは犯罪事実を申告するに留まります。例外的に告発の受理を拒否できる要件に該当しない限り、受理を拒否できないはずです。不足書類があるならば具体的に必要書類を示して下さい。

警察は告発書類の受領を拒否できない

犯罪捜査規範第63条第1項

司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。

これを例外的に拒否できる要件については判例が出ており次のものです。

  • 記載事実が不明確なもの
  • 記載事実が特定されないもの
  • 記載内容から犯罪が成立しないことが明白なもの
  • 事件に公訴時効が成立しているもの

消防機関が違反調査を行い、受命者を特定し、違反事実を現認したものが不明確であったり、犯罪が成立しないことが明白である訳がありませんよね。公訴時効についても命令期日内の予告で提出する時点では考える必要もありませんね。

消防が「告発」をもって対応すべき重大な違反とは

告発には事務的負担も大きく、警告や命令で是正されることがほとんどです。ではどのような事案で告発をすべきなのかという問題については「可罰性」を重要視した実務を心がけることが必用です。つまり、罰則を与えられる可能性が高い違反事実に対し告発で対応します。処罰を与えるということは「わざと違法行為を実施している」ことを証明することが必用であることが多くこれを「故意犯処罰の原則」といいます。

命令違反について考えてみて下さい。警告や命令、さらには公示により行政処分を受けてなお違反を継続していますね。これは明らかに違反事実を知ってなお継続しているため故意的であることが明確ですね。

消防機関が告発すべき事案
  • 違反内容が重大であるもの(違反に著しい火災危険が内在し、社会公共の安全確保上消防機関として放置できない違反)

  例:措置命令違反や特定用途のSP、屋内栓、自火報設置命令違反

  • 重大事故発生時に消防法令違反が火災発生や拡大の原因となっており、その結果責任を問うことが相当と認められるもの。

  例:防火管理選任命令中に社会的影響の大きな重大事故が発生した場合など

  • 著しい悪質性が認められるもの(告発をもって措置すべき情状が認められる)

  例:単純に悪質性が高く通常の違反処理で是正への限界を感じた時

まとめ

消防法令違反の告発では重大な火災を伴うものを除けば軽微な略式命令による罰金刑がほとんどであるため、あまり重大に扱われることがありません。告発をしても起訴猶予処分となることも多いです。しかし、その結果を見ると、告発後には必ず是正されています。違反処理の手法の一つとして考えれば非常に強力な武器ではないでしょうか。

警察や検察の目的とは異なるかもしれませんが、消防は消防のできることで違反是正を目指せばよいと考えます。警察機関との調整の前には刑事訴訟法についても勉強して臨みましょう!

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