消防用設備等の設置維持命令は建物所有者? それとも占有者に?

関係者の整理とプランニング 査察、違反処理実務

消防法第17条の4に基づく命令って「適正に消防用設備等を設置しなさい!」って命じてるんだよね。でもその対象って具体的には建物所有者だけなの?

消防法第17条の4に基づく消防用設備等の設置、維持命令は消防長又は消防署長が防火対象物の関係者で権原を有する者に対し、消防用設備を設置したり、維持のために必要な措置を命ずることが可能ですが、「関係者で権原を有する者」は建物所有者しかあり得ないのでしょうか?それともテナント占有者に対しても可能なのでしょうか?

この記事では消防法第17条の4を読み解くとともに、固定的な消防用設備等と移動可能な消防用設備等に分けて受命者の対象を解説し、上記のような疑問を解決します。

消防法第17条の4についての概要 消防用設備等の設置維持命令とは?

命令権を有しているのは誰?

命令権を有しているのは消防長又は消防署長です。3条第1項命令や5条の3第1項命令とは異なり消防吏員は含まれていませんね。

発動の要件とは?

消防法第17条第1項の防火対象物における消防用設備等が設備等技術上基準に従って設置され、又は維持されていないと認める時です。

一定面積や用途により必要な消防用設備が設置されていない場合はもちろん命令の要件を満たしますが、設置されていたとしても消防法令に違反している状態も命令要件に合致する場合があります。

具体例として筆者の経験をお伝えします。

天井を見渡すと感知器が設置されており、一見自火報が適正に設置されているようでしたが、建物のどこを探しても受信機が見つけられませんでした。まさかと思い天井裏を覗くと、感知器からの配線が一切ありませんでした! そうです、感知器だけ取り付け設置を偽装していたのです。

もちろんこのような場合は警察比例の原則に照らしても命令が適当であると判断し、粛々と違反処理を実施しました。

消防法第十七条の四 

消防長又は消防署長は、第十七条第一項の防火対象物における消防用設備等が設備等技術基準に従つて設置され、又は維持されていないと認めるときは、当該防火対象物の関係者で権原を有するものに対し、当該設備等技術基準に従つてこれを設置すべきこと、又はその維持のため必要な措置をなすべきことを命ずることができる。

2 消防長又は消防署長は、第十七条第一項の防火対象物における同条第三項の規定による認定を受けた特殊消防用設備等が設備等設置維持計画に従つて設置され、又は維持されていないと認めるときは、当該防火対象物の関係者で権原を有するものに対し、当該設備等設置維持計画に従つてこれを設置すべきこと、又はその維持のため必要な措置をなすべきことを命ずることができる。

公示の方法は消防法第5条を準用!

消防法第十七条の四に基づき命令を発した時は、消防法第5条と同様に公示を行う必要があります。消防用設備等が設置されていない場合や、設置していてもその機能の大半が機能していない場合等には万が一火災が発生した時に予想以上に被害が拡大する可能性があるため、そのような建物の危険性を建物を利用する市民や国民に知らせるため公示が義務付けられています。

しかし、違反部分が建物全体とは限りませんよね。例えば16項イで延べ面積300㎡以上の建物全体に自火報の設置が必要ですが、避難器具については階の収容人員によって設置義務が生じますよね。なので、標識を設置に関してはどこに対して危険なのかを考える必要がありますね。

消防法第十七条の四 第3項

第五条第三項及び第四項の規定は、前二項の規定による命令について準用する。

消防法第5条

3 消防長又は消防署長は、第一項の規定による命令をした場合においては、標識の設置その他総務省令で定める方法により、その旨を公示しなければならない。

4 前項の標識は、第一項の規定による命令に係る防火対象物又は当該防火対象物のある場所に設置することができる。この場合においては、同項の規定による命令に係る防火対象物又は当該防火対象物のある場所の所有者、管理者又は占有者は、当該標識の設置を拒み、又は妨げてはならない。

消防用設備等設置維持命令に関する受命者の選定方法を解説! 建物所有者それとも占有者!?

受命者となるのは「関係者で権原を有する者」です。権原を有するかどうかは、設置する消防用設備等が建物に変更を加えるかどうかが重要になってきます。例えばスプリンクラーを設置させる場合は個別のテナントに命令したとしても、建物の躯体に変更を加えるような工事が必用になるため、個別のテナントは「権原を有する者」に該当しないと判断されてしまいます。設置を指導する消防用設備等が「固定的」であるか「移動可能」かが重要なポイントになります。

固定的な消防用設備等

建物躯体への変更工事を要するような消防用設備等は「固定的な消防用設備等」と区分されています。固定的な消防用設備等の設置は防火区画を配管が貫通したり、建物全体への設置が必用になり、1テナントの権原では設置が困難な消防用設備等です。

具体的な設備例は「スプリンクラー設備」や「屋内消火栓設備」です。受命者は建物の躯体等への変更権を有する者となるため、建物所有者となることが大半です。

移動可能な消防用設備等

一方、建物躯体への変更工事を要しない消防用設備等は「移動可能な消防用設備等」と区分されます。設置が容易であり、テナント等の占有者の判断で設置ができるような消防用設備等になります。

具体的な設備例は「消火器」や「非常警報器具」、「避難器具(吊り下げはしご)」です。これらの消防用設備等の特徴として、テナント退去した場合でもこれらの消防用設備等は移設が可能であり、消防用設備等がテナント占有者の財産となっている点です。

造作買取請求権についての豆知識

テナント入居に関する消防用設備等の設置義務が新たに生じた場合は受命者をどう選定するかが悩ましいですよね。避難器具等をテナントを受命者として違反処理を進めようとしたとき少し考えて頂きたいのが借地借家法第33条に定められる「造作買取請求権」についてです。

借地借家法第33条

建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。

 前項の規定は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合における建物の転借人と賃貸人との間について準用する。

「造作」の性質は次のようなものと解されます。

  • 建物に設置されたもののうち、建物から取り外したら役に立たなくなる
  • 建物を使用するのに客観的に役立つ
  • 借家人の所有物といえる

一部の避難器具や誘導灯を賃借人が設置した場合、これらの要件を満たすと考えられるため、家主に対して造作買取請求をすることが可能と考えられます。

しかし、平成4年8月に施行された借地借家法では、借家人と家主が、あらかじめ造作買取請求権を行使しないという特約を結んでいた場合には、造作買取請求はできないこととなっています(借地借家法33条、37条)。なので近年に結ばれた賃貸借契約書には、造作買取請求権を放棄する旨の規定が入ってることが多いです。

なので造作買取請求権を放棄している場合はテナントを受命者として違反処理を進めても問題無いと解します。違反処理では、契約書に「造作買取請求権を行使しないという特約」や「消防設備の設置維持に関しての特約」等の確認が必用です。

しかし、この「造作買取請求権を行使しないという特約」が契約書に記載されていない場合は造作買取請求が可能であるため、テナント占有者を違反者として設置を進めたとしても、最終的に所有権が建物占有者に移るだけでなく所有者が費用を時価で請求されることになります。

テナント占有者
テナント占有者

消防法違反で誘導灯を設置するように指導されました。

誘導灯を設置してもいいですか?

建物所有者
建物所有者

そうかい、ならテナントの費用負担で設置してよ

~設置から数年後~

テナント占有者
テナント占有者

テナント退去します。

設置した誘導灯について造作買取請求権を行使しますので時価で買い取って下さい。

建物所有者
建物所有者

え、テナントの費用負担じゃなかったのかい!?

それならもともと私の責任で設置するのと同じじゃないか…

こうなってしまうことを考えると初めから受命者を建物所有者として考えて違反処理を進める事がベターです。

  1. 消防用設備等が「移動可能と判断」
  2. テナントの入居時期から特約の有無を予想
  3. 契約書から造作買取請求権の特約の有無を確認!
  4. 造作買取請求権の特約が無いなら移動可能な消防用設備等であっても受命者を建物所有者に選定する!

まとめ

  • 消防法第17条の4の命令権者に消防吏員は入らない。
  • 受命者となるのは「関係者で権原を有する者」
  • 命令時には公示が必用
  • 受命者の選定は固定的な消防設備なのか移動可能な消防設備なのかで判断する
  • テナントを受命者として考えるなら契約書を確認する

予防技術検定にチャレンジ! 消防用設備等の設置維持命令編

予想問題

次の消防法第17条の4に関する文章について適切でないものを1つ選べ。

  1. 命令権を有しているのは消防長又は消防署長である。
  2. 違法増築により300㎡以上となった飲食店の建物所有者に自動火災報知設備を設置するよう消防法第17条の4を根拠に命令した。
  3. テナント入店に伴い、建物全体にスプリンクラー設備の設置が新たに必要となった。テナント占有者に対しスプリンクラー設備を設置するよう消防法第17条の4を根拠に命令した。
  4. テナント入店に伴い、テナント部分に避難器具の設置が新たに必要となった。テナント占有者に対し吊り下げはしごを設置するよう消防法第17条の4を根拠に命令した。
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答え 3  →固定的な消防用設備等であるため、建物所有者に命令することが妥当

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