防火管理者の選任は管理権原者がするんだよね。でも管理権原者って具体的には誰になるの? テナントが入っている場合は占有者も管理権原者になるのかな?
防火管理者制度の全体像が知りたい! 防火管理者の仕事内容を教えて!
この記事では、防火管理者制度の概要や全体像を解説し、上記のような疑問についてお答えします。記事を最後まで読むと、管理権原者や防火管理者に必用な資格の種別、具体的な業務内容、再講習について理解できます。
火災予防の要! 防火管理者についての消防法第8条から全体像を解説!
消防法では火災予防のために一定規模以上の防火対象物には防火管理者を定める事が規定されています。この防火管理者について消防法第8条に規定されています。法律は重要なものから順に整理される傾向にあり、法律のこれだけ前半に規定されているということは防火管理者がいかに火災予防への影響が大きく期待されているかの現れであると筆者は考えています。
今回はそんな火災予防の要となる防火管理者について解説します!まずは防火管理制度の全体像を知りましょう。重要なポイントはコレです!
- 防火管理者となるためには資格が必用(資格の種類は甲種と乙種に分かれる!)
- 管理権原者は防火管理者の資格を有するものを≪防火管理者≫として選任する。
- 防火管理者を選任したことを消防機関へ届出する。
- 消防計画を作成し、消防機関へ届出する。
- 消防計画に基づき、防火防災教育を従業員に実施する。
- 消防計画に基づき、日常の防火管理業務を実施する。
管理について権原を有する者の大切な仕事、防火管理者の選任!でも管理について権原を有する者って誰の事?
消防法8条第1項では管理について権原を有する者が防火管理者を定めるとともに、さまざまな防火管理上必要な業務を行わせる必要があることが記載されています。でも管理について権原を有する者って誰になるのかご存じですか?
消防法上の管理について権原を有する者(いわゆる管理権原者)とは、防火対象物について正当な管理権を有し、当該防火対象物の管理行為を法律、契約又は慣習上当然行うべき者をいいます。
つまり、管理権原者は防火管理の最終責任者になり、具体的には次のような人です。
- 建物の所有者
- 建物の賃借人
- 共同住宅の場合は所有者及び各住戸の居住者
でもテナントが複数入るようなビルでは、正当な管理権はテナント占有者も有していますよね。1つのビルに対して管理権原者が必ず1人とは限りません。管理権原者が複数人いることも考えられ、このことを≪複数権原≫と言います。
複数権原では誰がどの範囲について管理権原を有しているのかを明確にしておく必要があります。テナント占有者がいないような共用部分は建物所有者が防火管理の責任を負うのが一般的です。
同一敷地に2以上の建物がある場合は管理権原者はどう考える?
今は1つの敷地に1つの建物がという前提で話を進めていますが、消防法施行令第2条では敷地内に2以上の防火対象物がある場合でかつ同一管理権限者なら消防法第8条の適用について1つの防火対象物としてみなすとされています。
同一敷地とは何でしょうか、敷地については建築基準法令第1条(用語の定義)に記載されており、2以上の建築物があったとしても用途上不可分の関係があることとされています。
用途上不可分な関係って何? あまり聞きなれない方も多いと思います。
用途上不可分の建築物とは、敷地内に2以上の建築物を分離した際、用途の目的を果たせなくなるものを指します。
具体的にいえば、住宅と自動車車庫や自転車置き場との関係です。
建築物を建てる時は基本的には1敷地に1建築物が原則となり、それぞれの敷地ごとに接道義務が生じています。消防法施行令で同一敷地内の防火対象物を1つの防火対象物とみなして法8条を適用させるとされていますが、用途上不可分の関係が無ければ基本的には敷地が分かれます。
用途上不可分の関係が無ければ基本的には敷地が分かれるハズですが、同一敷地内の2以上の防火対象物について所有者が同一でも、テナントとして貸し出し複数権原になった場合は消防法施行令第2条の適用はあるのでしょうか?
同一敷地かつ同一所有者ですが、所有者=管理権限者とはなりません。所有者Aが防火管理上必要な管理権限を有しているならば所有者Aは管理権限者となりますが、所有者Aではなく、各占有者が
防火管理上必要な管理権限を有していると判断した場合には同一管理権限者とはなりません。
ですので上図のような例ではそれぞれの防火対象物〈棟〉ごとに法8条を適用します。複数権原の場合は少し注意が必要ですね。
選任される防火管理者は2つの条件が必用!
防火管理者の要否については用途や収容人員により決定します。そして、防火管理者の資格には上位となる「甲種」と「乙種」に分かれ、どちらの資格が必用かは防火対象物の規模により変わります。でも防火管理者になるための資格はこの「甲又は乙種の防火管理者講習の修了」だけではありません。
防火管理者として必要な条件ままず第一に「当該防火対象物において防火管理上必要な業務を適切に遂行することができる管理的又は監督的な地位にあるもの」が求められます。防火管理業務を適正に執行するためには防火管理上の指導や指示を防火対象物の関係者に聞いてもらう必要がありますよね。管理的又は監督的な地位にあるものでなければならない理由は、それだけ防火管理者に求めらえる責任と期待が大きい現れです。
もう一つの条件は「防火管理者講習の受講」や学識経験、実務経験です。今回は「防火管理者講習の受講」についてのみスポットを当てて考えます。
市町村消防本部や防火保安協会等が実施する講習を修了すると防火管理者としての資格になります。講習には「甲種新規講習」、「乙種新規講習」「甲種防火管理者再講習」に分かれており、講習内容と時間は下表のようにまとめる事ができます。
各講習種別の大まかな内容と講習時間は表で視覚的に覚えてしまいましょう。
種別 | 大まかな内容 | 講習時間 |
甲種新規講習 | 防火管理業務の全般 | 10時間 |
乙種新規講習 | 防火管理業務の基礎知識 | 5時間 |
甲種再講習 | 過去5年の法改正及び火災事例 | 2時間 |
少し脱線しますが、再講習である「火災事例等の研究に関すること」って面白い考え方ですよね。実際の火災事例等を紹介し、防火管理の知識に深みを持たせることを目的にしているようです。
筆者の紹介する具体事例とすれば、スマートフォンをペット(主に犬)が噛み、バッテリー層が押し潰され出火に至ることが報告されています。このサイトをスマートフォンで見ている読者はペットを飼っている場合、床などにスマートフォンを置きっぱなしにしないように注意しましょう!
第2項に防火管理者選任(解任)の届出について記載されていますが、あくまで「遅滞なく」です。
防火管理者選任義務の要否と必要な資格の判別方法を教えて!
消防法第8条では一定規模以上の防火対象物では防火管理者を選任することが定められています。テナント部分の選任が必用かどうかも気になりますが、まずは建物として防火管理者の選任が必用かどうかを考えます。防火管理者の選任が必用な用途と収容人員の関係は次の様に分けることができます。
- 6項ロは10人以上で甲種防火管理者の選任義務
- 6項ロを除く特定用途防火対象物は30人以上で防火管理者の選任義務
- 非特定用途防火対象物は50人以上で防火管理者の選任義務
防火管理者が必用であることが分かれば次に考えるのは防火対象物の規模についてです。甲種防火管理者の選任が必用とされる規模の大きい「甲種防火対象物」となるか、乙種防火管理者の選任も可能である「乙種防火対象物」になるかを考えます。
6項ロは防火管理者の選任義務が生じていれば甲種防火対象物となるため甲種防火管理者の資格が必用です。6項ロ以外の特定用途防火対象物は300㎡以上、非特定用途防火対象物は500㎡以上が甲種防火対象物となります。
用途と規模、収容人員の関係は下図のようになっています。
テナント占有部分に必要な防火管理者の資格区分を解説!
甲種防火対象物と乙種防火対象物の関係は分かりましたか?続いて説明するのは複数権原の場合についてのテナントの防火管理者の資格区分についてです。大前提は建物全体での防火管理者の選任義務が生じていることですよ。
乙種防火対象物についてはすごく単純で、すべてのテナントが乙種防火管理者(又は甲種防火管理者)の選任が必用になります。
甲種防火対象物については少し複雑な様に見えますが、実は単純です。そのテナント単体の用途と収容人員から防火管理者の選任義務がある規模なら甲種防火管理者の選任が必用です。
具体的には物品販売店舗であれば、テナント部分で30人以上なら甲種防火管理者の選任が必用となり、29人以下なら乙種防火管理者(又は甲種防火管理者)の選任が必用になります。
防火管理者の資格は取ったらおしまい!? いいえ、一定規模以上は再講習が必用です!
防火管理者の資格を一度取得すれば一生涯生きる資格となりますが、一定規模以上の防火対象物で選任される防火管理者は再講習が必用になります。その再講習が必要な防火管理者とは、収容人員300人以上の特防(甲種防火対象物)から乙種防火管理講習の課程を修了した者を防火管理者とすることができる防火対象物の部分を除いた防火管理者です。
でも建物が大規模で防災管理者の選任が必用な場合は違いますよ!防火管理者の資格は甲種が必要で、再講習も防火・防災ともに必須となります。
なので、ここでは防災管理者の選任が必用でないことを前提に話を進めますね。
再講習が必要な防火対象物の例
具体的には下図では3~5階は乙種防火管理者の選任が可能な規模用途ですね。1階及び2階は甲種防火管理者が必要です。このように複数権原で300人以上の収容人員の甲種防火対象物であれば、甲種防火管理者の選任が必用なテナントは再講習も必用になります!
ポイントは乙種防火管理講習の課程を修了した者を防火管理者とすることができる防火対象物の部分が除けるという点であるため下図の3~5階の防火管理者が甲種防火管理者であっても乙種の選任が可能であることを理由に再講習は義務にはなりませんよ。
再講習はいつ受けるの?
甲種防火管理者再講習の受講のタイミングはいつか知っていますか? 消防法をいくら探しても出てきませんよね(汗)
防火管理者の再講習については平成十六年四月二十七日消防庁告示第二号甲種防火管理再講習について定める件で定められています。
再講習はいつ受講するの?と聞かれても「今でしょ!」とは答えないで下さいね(笑)
ポイントは最初に迎える4月1日が起算日になる点で、そこから5年以内の再講習を受ける必要があります。資格をとってから4年を超える期間の後に選任された場合は、選任されてから1年以内に再講習を受ける必要があります。それでは実際に告示を見てみましょう。
再講習が必用な理由を法文から解説!
甲種防火対象物には甲種防火管理講習を修了したものの選任が必用になりますね。防火管理者としての資格は消防法施行令第3条第1項第1号イに次のように定められています。
甲種防火管理講習は新規講習を再講習の両方を含みます。
甲種防火管理者再講習についての説明ですが、消防法施行規則第二条の三では令第四条の二の二第一項第一号の防火対象物の防火管理者から前条の部分にかかる防火管理者を除くとされています。
令第四条の二の二第一項第一号の防火対象物の防火管理者は収容人員300人以上の特防ですね。
前条の部分にかかる防火管理者で示しているのは乙種防火管理講習の課程を修了した者を防火管理者とすることができる防火対象物の部分になります。
防火管理者を選任しなかったらどうなるの? 消防法での命令を解説!
防火管理者の選任が必用な防火対象物で、防火管理者が選任されない場合は、どのような法的措置があるか知っていますか?
消防法第8条第3項では防火管理者の選任命令、第4項では防火管理業務の適正執行命令が定められており、どちらも「同項の権原を有する者」を受命者として命令することが可能です。
消防法第5項には「第五条第三項及び第四項の規定を準用する」とされていますが、これは公示と標識についてです。第3項の防火管理者の選任命令、第4項の防火管理業務の適正執行命令をした場合は消防法第5条と同様に公示します。
そこの施設を利用する人にとって「防火管理者を選任していない」「防火管理業務が適正に実施されていない」といった状態を知らないことは、不慮の事故に遭遇した場合不利益になるため公示することが定められています。
防火管理者やその業務はそれだけ重要ということが分かりますね!!
これらの命令や警告を実施するにあたり「甲種防火管理者未選任」が全国的に重く考えられています。この選任命令でも防火管理者を選任しない、されない場合は消防法第5条の2に基づく使用停止命令を2次措置として考えます。
消防機関の権限って非常に大きいですね。
まとめ
- 防火管理者の選任は6項ロは10人以上、特定用途は30人以上、非特定用途は50人以上で必用!
- 防火管理者の選任が必用な単位は「管理権原者」ごと!
- 令2条により同一敷地、同一管理権原者なら一体的に防火管理を行う!
- 資格には甲種と乙種があり、6項ロは甲種だけ!
- 防災管理者の選任義務があれば資格要件は「甲種防火管理者に加えて」という点に注意!
- 収容人員300人以上の特定用途なら甲種防火管理者は再講習が必用!
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