消防法を読んでると〈自衛消防の組織〉と〈自衛消防組織〉っていう似た用語を見つけたよ! 「の」があるか無いかで意味は大きく違うのかな?
自衛消防組織は設置命令ができるみたいだけど、命令実施に際しての注意点を教えて!
自衛消防組織の設置が大規模な防火対象物等に義務付けられたのは今から10年以上前になります。平成 19 年6月 22 日に大規模・高層の建築物について、自衛消防組織の設置と防災管理者の選任及び火災以外の災害に対応した消防計画の作成を義務付ける消防法の一部を改正する法律(平成 19 年法律第 93 号)が成立公布され今に至りますが、その背景には東海地震、東南海・南海地震や首都直下型地震への対策が目的とされています。この記事では〈自衛消防組織〉と〈自衛消防の組織〉の違いについて解説します。さらに、〈自衛消防組織〉の設置目的や概要、命令の注意点を分かり易く解説することで上記のような疑問についても解決します。
〈自衛消防の組織〉とは? 用語の根源は消防法第8条に基づく消防計画!
従来からよく似た言葉で「自衛消防の組織」という言葉が消防法第8条に基づく消防計画でありましたね。混同しがちになりますので注意してください。
防火管理者は火災予防のための消防計画を定める必要があるありますが、その消防計画に定める必要がある内容は消防法施行規則第3条に定められています。参考ですが消防計画に定める必要がある内容は12項目が決められています。
実際に消防計画のひな型の該当する部分を見ると、「消防計画の適用の範囲」の次に「自衛消防組織の編成及び任務等」というタイトルで定められています。消防計画では「自衛消防組織」と「自衛消防の組織」という文言を法令文ほど厳密には使い分けていないことが分かります。
消防法8条の2の5に基づく〈自衛消防組織〉は全く別の概念!?
消防法8条の2の5では〈自衛消防組織〉の設置に関すること、届出に関すること、消防機関の命令権、命令時の公示について記載されています。
〈自衛消防の組織〉との大きな違いは想定される防火対象物の規模です!
消防法第8条に基づく防火管理者の選任は収容人員により要否が決定します。特定用途防火対象物では30人以上、非特定用途防火対象物では50人以上で防火管理者の選任が必用になります。
〈自衛消防組織〉はこの防火管理者の選任義務に面積の条件を足しています。
第1項 自衛消防組織の設置対象である〈大規模なものとして政令で定めるもの〉とは?
大規模なものとして政令で定めるものとは消防法施行令第4条の2の4に定められており、階数と延べ面積により3つに区分されています。(16の2項)だけは1000㎡以上で自衛消防組織が必用になるため上記の面積によるグループとは異なります。
しかし、共同住宅(5項ロ)、格納庫(13項ロ)、倉庫(14項)の用途は自衛消防組織の設置対象から除かれています。つまり、高層の共同住宅や大規模な倉庫は一定の面積以上であっても自衛消防組織の設置義務は生じません。
実務上注意して欲しいポイントとしては、この3用途が除かれるのは自衛消防組織に限っており、同じ面積や高さで選任要否を決定する防災管理については関係ありません。
自衛消防組織の設置対象から除かれている用途
- 共同住宅(5項ロ)
- 格納庫(13項ロ)
- 倉庫(14項)
自衛消防組織の設置対象となる階数と延べ面積
- 地階を除く階数が11以上の防火対象物で、延べ面積が10,000㎡以上のもの
- 地階を除く階数が5以上10以下の防火対象物で、延べ面積が20,000㎡以上のもの
- 地階を除く階数が4以下の防火対象物で、延べ面積が50,000㎡以上のもの
- 別表第一(16の2)項に掲げる防火対象物で延べ面積1000㎡以上のもの
16項の複合用途については対象用途の最上階が何階かで自衛消防組織の設置が必要かどうかの基準が変わります。対象用途はもちろん共同住宅、格納庫、倉庫の3用途以外の用途ですよ。
第1項 自衛消防組織の設置義務の大前提は消防法第8条第1項の適用!?
消防法第8条第1項の防火対象物とは防火管理者の選任義務の生じるものであり、自衛消防組織の設置に関して大きく関連しています。面積等の大規模であることの大前提として防火管理者の選任義務が生じるものを対象としています。つまり、特定用途防火対象物は30人以上、非特定用途防火対象物では50人以上の収容人員です。
自衛消防組織になるとついつい忘れがちなのが「令2条の適用」です。「令2条の適用」は実務的には単項用途で単一権原が多くを占めますが、同一敷地の規模はケアする必要があります。
下図の例だと令2条を適用し、1の防火対象物とみなされるため「地階を除く階数が五以上十以下の防火対象物で、延べ面積が二万平方メートル以上のもの」に該当します。
過去、実務で驚いたことがあります!上図のような防火対象物で自衛消防組織の設置を指導しようとした時のことです。5階以上、合算で2万㎡以上であるため当然、自衛消防組織&防災管理が必要と思いきや、なんと収容人員が50人未満だったのです。確かに屋外の駐車台数は少ないとは思いましたが…
話によると、主に研究開発部門(用途は15項と判断)での大空間を要する施設であったため、1グループごとに割り当てられるスペースが大きいそうです。従業員が増えれば、防火・防災管理者、自衛消防組織が必要な旨は説明しましたが、従業員数の管理は容易であるため50人未満を維持するとのことでした(汗)。50人未満で5万㎡とはなんとも贅沢ですが、防火上の責任者である防火管理者がいない事は不安に感じました…
令2条の適用頻度が多くなりやすい工場や官公庁は注意が必要です。
第1項 自衛消防組織の設置義務を有する〈管理について権原を有する者〉とは?
管理について権原を有する者について注意したいポイントは「対象用途であること」と「複数権原」です。
自衛消防組織設置防火対象物の用途で除かれる用途とは何でしたか?
- 共同住宅(5項ロ)
- 格納庫(13項ロ)
- 倉庫(14項)
この3用途が対象から除かれる用途でしたね。単項用途ではあまり考える必要がありませんが、複合用途の場合、これら3用途の管理権原者は自衛消防組織の設置義務は生じていません。
複数権原になる場合は共同して自衛消防組織を設置することが定められています。
第2項では自衛消防組織の設置(変更)届が必要なタイミングと届出内容を定める!
自衛消防組織の設置変更について届出が必用であることが定められています。内容は消防法施行規則第4条の2の15にあり、主に次のものです。
- 各管理権原者の氏名、住所
- 所在地、各テナント名称、用途、延べ面積、階数
- 権原の範囲
- 内部組織の編成、自衛消防要員の配置
- 統括管理者の氏名、住所、資格を証する書面
- 備え付けられている資機材
関係法令で定められる必要書類は以上になりますが、上記以外に告示班長の資格等の添付を求める消防機関も多いようです。
第3項、第4項 自衛消防組織設置命令と公示
命令権者は消防長又は消防署長であり、受命者は権原を有する者であるため複数権原の場合は自衛消防組織の設置義務を有している管理権原者全員です。
違反処理を検討する場合は管理組織団体の有無を確認し、場合によっては全管理権原者一斉に警告することも検討すべきです。全管理権原者に対し違反処理を行う労力は非常に大きいですが、警告から是正までのアクションは必ず早く移行すると確信しています。
なんでテナントに対して自衛消防組織未設置の警告なんですか!
自衛消防組織の設置は管理団体の責任でしょう!!
管理団体には前々から指導し、各テナントと共同で自衛消防組織が必用と話をしていたのですが、なかなか動きも鈍いため今回法令に基づき全ての設置義務が生じるテナントに対しても一律に警告しています。
え、前々から指導していたって…
管理団体は今まで何してたんですか(怒)
こんな指導を受けたテナントの矛先は消防では無く管理団体に向き、怒り心頭で管理団体を責め始めるため、警告してからは早いです。私は過去にこの手法を統括防火管理者未選任の防火対象物で実践しましたが、違反調査後すぐに動きがありました。結果、違反調査から警告書交付までの間に是正されたため、警告書は渡しそびれましたがスピード感をもって是正されたため成功です!
まとめ
自衛消防組織のポイントとなる「第8条第1項の防火対象物のうち」と「管理について権原を有する者」について理解できましたか? 大規模な建築物でそれぞれの管理権原がそれぞれ別の方向を向いていては消防目的は達成できません。複数権原になる場合は共同して自衛消防組織を設置するため、それぞれの管理権原者の責任は小さくなるように感じますがそうではありません。防火対象物全体が一丸となって自衛消防組織を造り上げ、全員が責任者であるという自覚とチームワークが最も重要となります。もちろんその自衛消防組織の活動からバトンを受け取るのは消防機関であるため良好な関係作りも大切ですね。
- 自衛消防組織設置の大前提は防火管理者の選任される収容人員を有することが必用!
- 自衛消防組織の設置義務対象からは共同住宅、格納庫、倉庫の3用途が除かれる!
- 自衛消防組織の設置が必要な面積は階数に応じ10,000㎡、20,000㎡、50,000㎡の3区分
- (16の2)項だけは1,000㎡以上で自衛消防組織の設置が必要
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