消防法第5条命令とは 防火対象物の火災予防措置命令の4つの要件と命令解除要件を考察!

査察、違反処理実務

消防法第5条に基づく命令って具体的にはどんな内容なの?

消防法違反が無い場合でも5条命令は可能?

命令したら命令の解除要件って検討する必要があるよね。解除要件ってどう定める?

この記事では消防法第5条第1項に基づく防火対象物の火災予防措置命令について、命令への4つの要件や具体的な措置内容を解説し、上記のような疑問を解決します。

消防法第5条第1項の命令内容とは 火災予防措置命令の概要について

消防法第5条第1項の命令は防火対象物の火災予防措置命令についてです。

命令権者は消防長又は消防署長で、次の4つの要件に該当する場合、権原を有する関係者に対し、当該防火対象物の改修、移転、除去、工事の停止又は中止その他の必要な措置をなすべきことを命ずることができます。

4つの命令要件

  • 火災の予防に危険であると認める場合
  • 消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める場合
  • 火災が発生したならば人命に危険であると認める場合
  • その他火災の予防上必要があると認める場合

火災の予防に危険であると認める場合とは、火災発生の原因がある場合はもちろん、防火対象物の内部に火災の発生原因となり得るものが無くても、放火など何らかの原因で火災が発生したときに延焼、拡大危険がある場合も対象となります。

火災の予防上必要があると認める場合とは消防法第4条第1項で示しているような抽象的な火災危険性の事では無く、自火報の故障や竪穴区画未設置等の具体的な火災危険性が存在する場合を指しています。

消防法第5条 第1項

消防長又は消防署長は、防火対象物の位置、構造、設備又は管理の状況について、火災の予防に危険であると認める場合、消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める場合、火災が発生したならば人命に危険であると認める場合その他火災の予防上必要があると認める場合には、権原を有する関係者(特に緊急の必要があると認める場合においては、関係者及び工事の請負人又は現場管理者)に対し、当該防火対象物の改修、移転、除去、工事の停止又は中止その他の必要な措置をなすべきことを命ずることができる。(後略)

第5条第1項命令の名宛人は誰になる? 特に緊急の必要があると認める場合は対象が拡大!

本来の受命者は「権原を有する関係者」です。しかし、権原を有する関係者が遠方におり、命令を伝えるまでに時間を要する場合等には〈特に緊急の必要があると認める場合〉となり、「関係者及び工事の請負人又は現場管理者」に対しても命令することができます。

「関係者及び工事の請負人又は現場管理者」は単なる作業に従事する従業員を含んでいるわけではありませんよ。工事の請負人又は建築主の代理人として工事を統括するような工事責任者が拡大された命令対象となります。

命令の措置内容と具体例を紹介

防火対象物の位置、構造、設備又は管理の状況について、先ほどの4つの命令要件に該当する場合、当該防火対象物の改修、移転、除去、工事の停止又は中止その他の必要な措置をなすべきことを命ずることができると定められています。

防火対象物の位置、構造、設備又は管理の状況について命令が可能であり、消防法に限定されるものではありません。

例えば建築基準法に基づく耐火要件を満たさず、竪穴区画も形成されていない特殊建築物はもちろん危険性が高い状態です。しかし、建築指導部局の指導はなかなか進まない… といった場合でも先ほどの4つの命令要件に該当すれば消防法第5条第1項に基づき強制的に改修を命じる事ができます。

しかし、ここには但し書きがあり、このように記載されています。

消防法第5条 第1項

(前略)ただし、建築物その他の工作物で、それが他の法令により建築、増築、改築又は移築の許可又は認可を受け、その後事情の変更していないものについては、この限りでない。

これは、建築基準法でいう「既存不適格」の状態が含まれていると解されています。現在の法令では違反の状態であっても、過去の基準に適合していれば「違反」とはならない状態です。他法令で問題が無いものを消防がひっくり返して「違反」とは言えないわけですね。

消防法第5条第2項 代執行で強制的に違反是正せよ!

第2項の「第三条第四項の規定」とは代執行についてですね。

消防法第5条第2項

第三条第四項の規定は、前項の規定により必要な措置を命じた場合について準用する。

命令してもその履行が十分に達成できない場合等には消防法第3条第4項に準じて代執行してでも消防目的を達成せよ!! とのことです。

消防法第3条第4項

消防長又は消防署長は、第一項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、又はその措置の履行について期限が付されている場合にあつては履行しても当該期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、当該消防職員又は第三者にその措置をとらせることができる。

代執行については消防法第3条の記事でこってり解説していますので本記事では割愛します。気になる方は下記の記事をご覧ください。

消防法第5条第3項、第4項 標識の設置はどこに貼る?

第3項と第4項では標識の設置により防火対象物の利用者に違反を周知することが定められています。

公示の趣旨は、「当該防火対象物の利用者や近隣の防火対象物の関係者等が不測の損害を被ることを防ぐこと」です。ホームページへの掲載による公示方法をとった場合は、周知の相手方がこの趣旨に示された利用者や関係者等と合致しない場合があると考えられるため、違反処理マニュアルではホームページに掲載する場合は、他の方法と併せて行うものとしています。

では効果的に公示するためには標識の設置についても合理的に行う必用がありますね。具体的な設置位置は次の様に考えて下さい。

1、複数のテナントが存する防火対象物について一つのテナントのみに命令を発した場合

  • 命令を発したテナントの出入口に設置することを原則とする。
  • 必要に応じて防火対象物の出入口に設置する。

2、複数のテナントが存する防火対象物について複数のテナントに命令を発した場合

  • 命令を発したテナントの出入口ごとに設置することを原則とする。
  • 必要に応じて防火対象物の出入口にそれぞれの名宛人ごとの標識を設置するが、この場合設置場所等の状況を勘案して標識を一つにまとめる等の手段を考慮する。

3、防火対象物全体にかかる措置命令を発した場合で、当該防火対象物に出入口が複数存する場合

  • 防火対象物全体にかかる措置命令については主要な出入口に設置する。
  • 出入口の使用状況から判断して、一箇所の標識の設置では不十分な場合は、複数設置することができる。
消防法第5条

3 消防長又は消防署長は、第一項の規定による命令をした場合においては、標識の設置その他総務省令で定める方法により、その旨を公示しなければならない。

4 前項の標識は、第一項の規定による命令に係る防火対象物又は当該防火対象物のある場所に設置することができる。この場合においては、同項の規定による命令に係る防火対象物又は当該防火対象物のある場所の所有者、管理者又は占有者は、当該標識の設置を拒み、又は妨げてはならない。

でも標識による公示は即時性もあり効果も高いと感じますが、公報への掲載はどうでしょうか?

もしかしたら公報掲載時には是正されている可能性もありますよね。その場合、命令事項の履行後に公示がなされている状態となるため受命者に不利益を与えないかという疑問が出てきます。公報という媒体の性格から、この様なことが起こる可能性がありますが、公示制度の趣旨から判断すれば、受命者の受認義務の範囲内と考えられています。

しかしそれでも、受命者からすれば是正したはずなのに公示されるのは不利益だと主張することはよくあります。不利益紛争を予防する一つの方策として、命令を発出した日時にや履行(是正)された旨についても公示することで上手に対応して下さい。公報に掲載されることはしっかりと説明する必要がありますよ。

命令の解除要件は設定している? 履行期限を超えたらどうなるの?

命令の解除要件を設定是正されなかった場合は効力の消滅する。公示は継続?

実際に命令を実施したら、その期限内に是正してくれるのかどうかは査察官としていつも気になるところです。

命令を実施したならば命令解除の要件も同時に検討しておきましょう! 命令解除の要件となり得るものの例示は次の様なものです。

  • 改修が完了した時(正しく是正された)
  • 建物が使用されなくなった時(退去等で人命危険が無くなる)
  • 賃貸契約等が解消された時(受命者でなくなった)

では、是正されずに履行期限を迎えた時はどうなるのでしょうか?

ズバリ、命令の効力は消滅してしまいます。

命令の効力の消滅について

命令、命令事項の履行、命令期間の終了又は取り消し、撤回、若しくは命令対象の消滅などの理由により効力が消滅する。

※違反処理マニュアルより抜粋

命令期間の終了により命令の効力が消滅してしまえば、再命令よりも告発を実施すべきです。でも気になる点は張り付けた標識をどうするかですよね。必ずしも撤去する必要はありません。命令の効力は消滅していたとしても公示の趣旨は、「当該防火対象物の利用者や近隣の防火対象物の関係者等が不測の損害を被ることを防ぐこと」であるため、張り付けたままにしておきましょう!

※参考ですが、命令の効力についての見解は下記消防法の研究でも解説されていますが、第1版と第2版で考え方がゴロっと変わっています(汗) 行政法の取扱や判断は時代によって変化するもので、その時代に応じた判断力が求められているのかもしれませんね。

予防技術者検定にチャレンジ! 消防法5条第1項命令編

チャレンジ問題

消防法第5条の規定に基づく火災予防措置命令に関する次の記述のうち消防法令上誤っているものを1つ以上選べ

  1. 消防法第5条の規定に関する命令権者は「消防長、消防署長その他の消防吏員」である。
  2. 消防法第5条に基づく命令要件は「防火対象物の位置、構造、設備又は管理の状況について、火災の予防に危険であると認める場合、消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める場合、火災が発生したならば人命に危険であると認める場合その他火災の予防上必要があると認める場合」である。
  3. 消防法第5条に基づく命令の内容は「防火対象物の改修、移転、除去、工事の停止又は中止その他の必要な措置」である。
  4. 消防法第5条に基づく命令の受命者は「権原を有する関係者」であるが、「特に緊急の必要があると認める場合においては、関係者及び工事の請負人又は現場管理者」も受命者になり得る。
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答え 1  消防吏員は含まれないため誤り

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