宅地建物取引業法施行規則が改正されて、重要事項説明に水防法に基づくハザードマップを用いての説明必要になったけれどもハザードマップの何をどう説明するの?
あと、ハザードマップって色々種類があるみたいだけど、対象のハザードマップはどれ?
令和2年8月28日から宅地建物取引業者が不動産取引を行う際の重要事項説明にハザードマップにおける取引対象物件の所在地について説明することが義務化されました。この記事では法改正の概要説明をするとともに、水防法に基づくハザードマップが一体何なのか、ハザードマップの検索の仕方や重要事項説明での説明のポイントについて分かり易く解説します。
宅地建物取引業法施行規則の一部改正についての概要
宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号)第35条の重要事項説明により、宅地又は建物の購入者等に不測の損害が生じることを防止するため、宅地建物取引業者は契約を締結するかどうかの判断に多大な影響を及ぼす重要な事項について、購入者等に対して事前に説明することを義務付けられています。この重要事項説明については法改正前からもあったもので、防災面については造成宅地防災区域や土砂災害警戒区域、津波災害警戒区域内の土地や建物であればその旨を説明することが義務付けられていました。
今回の改正によって「水防法の規定による図面における宅地又は建物の所在地について」の説明をすることが追加されました。
改正の背景は?
平成30年7月豪雨を始めとする大規模水災害の頻発により甚大な被害が生じています。令和2年7月豪雨では7 月 3 日から 9 日にかけて、梅雨前線が同じような場所に停滞し、暖かく湿った空気が流れ込み続け、西日本から東日本にかけての広い範囲で大雨となり、特に、7月 4 日に大雨特別警報が熊本県、鹿児島県に、6 日に福岡県、佐賀県、長崎県に、8 日に岐阜県、長野県に発表され、これらの県では記録的な大雨となりました。
不動産取引時においても、水害リスクに係る情報が契約締結の意思決定を行う上で重要な要素となっていると考えられており、令和元年7月には、宅地建物取引業者が不動産取引時に、ハザードマップを提示し、取引の対象となる物件の位置等について情報提供するよう不動産関連団体を通じて協力依頼があったところです。これらの協力依頼をベースとしたものから法制化へと進み宅地建物取引業法施行規則の一部改正へと至りました。
改正はいつから?
宅地建物取引業法施行規則の一部改正は令和2年7月17日に公布され、令和2年8月28日より施行されます。
重要事項説明の根拠法令は?
改正本文は?
水防法に基づくハザードマップとは?
重要事項説明で必用とされるハザードマップとは水防法施行規則十一条第一号の規定により作成されるものです。
参考に法文を載せました予備知識無しだと前半部分が全く分かりませんね(汗)
表にして纏めるとハザードマップに記載される内容は次のようになります。
水防法施行規則 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
第二条第一号 | 洪水浸水想定区域の指定の区域 | 河川氾濫による被害 |
第二条第二号 | 洪水浸水想定区域の浸水した場合に想定される水深 | 河川氾濫による被害 |
第五条第一号 | 雨水出水浸水想定区域の指定の区域 | 内水被害 |
第五条第二号 | 雨水出水浸水想定区域の浸水した場合に想定される水深 | 内水被害 |
第八条第一号 | 高潮浸水想定区域の指定の区域 | 高潮による被害 |
第八条第二号 | 高潮浸水想定区域の浸水した場合に想定される水深 | 高潮による被害 |
水防法に基づき作成されるハザードマップでは主に河川氾濫によるや内水氾濫による被害、高潮による被害の「区域」と「最大の浸水深」が記載されているものです。
重要事項説明で伝えなければならない事項と見方のポイント!
水防法に基づくハザードマップに記載される事項について分かった所で、次は実際にハザードマップの入手の仕方や説明方法、ハザードマップでは分からない災害リスクについて解説します。
STEP1 ハザードマップの入手と確認
ハザードマップは「市町村が配布する印刷物又は市町村のホームページに掲載されているものを印刷したものであって、入手可能な最新のものを使うこと」とされています。
まずはハザードマップポータルサイトから対象市町村のハザードマップを確認しましょう!
〇まずは「まちを選ぶ」対象市町村を入力します。
〇必用なハザードマップは「洪水」「内水」「高潮」です。市町村によっては「洪水」と「内水」を併せて、水害ハザードマップとして公表しているところもあります。
〇実際にハザードマップをダウンロードします。左のものは多摩川、浅川、大栗川(合流点より下流)の想定最大規模降雨による洪水浸水想定区域、浸水した場合に想定される水深を表示したものであり、右のものは河川からあふれた水や河川に到達する前の地盤の低い箇所、内水氾濫、下水道の処理能力を超えてたまる水などに浸水する範囲です。それぞれ異なる被害を想定したマップであるため、浸水範囲や深さが異なることが分かります。重要事項説明では浸水想定区域に対象物件が位置していなかったとしてもマップによる説明が必要であり、今回については左右両方のマップが必要です。
STEP2 市町村への確認
インターネット等からハザードマップを入手した場合には、このマップが最新のものであるかを確認しましょう。ホームページの更新日等により最近更新されているかどうかぐらいは直ぐに分かりますが、市町村によってはインターネットによる公開が進んでいないところやハザードマップの更新時期といったところもあります。ホームページの問い合わせ先から「ハザードマップが最新のものであること」、公開されていない場合には「市町村にいて当該ハザードマップを作成していない」旨を聴取するようにしましょう。
確認が取れれば印刷して取引が予定される土地等を明示し、重要事項説明書類とします。
STEP3 ハザードマップによる水害被害予測等の重要事項説明
基本的には水害リスクと付近の避難所等について説明します。水害リスクについてはハザードマップに記載される浸水想定区域と取引が予定される土地等との関係性についてです。浸水想定区域内に入る場合については最大の浸水深と1階又は2階の床面の高さについてです。上階避難が可能なのか、浸水により水没する階層によっては、早期の立ち退き避難が必要となります。併せて避難所等の場所についても説明します。
法令上はハザードマップの説明や避難所等の説明までは宅地建物取引業者に義務付けるものではありません、水害ハザードマップが地域の水害リスクと水害時の避難に関する情報を住民等に提供するものであることに鑑み、水害ハザードマップ上に記載された避難所について、併せてその位置を示すことが望ましいとされています。
また、仮に浸水想定区域内に対象物件が位置していなかったとしても、水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮することが必要です。予期せぬ排水の詰まり等の状況によっては水害リスクは浸水想定区域外にも及ぶ可能性はあります。ハザードマップはあくまでもデータ等により算出された被害予測の情報であり、今後の周囲の開発等の状況によっては水害ハザードマップに記載されている内容は変更される場合も有り得ます。
STEP4 ハザードマップには記載されない水害情報
ここから先は宅地建物取引業者にとっては説明する義務はありませんが、顧客に十分納得してもらうための水防上重要な情報になります。土地等の購入予定者の立場では重要事項説明では語られることの無い情報であるため、自身で確認することをオススメする情報です。
洪水被害の予測は洪水予報河川及び水位周知河川だけ!?
洪水による浸水想定区域の指定の対象となる河川は洪水予報河川及び水位周知河川になり、それ以下の中小規模河川の洪水被害は予測が難しく、河川水位に基づく自治体からの避難情報の発信は難しいことが実状です。洪水ハザードマップが無いからといってその理由が「洪水の可能性が極めて低い」事では無いことを知りましょう。
浸水継続時間も重要な要素
水防法に基づくハザードマップには浸水継続時間が記載されていないことが多いですが、浸水想定区域や浸水深と併せて明らかにすることが水防法で義務付けられています。浸水継続時間は在宅避難する場合の備蓄量を決定する目安となるため、以外と重要です。
ため池ハザードマップは対象外
「農業用ため池の管理及び保全に関する法律」が令和元年7月1日施行され、決壊した場合の浸水区域内に住宅等があり、居住者等の避難が困難となるおそれのあるため池に対し、市町村はハザードマップの作成等の避難対策を実施することが義務付けられ、ため池ハザードマップの作成が進んでいます。しかし、こちらのハザードマップは水防法とは異なる法律により定められたものであることから、説明すべきハザードマップではありません。地震を起因として決壊することが想定されたハザードマップであるため、風水害の考え方とは異なるものです。
おわりに
重要事項説明書にハザードマップによる風水害被害の説明が加わりました。ハザードマップは災害時に緊急的に使用する情報と災害前の事前学習的に備える情報の2種類の情報が混在しています。今回の法改正の目的は後者の備える情報の周知徹底です。宅地建物取引業者は契約者へ災害への備える情報を正しく伝え、リスクに正面から向き合わせ、契約者は起こるかもしれない災害を他人事にせず、リスクに備えること、情報を自ら取りに行くことが重要です。宅地建物取引業法施行規則の一部改正へと至ったことを考えるとハザードマップの重要性を改めて感じますね。
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