防火対象物の定期点検報告制度の対象について規模や用途、条件が知りたいな。
特例認定って言葉を聞いたんだけど、何が「特例」的に取り扱われるの? そのメリットは何?
防火対象物定期点検報告制度の対象と内容をご存じですか?防火対象物定期点検報告制度では本来は毎年、点検及び報告が必用ですが、違反が無く優良な状態が3年間継続すれば、次の3年間はその点検と報告を免除するという特例認定が可能です。
この記事では消防法第第八条の二の二に定められる防火対象物の定期点検報告制度が開始した背景や制度の概要、点検内容についても分かり易く解説します。特例認定される防火対象物は火災予防上安全に維持管理されており、施設側からすれば点検費用というランニングコストを0にできる!
消防側と施設側両者にメリットのある特例制度を深掘りします!
防火対象物の定期点検報告制度がスタートした背景とは
平成13年9月に発生した新宿区歌舞伎町雑居ビル火災により、消防法が大幅に改正・強化されました。新宿区歌舞伎町ビル火災では小規模であるにもかかわらず死者44人が発生し、社会に大きな影響を与えました。多くの死傷者を発生させる要因となったと考えられているのは次の2点です。
- 防火管理体制が機能していなかった。
- 階段が1つしか無い状態であった。
この防火管理体制に着目して制度化されたのが〈防火対象物の定期点検報告制度〉になります。
防火対象物の定期点検報告制度の概要と点検内容を解説!
防火対象物の定期点検報告制度がスタートした背景での説明のとおり、ポイントは防火管理体制と1階段です。防火対象物の定期点検報告制度の対象になると次の様な内容について点検を実施し、定期的(毎年)に消防機関へ報告する必要があります。
- 防火管理者は選任されているか。
- 消火・通報・避難訓練を実施しているか。
- 避難経路に避難の障害となる物が置かれていないか。
- 防火戸の閉鎖に障害となる物が置かれていないか。
- カーテン等の防炎対象物品に防炎性能を有する旨の表示が付けられているか。
- 消防法令の基準による消防用設備等が設置されているか。
これらの点検項目は必要な点検項目の一部ですが、基本的には防火管理者が「防火管理業務を適正に執行できているか」、「消防用設備等が設置されているか」に着目した点検内容となっています。
防火対象物の定期点検報告制度の大前提は防火管理者の選任!
防火対象物の定期点検報告制度の対象について、大前提として消防法第8条第1項の防火対象物が対象となることが消防法第8条の2の2に定められています。
消防法第8条第1項は防火管理者の選任について定められており、この防火対象物定期点検報告制度の対象は最低でも防火管理者の選任が必用な規模以上となっています。
制度の対象は、防火管理者の選任と同様に〈管理について権原を有する者〉であるため、複数権原の場合は全ての管理について権原を有する者が対象となります。
防火対象物の定期点検報告制度の対象となる用途と規模を解説!
第八条第一項の防火対象物のうち火災の予防上必要があるものとして政令で定めるものについては消防法施行令第四条の二の二に定められています。用途と規模の覚え方は非常にシンプルであり、用途の対象は特定用途防火対象物に限られ、規模は300人以上かそれ以下で分かれます。
300人未満の規模では〈特定1階段等防火対象物〉かつ〈防火管理者の選任義務がある〉と防火対象物の定期点検報告制度の対象になります。
特定1階段等防火対象物とは
消防法施行令第四条の二の二に用語の説明がされていますが、いつ読んでも難解ですね(汗)
難しいので下の図で簡単にさわりだけ説明します。3階より上階や地下に特定用途が有り、そこからの避難経路としての階段が1つしか無い場合は特定1階段等防火対象物となります。
しかし、階段が1のみであっても屋外階段等の一定の条件を満たせば特定1階段等防火対象物として規制されません。その階段の条件等については以下の記事で解説していますので気になる方はご確認下さい。
防火対象物の定期点検報告制度の特例認定は消防側と施設側どちらもWIN-WINの関係
防火対象物定期点検報告制度では消防法第八条の二の三に基づき、特例を認めています。どういった特例かと言うと、本来は毎年防火対象物定期点検報告が必用なところ3年間はその点検と報告を免除するといった内容です。
なんだ3年間だけか… そう思った方もいるはずですね。3年間が経過してしまうと特例は失効していまいますが、3年間経過する前に再び特例申請を行い、優良と認定されればさらに3年間免除期間が延長されます。
施設側からすれば点検費用は安価ではありません。点検費用が10万円、20万円を超えることはザラです。点検費用の算出はテナント数(管理権原者数)とテナント部分以外の面積に応じて計算されることが多いため、管理権原者数が多い複合用途では高額になりがちです。
過去の私の失敗例ですが、複数権原の複合用途ビルの所有者に対し「定期点検報告が未実施」と立入検査で指導したところ、まさかの共用部分のみ点検報告を提出されてしまいました… 違反者相手に「おみごと!」と思ってしまいました(笑)
単位が管理権原者である以上、法律上は間違っていませんね。それ以降は複数権原=全管理権原者へ「定期点検報告が未実施」を立入検査結果報告書に記載させました。
消防側の視線
特例認定のメリットは消防側にもありますよね。大きな施設や特定1階段等防火対象物で、防火管理業務がしっかりとなされている事は非常に心強いです。特例認定に絡むような届出としては「防火管理者選任解任」、「消防計画作成変更」、「工事中の消防計画」、「消防訓練実施」、「消防設備点検」等が挙げられ、これらが適切に届出されるとともに、不備カ所があれば直ちに是正していただけます。
さらには「防火上優良」であることを施設に認識させることで、特例認定されていることが自信と誇りへと繋がります。こうなると違反している状態や届け出が滞る状態が「気持ち悪い」と認識されるため、さらに防火意識が高まります。
施設側が防火への協力者として覚醒するため、特例認定というブランドを持たせるメリットは大きいですね
施設側の視線
防火対象物の定期点検報告は施設側にとっては良い制度には見えないでしょう。高額な費用負担の割りに点検内容は消防設備が設置されていることと、防火管理者の業務内容についての実績チェック。お金を払って粗捜しをされている気分になります… これが特例認定されると点検費用というランニングコストが0になります!
ホテルであれば旅行業者からの照会に対し「定期点検特例済」と回答され、防火上の安全性が高いことを売りにできます。特に修学旅行等での宿泊先は学生の命を教員が預かるため防火対象物定期点検特例や表示制度に適合するホテル等は有利に選定されると聞きます。
普段やるべきことをやって特例認定されるなら、特例認定を目指さない施設はありませんね!しかし、悲しいことにこの特例制度はあまり認知されていないようです。なぜなら点検業者は売上に直結するため言う必用がありません。施設の方が自ら特例制度を知るしか手段が無いわけです。制度開始から多くの年月が経っているため特例制度も忘れられがちです。
消防機関にとってもメリットは大きいため積極的に特例をセールスしましょう!
特例認定の条件! クリアすべきハードルは?
特例認定が可能となる条件は意外とシンプルです。
- 申請者が当該防火対象物の管理を開始した時から三年が経過していること。
- 過去3年間に消防法に基づく命令がされたことが無く、現にその理由が無いこと。
- 過去3年間に特例の取り消しを受けたことが無く、現にその理由が無いこと。
- 過去3年間点検及び報告を適切に実施しており虚偽の報告が無いこと。
- 過去3年間点検基準に適合していない箇所が無いこと
これらを満たせば特例認定が可能です。権利権原者の変更について、法人自体が変わった場合は申請者が変わったことになってまいます。しかし、代表取締役等の法人代表者が変わっただけの場合は管理権原者が変更されたことにはなりません。
過去3年間に消防法に基づく命令がされたことが無く、現にその理由が無いことについては現地検査を行います。そこで特に消防法第5条の3第1項命令の命令事由が無いかを確認するため、階段等の避難経路は特に注意を要します。
掲げられる標識が変化 防火優良認定証!
晴れて特例認定を受けると防火優良認定証が掲出可能になります。しかし特例認定したからと言って、消防機関から防火優良認定証を進呈するわけではありません。申請者自らが都道府県消防設備協会を通じて防火優良認定証を購入する必要があります。
制度の全体像からお金の匂いがプンプンしますがそこは別として、特例認定時にはその旨もお伝えするようにしましょう!
金額や申し込み先は日本消防設備安全センターHPでご確認ください。
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