違反処理における行政手続法を解説!処分や不利益処分、聴聞や弁明って何?

裁判所 査察、違反処理実務

警告の時はあまり気にならないけど、行政手続法の適用って何を考えればいいの?

聴聞や弁明って違いは何? 消防法令に基づく命令と行政手続法との関係性を教えて!

違反処理を進めていく中で必ず意識しなくてはならないのが行政手続法です。相手に不利益処分を与える訳ですから、行政に課せられたルールは守る必要があります。しかし、いくら凄腕の査察官でも消防法以外の法令は少し疎いものです。行政手続法を理解し、指導する側がルールを犯さないように注意しましょう。

違反処理においてまず行政手続法を理解しよう!

 違反処理を進めていく中で必ず意識しなくてはならないのが行政手続法です。相手に不利益処分を与える訳ですから、行政に課せられたルールは守る必要があります。しかし、いくら凄腕の査察官でも消防法以外の法令は少し疎いものです。行政手続法を理解し、指導する側がルールを犯さないように注意しましょう。行政手続法の目的は「国民の権利利益の保護」であり、その目的を達成するために行政運営における公正の確保透明性の向上を図ることが定められています。

行政手続法の目的とは(行政手続法 第1条)

この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。

処分とは市民(国民)の権利や義務が動くことが特徴!

処分とは(行政手続法 第2条第2項)

行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。

処分と言えば規制等の悪いイメージを連想しがちですが、市民(国民)の権利や義務を動かすこと全般を指しています。

  • 「危険物施設の設置許可」→本来規制されているところに対し許可を与える処分
  • 「特例認定の取り消し処分」→イメージ通りの規制処分

名前に「処分」が入っていなくても、行政が関与し国民の権利や義務が動けば「その他公権力の行使に当たる行為」として処分に該当します。

余談ですが、「公権力の行使」については国家賠償法でも出ており、不作為も含まれると解されています。国や地方公共団体は、しかるべき対応を怠ったために発生した損害についても賠償する必要もあるわけです。

例えば屋内階段内に大量の可燃物が存置していることを消防機関が認識していたとして、消防法第5条の3に基づく命令権(以下命令権という。)を行使しない状態で火災による死者が発生した場合、被害者から命令権を行使しない不作為について国家賠償法に基づく責任を問われる可能性があります。命令権を行使しない不作為についても「公権力の行使」になる訳です。

申請とは許認可を求める行為であり、行政が回答する必要がある!

申請とは(行政手続法 第2条第3項)

法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。

申請とは自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為です。行政庁は申請に対して「どうするか」の回答が必用です。裏を返せば「どうするか」の回答が必用でないような消防用設備等点検結果報告書等は申請には該当しません。申請と届出は別の概念であることに注意しましょう!

申請の例としては以下のものが該当します。許認可等の「等」には認定や検査、登録が含まれています。

  • 消防用設備等特例認定申請書
  • 危険物施設の設置許可申請書

不利益処分の特徴は特定の者へ義務や制限を課すこと

不利益処分とは(行政手続法 第2条第4項)

行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。

イ 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分  ≪事実行為≫

ロ 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分  ≪申請を拒否する処分≫

ハ 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分  ≪本人が同意している処分≫

ニ 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの ≪届出を基にする処分≫

不利益処分は文字通り相手に対して不利益となる義務や制限を課す処分のことです。

不利益処分の例としては消防法第5条の3に基づく措置命令で屋内階段内の可燃物を除去させる義務を課したり、消防法第5条の2に基づく使用停止命令により特定の階の使用を制限したりすることが該当します。しかし上記の様にイからハに該当する場合は処分とならないため注意が必用です。主だったものについて少し解説します。

≪申請を拒否する処分≫については、例えば危険物施設の設置許可申請を不許可とする行為を考えてみて下さい。不許可という処分ですが「不利益処分」には該当しません。

≪届出を基にする処分≫については、防火対象物定期点検特例を受けている防火対象物で管理権原者が変更した際には「管理権原者変更届」の届出が義務付けられています。届出後は特例の執行という処分を与えますが、これは「不利益処分」には該当しません。

行政指導とは指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないもの!

行政指導とは(行政手続法 第2条第6項)

行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。

上記の説明のとおり、行政指導とは処分に該当しないものを指しており、別の概念であることがわかります。行政指導の範囲は「行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において」という部分に限られることもポイントですね。

中高層建築物事前協議の中で福祉施設等には全周避難バルコニーの設置を求める市町村も多いですが、条例や規則、規定に定められていなければ行政指導ですね。

違反処理における警告と命令

警告とは

行政手続法で学んだとおり、行政指導とは処分に該当しないものを指しており「警告」はコレに該当します。警告以降を違反処理規定等で「違反処理」として定めている消防本部が大多数です。

警告とは、違反事実又は火災危険等が認められる事実について、防火対象物の関係者に対し、当該違反の是正又は火災危険等の排除を促し、これに従わない場合、命令、告発等の法的措置をもって対処することの意思表示である。警告は命令の前段的措置として行うのが原則で、性質上行政指導にあたる。したがって、警告自体に法的な拘束力はない。

違反処理標準マニュアルより引用

命令とは

命令は行政庁による公権力の行使であり、相手方に義務を課す処分であることから「処分」、「不利益処分」に該当します。命令するかどうかについては違反に対して警察比例の原則も考慮する必要がありますね。

消防法上の命令は、行政庁としての市町村長、消防長又は消防署長などの命令権者が消防法令の命令規定に基づき、公権力の行使として、特定の者(主として関係者)に対し、具体的な火災危険の排除や消防法令違反の是正について、義務を課す意思表示であり、通常、罰則の裏付けによってその履行を強制している

違反処理において不利益処分をしようとする場合の手続について

不利益処分では行政手続法に基づく意見陳述のための手続きが必用

違反処理を進める中で必ず意識する必要があるのがこの行政手続法第13条です。不利益処分を進める中で、名宛に対し意見陳述のための手続きを執る必要があります。

行政手続法 第13条

行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。

意見陳述のための手続の区分は大きくわけて【聴聞】と【弁明の機会の付与】です。

端的に用語を説明すると、聴聞とは聴聞会で直接意見を述べる機会を与えるものであり、弁明とは弁明書をもって意見を述べる機会を与えるものです。文書ではなく直接意見を述べることができる聴聞の方が複雑な不利益処分と言えます。この制度の目的としては、原則名宛人に意見陳述の機会を与える事で不利益処分の前に言い訳を聞いてやろうといったものです。

聴聞と弁明の機会の付与の違い

聴聞:聴聞会にて直接意見を述べる機会を与える

弁明の機会の付与:弁明書により意見を述べる機会を与える

消防法令で〈聴聞〉が必要な不利益処分とは

  • 防火対象物定期点検特例の取り消し
  • 製造所等の許可の取り消し
  • 危険物取扱者免状の返納命令
  • 危険物保安統括管理者等の解任命令
  • 消防設備士免状の返納命令

聴聞の手続きが必用な不利益処分のポイントは人の行動や作為不作為等が起因となって許認可の取り消しや資格地位の剥奪、解任命令という不利益処分を課すことになります。

消防法では防火対象物の定期点検特例を取り消しする場合は聴聞の手続きが必用になります。聴聞会では取り消し要因となる違反内容について直接言い訳を聞くことになります。その言い訳を聞いた中で不利益処分が本当に必要かを判断するわけですね。

聴聞が必要な不利益処分

  1. 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
  2. 名宛人の資格又は地位を剥奪する不利益処分をしようとするとき。
  3. 名宛人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名宛人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名宛人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。
  4. 上記1~3に掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。

消防法令で〈弁明の機会の付与〉が必要な不利益処分とは

  • 防火対象物における措置命令〈第5条〉
  • 防火対象物における使用停止命令〈第5条の2〉
  • 防火管理業務適正執行命令
  • 統括防火管理業務適正執行命令
  • 製造所等の使用停止命令
  • 予防規定の変更命令

聴聞が必要な不利益処分に該当しない場合は「弁明の機会の付与」が原則必要になります。弁明の機会の付与では聴聞とは違い、いわゆる言い訳を文書で行わせます。これを弁明書と呼びます。

例えば消防法では防火管理者が作成する消防計画について作成されていない時、管理権原者に対し作成させること(防火管理業務を適正に執行すること)を命令することができます。その時、弁明の機会の付与により、「なぜ期日までに作成させられていないのか」について意見を述べる機会を与えることが必用です。

弁明の機会の付与が必要な不利益処分

聴聞が必要な不利益処分に該当しない場合(下記1~4のいずれにも該当しない不利益処分)

  1. 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。
  2. 名宛人の資格又は地位を剥奪する不利益処分をしようとするとき。
  3. 名宛人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名宛人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名宛人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。
  4. 上記1~3に掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。

〈聴聞〉、〈弁明の機会の付与〉が不要な場合の不利益処分

しかし、どんな不利益処分であっても最低弁明の機会の付与が必用かと聞かれると、そうではありません。消防法第5条の3のように緊急的に危険性を排除する必要のある命令や、消防法第17条の4のように面積に応じて消防用設備の設置が義務付けられている場合については聴聞、弁明の機会の付与は不要となります。

「緊急性が高い」又は「実施することが当たり前」の場合には聴聞、弁明の機会の付与は不要であると私はざっくりと覚えています。

行政手続法 第13条第2項

次の各号のいずれかに該当するときは、前項の規定は、適用しない。

一 公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、前項に規定する意見陳述のための手続を執ることができないとき。

二 法令上必要とされる資格がなかったこと又は失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分であって、その資格の不存在又は喪失の事実が裁判所の判決書又は決定書、一定の職に就いたことを証する当該任命権者の書類その他の客観的な資料により直接証明されたものをしようとするとき。

三 施設若しくは設備の設置、維持若しくは管理又は物の製造、販売その他の取扱いについて遵守すべき事項が法令において技術的な基準をもって明確にされている場合において、専ら当該基準が充足されていないことを理由として当該基準に従うべきことを命ずる不利益処分であってその不充足の事実が計測、実験その他客観的な認定方法によって確認されたものをしようとするとき。

四 納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、又は金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき。

五 当該不利益処分の性質上、それによって課される義務の内容が著しく軽微なものであるため名あて人となるべき者の意見をあらかじめ聴くことを要しないものとして政令で定める処分をしようとするとき。

まとめ

命令根拠法令意見陳述の機会の付与
防火対象物に対する措置命令法第5条弁明
防火対象物に対する使用停止命令法第5条の2弁明
防火対象物における措置命令法第5条の3なし
防火管理者選任命令法第8条第3項なし
防火管理業務適正執行命令法第8条第4項弁明
防火対象物定期点検特例の取り消し法第8条の2の3第6項聴聞
消防用設備等の設置維持命令法第17条の4なし
消防設備士免状の返納命令法第17条の7聴聞

予防技術検定にチャレンジ! 不利益処分編

チャレンジ問題1

次の不利益処分を実施しようとするときに聴聞が必要なものはどれか1つ選択せよ。

  1. 防火管理者選任命令
  2. 消防用設備等設置命令
  3. 消防計画作成命令
  4. 防火対象物定期点検特例の取り消し
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答え 4 1及び2については聴聞及び弁明の機会ともに不要、3については聴聞は不要だが、弁明の機会の付与が必用
チャレンジ問題2

行政手続法に関する記述について誤っているものを1つ選べ。

  1. 行政手続法の目的は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することである。
  2. 処分とは、行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する行為をいう。
  3. 申請とは法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。
  4. 行政指導とは行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
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答え 2 問題文は不利益処分についての説明であるため誤り。処分とは行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。
チャレンジ問題3

不利益処分についての記述について、適切でないものを1つ選べ。

  1. 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分は不利益処分にあたらない。
  2. 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分は不利益処分にあたらない。
  3. 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるものは 不利益処分にあたらない 。
  4. 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分であっても直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する行為であれば不利益処分に該当する。
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答え 4 同意の下にする処分であれば不利益処分に該当しないため誤り。
チャレンジ問題4

警告や命令に関する記述について適当でないものを1つ選べ。

  1. 警告とは、違反事実又は火災危険等が認められる事実について、防火対象物の関係者に対し、当該違反の是正又は火災危険等の排除を促し、これに従わない場合、命令、告発等の法的措置をもって対処することの意思表示である。
  2. 警告は命令の前段的措置として行うのが原則で、性質上行政指導にあたるが、一定の強制力を有する。
  3. 命令は、行政庁としての市町村長、消防長又は消防署長などの命令権者が消防法令の命令規定に基づき、公権力の行使として、特定の者に対し、具体的な火災危険の排除や消防法令違反の是正について、義務を課す意思表示であり、通常、罰則の裏付けによってその履行を強制している
  4. 命令は特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限するため不利益処分である。
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答え 2 警告には強制力はないため誤り。
チャレンジ問題5

不利益処分をしようとする場合には、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、意見陳述のための手続を執る必要があるが、次の文章のうち、適切でないものを1つ選べ。

  1. 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするときに選択する意見陳述の機会は「聴聞」である。
  2. 名宛人の資格又は地位を剥奪する不利益処分をしようとするときに選択する意見陳述の機会は「弁明」である。
  3. 消防計画未作成を理由として消防法第8条第4項に基づく防火管理業務適正執行命令を発動する場合、「弁明」の機会を与えることが必要である。
  4. 建物に1つしかない屋内階段内に多量の可燃物が存置されており、これらを消防法第5条の3第1項に基づく除去命令で移動させる場合、公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、意見陳述のための手続を執ることができないと判断し、聴聞や弁面の機会を与えなかった。
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答え 2 名宛人の資格又は地位を剥奪する不利益処分は「聴聞」が必要!

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