共用部分の責任者!統括防火管理者未選任の命令対象は誰なのか?

激流を下る男たちのチームワーク 査察、違反処理実務

統括防火管理者って防火管理上のリーダー的な存在だよね。統括防火管理を要する防火対象物は各管理権原者が一丸となって防火に取り組む必要があるんだよね。

でも複数権原の防火対象物で統括防火管理者がなかなか決まらない。統括防火管理者は建物所有者がするべきなの? 各管理権原者で本当に協議してる?

違反処理に進める場合の受命者はどうするべきなのか教えて!

この記事では、統括防火管理者について、法令の対象となる規模や用途について解説するとともに、違反処理に発展したときの受命者の選定方法のポイントや手法をお伝えします。統括防火管理者や管理権原者についての理解が深まることで上記のような疑問を解決します。

統括防火管理者の選任義務と複数権原 

消防法では防火対象物の用途や規模に応じ、防火管理者の選任が義務付けられています。防火管理者についておさらいすると、防火管理者を選任する必要がある対象は「管理について権原を有する者」となっていますね。つまり、1つの防火対象物で管理権原者が複数人いれば防火管理者も複数人選任される理屈となるわけです。これを複数権原と呼びます。

複数権原になった場合に問題となるのは、それぞれの防火管理者がそれぞれの観点で消防計画を作成すると消防計画の内容等に一貫性が無いおそれがあります。さらに、それぞれの管理権原者の防火管理を実施する範囲は占有部分のみになってしまうと、共用部分の責任者が存在しなくなってしまい、共用部の防火上の維持管理等に支障をきたします。それらを補うのが消防法第8条の2で選任される統括防火管理者です。

統括防火管理者を選任する必要がある階数や用途とは?

まず最初に注目してほしいポイントは、複数権原の地下街(16の2)は消防長若しくは消防署長が指定して初めて統括防火管理者の選任が必要になります。

高層建築物や政令で定められる規模用途の対象については消防長や消防署長の指定のといった条件は存在しません。

政令で定めらられる規模用途については下図の通りです。

統括防火管理者の選任が必用な複数権原の放火対象物について

非特定用途は16項ロしか対象になっていないことがポイントですね。

筆者は複数権原≒統括と勘違いしていた時期があり、複数権原の15項ビル(もちろん高層建築物以外)に対しても統括の指導をしてしまい、後で頭を下げた苦い経験があります(汗)

繰り返しになりますが、非特定用途は16項ロだけです!

消防法第八条の二 

➀高層建築物(高さ三十一メートルを超える建築物をいう。第八条の三第一項において同じ。)その他政令で定める防火対象物で、その管理について権原が分かれているもの又は②地下街(地下の工作物内に設けられた店舗、事務所その他これらに類する施設で、連続して地下道に面して設けられたものと当該地下道とを合わせたものをいう。以下同じ。)でその管理について権原が分かれているもののうち消防長若しくは消防署長が指定するものの管理について権原を有する者は、政令で定める資格を有する者のうちからこれらの防火対象物の全体について防火管理上必要な業務を統括する防火管理者(以下この条において「統括防火管理者」という。)を協議して定め、政令で定めるところにより、当該防火対象物の全体についての消防計画の作成、当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施、当該防火対象物の廊下、階段、避難口その他の避難上必要な施設の管理その他当該防火対象物の全体についての防火管理上必要な業務を行わせなければならない。

施行令第三条の三 法第八条の二第一項の政令で定める防火対象物は、次に掲げる防火対象物とする。

一 別表第一(六)項ロ及び(十六)項イに掲げる防火対象物(同表(十六)項イに掲げる防火対象物にあつては、同表(六)項ロに掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものに限る。)のうち、地階を除く階数が三以上で、かつ、収容人員が十人以上のもの

二 別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項イ、ハ及びニ、(九)項イ並びに(十六)項イに掲げる防火対象物(同表(十六)項イに掲げる防火対象物にあつては、同表(六)項ロに掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものを除く。)のうち、地階を除く階数が三以上で、かつ、収容人員が三十人以上のもの

三 別表第一(十六)項ロに掲げる防火対象物のうち、地階を除く階数が五以上で、かつ、収容人員が五十人以上のもの

四 別表第一(十六の三)項に掲げる防火対象物

統括防火管理者の資格要件を解説!

統括防火管理者の資格を有する者であるための要件について説明します。資格に関しては防火管理者と同様に防火管理講習修了者等の資格を有している者ですが、それ以外にも次の様な条件が定められています。

  • 管理権原者から防火管理上必要な権限が付与されていること
  • 管理権原者から必要な業務の内容の説明を受けており、かつ、十分な知識を有していること
  • 管理権原者から防火対象物の位置、構造、設備の状況等の事項について説明を受けており、かつ、当該事項について十分な知識を有していること

統括防火管理者に与えられる権利と義務

統括防火管理者に与えられる指示権

防火管理上必要な業務を適切に行うために必要な権限及び知識を有する統括防火管理者に与えられる権利として特徴的なものは第2項に定められる他の防火管理者への「指示権」です。統括防火管理者は他の防火管理者よりも上位の責任者となります。統括防火管理者は必用に応じて各防火管理者に対し防火管理業務の適正執行を指示することができます。

消防法第八条の二 第2項

2 統括防火管理者は、前項の規定により同項の防火対象物の全体についての防火管理上必要な業務を行う場合において必要があると認めるときは、同項の権原を有する者が前条第一項の規定によりその権原に属する当該防火対象物の部分ごとに定めた同項の防火管理者に対し、当該業務の実施のために必要な措置を講ずることを指示することができる。

統括防火管理者 全体についての消防計画の作成等の責務

統括防火管理者の責務は次の様なものがあります。作成した全体についての消防計画は防火対象物についての防火ルールです。他の防火管理者が作成する消防計画は統括防火管理者が作成する防火対象物の全体についての消防計画に適合するものでなければなりません!

  • 「全体についての消防計画」の作成・届出
  • 「全体についての消防計画」に基づく、消火、通報及び避難の訓練の実施
  • 防火対象物の廊下、階段、避難口その他の避難上必要な施設等の管理
  • 必要に応じて管理権原者に指示を求め、誠実に職務を遂行すること

全体についての消防計画を解説!

消防計画は防火管理者が義務となる防火対象物及び各テナントの防火管理者が作成します。しかし、統括防火管理者の選任が義務となる防火対象物では、管理権原の及ぶ範囲が不明確であったり、訓練も部分的なものに留まりがちです。

このため「全体についての消防計画」では、管理権原の範囲を明確にし、防火対象物全体の総合的な訓練の実施などを定める事を義務付けています。

全体についての消防計画に定める事項

消防法施行規則第4条
  1. 防火対象物の管理について権原を有する者の当該権原の範囲に関すること。
  2. 防火対象物の全体についての防火管理上必要な業務の一部が当該防火対象物の関係者及び関係者に雇用されている者(当該防火対象物の部分の関係者及び関係者に雇用されている者を含む。)以外の者に委託されている防火対象物にあつては、当該防火対象物の全体についての防火管理上必要な業務の受託者の氏名及び住所並びに当該受託者の行う防火対象物の全体についての防火管理上必要な業務の範囲及び方法に関すること。
  3. 防火対象物の全体についての消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練その他防火対象物の全体についての防火管理上必要な訓練の定期的な実施に関すること。
  4. 廊下、階段、避難口、安全区画、防煙区画その他の避難施設の維持管理及びその案内に関すること。
  5. 火災、地震その他の災害が発生した場合における消火活動、通報連絡及び避難誘導に関すること。
  6. 火災の際の消防隊に対する当該防火対象物の構造その他必要な情報の提供及び消防隊の誘導に関すること。
  7. 前各号に掲げるもののほか、防火対象物の全体についての防火管理に関し必要な事項

全体についての消防計画と各管理権原事の消防計画は整合を図る!

消防法第八条の二 第3項

前条第一項の規定により前項に規定する防火管理者が作成する消防計画は、第一項の規定により統括防火管理者が作成する防火対象物の全体についての消防計画に適合するものでなければならない。

統括防火管理者未選任への違反処理はどうするべき!?

ここまで読むと、統括防火管理者は各管理権原者が協議して防火対象物の防火上のリーダーを選ぶことであることが分かったと思います。

つまり、統括防火管理者の選任義務を有しているのは各管理権原者全員ですね。

STEP1 統括防火管理者未選任の違反指摘は各管理権原者全員に指摘する!

消防法第8条と同じく、消防法第8条の2の管理権原者は1つの防火対象物に対し1人とは限りません。複数権原であるならば、法令の履行義務者は複数人存在します。

まずは行政指導である立入検査結果通知書を全ての管理権原者に対して通知してみましょう。労力は大きいですが効果は絶大です。その理由をSTEP2でお話します。

STEP2 警告書の通知

立入検査結果通知書では事の重大さを認識しなかったとしても警告書が来れば話は違います。

警告書では統括防火管理者未選任と全体の消防計画未作成を両方記載します。

複数権原では契約者と被契約者に分かれていることが大半ですよね。全管理権原者に一斉に警告書を送るとどうなるか… 各テナントは契約書等を武器に「共用部分の管理は建物所有者や管理会社の仕事だ!」と一斉に建物所有者や管理会社を攻め始めます。テナントの矛先が消防から変わる瞬間がココです。

これで是正されることがほとんどですが、ダメなら命令しかありません。筆者の経験でも統括防火管理者未選任での命令は実施したことがありませんので、あくまでも違反処理マニュアルや査察便覧等から実務を予測した内容となります。

STEP3 統括防火管理者未選任での命令

あくまでも統括防火管理者未選任である「消防法第8条の2第5項」での命令単独です。

えっ、全体についての消防計画は命令しないの?と感じた方もいると思います。「消防法第8条の2第6項」による命令を同時に実施しない理由は行政手続法での弁明の機会の付与が必用だからです。

消防法第八条の二 第5項

消防長又は消防署長は、第一項の防火対象物について統括防火管理者が定められていないと認める場合には、同項の権原を有する者に対し、同項の規定により統括防火管理者を定めるべきことを命ずることができる。

STEP4 全体についての消防計画作成命令

統括防火管理者が選任されても全体についての消防計画が作成されていなければ命令を実施します。先に説明した通り、弁明の機会の付与が必用であるため手続きに注意しましょう。統括防火管理者が選任されてから約2週間後には弁明の機会の付与について準備をしましょう。先に警告は実施できているため、弁明の回答期日と同日に命令を行うつもりで事務を進めます。

消防
消防

全体についての消防計画が作成されていない事について弁明の機会を付与します。作成されていない理由はなぜですか?

違反者代表
違反者代表

作成する時間が取れませんでした。

消防
消防

統括防火管理者の選任から2週間が経過しています。作成する時間は十分にあったと考えられるため、不利益処分は妥当と判断します!

消防法第八条の二 第6項

消防長又は消防署長は、第一項の規定により同項の防火対象物の全体について統括防火管理者の行うべき防火管理上必要な業務が法令の規定又は同項の消防計画に従つて行われていないと認める場合には、同項の権原を有する者に対し、当該業務が当該法令の規定又は同項の消防計画に従つて行われるように必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。

まとめ

  • 統括防火管理者の選任が必用な特定用途は複数権原で3階建て以上
  • 統括防火管理者の選任が必用な非特定用途は16項ロだけ!複数権原で5階建て以上
  • 「全体についての消防計画」では、管理権原の範囲を明確にすること!
  • 統括未選任、全体についての消防計画未作成に対して命令を実施するときは両者を切り離して命令する

統括防火管理者や全体の消防計画を作成する必要がある管理権原者は、所有者や占有者に関係なく管理権原者全員です。誰を選任するかを協議するのも各防火対象物に委ねられているため、消防機関としては粛々と事務を執行する必要がありますね。

違反処理の労力と効果が珍しく一致するため、警告から先は意外とスムーズですよ。

行政手続法について気になる方は次の記事をどうぞ!

予防技術検定にチャレンジ! 統括防火管理編(問題数6)

チャレンジ問題1

次の防火対象物のうち、統括防火管理者の選任が必用なものを2つ選べ。なお、収容人員は50人以上で複数権原とする。

  1. 16の2項
  2. 6項ロを含む16項イ(地上2階建て)
  3. 16項ロ(5地上階建て)
  4. 15項(高層建築物)
クリックして答えを確認する!?
答え 3及び4 16の2項については地下街は消防長若しくは消防署長の指定で統括が必用。
チャレンジ問題2

統括防火管理者を定めなければならない防火対象物について、誤っているものを1つ以上選べ。

  1. 地階を除く階数が3以上で、かつ収容人員が30人以上の飲食店で管理について権原が分かれているもの。
  2. 地階を除く階数が5以上で、かつ収容人員が50人以上の事務所で管理について権原が分かれているもの。
  3. 地階を除く階数が3以上で、かつ収容人員が50人以上の非特定用途の複合用途で管理について権原が分かれているもの。
  4. 地階を除く階数が3以上で、かつ収容人員が10人以上の特別養護老人ホームで管理について権原が分かれているもの。
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答えは2及び3 統括防火管理者が必用な非特定用途の対象は16項ロだけ! なお、対象は地階を除く階数が5以上
チャレンジ問題3

統括防火管理者を定めなければならない防火対象物を次の中から1つ以上選べ。

  1. 管理について権原が分かれている地下街
  2. 管理について権原が分かれている高層建築物(用途は問わない)
  3. 管理について権原が分かれている(16)項ロで地上3階以上、かつ、収容人員が50人以上のもの。
  4. 管理について権原が分かれている(15)項で地上5階以上、かつ 、収容人員が50人以上のもの。
クリックして答えを確認する!?
答えは2のみ 地下街は消防長又は消防署長が指定したものに限るため誤り

チャレンジ問題4

統括防火管理者を定めなければならない令別表第一の各用途における統括防火管理者の資格について、次の記述の内、正しいものを1つ以上選べ。

  1. 延べ面積400㎡の3項ロには乙種防火管理講習の修了者を統括防火管理者に定める事ができる。
  2. (6)項ロにおいては、延べ面積に関わらず、乙種防火管理講習の修了者を統括防火管理者に定める事はできない。
  3. 延べ面積300㎡の16項ロは甲種防火管理講習の修了者を統括防火管理者に定める必要がある。
  4. 延べ面積200㎡の4項には乙種防火管理講習の修了者を統括防火管理者に定める事ができる。
クリックして答えを確認する!?
答えは2及び4 3は乙種防火対象物であるため乙種でも可能。
チャレンジ問題5

統括防火管理者に関する次の記述について、誤っているものを1つ以上選べ。

  1. 統括防火管理者は管理権原者から防火対象物全体についての防火管理上必要な業務を遂行するために必要な権限は必用に応じて付与されればよい。
  2. 統括防火管理者は防火対象物全体についての防火管理上必要な業務を行う場合において必要があると認めるときは、各管理権原者により定められた防火管理者に対して、必用な措置を講ずることを指示することができる。
  3. 統括防火管理者は防火対象物全体についての消防計画を作成し、消防長又は消防署長に届け出しなけれなならない。
  4. 統括防火管理者を選任するにあたり、管理について権原を有する者は、政令で定める資格を有する者のうちからこれらの防火対象物の全体について防火管理上必要な業務を統括する防火管理者を協議して定める必要がある。
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答えは1のみ 防火管理上必要な業務を適切に遂行するために必要な権限の付与は統括防火管理者であるための要件であるため「必用に応じて」という表現は誤り。
チャレンジ問題6

統括防火管理者を定めなければならない防火対象物において、当該防火対象物全体についての防火管理に係る消防計画に定める事項で、次の中から正しいものを1つ以上選べ。

  1. 消火及び避難訓練に関する事項(特定用途である場合は年2回以上)
  2. 防火管理上必要な教育
  3. 防火対象物についての火災予防上の自主検査に関すること
  4. 防火対象物の各管理権原者の当該権原の範囲
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答えは4のみ 法8条の消防計画に定める事項と混同しないように注意すること!

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