【消防排煙と建築排煙のまとめ】排煙設備の風道にFDの設置が記載されているのは消防法だけ!

煙への対策 建築基準法関係

建築基準法に基づく排煙設備は前回の記事で理解できたよ!

自然排煙方式と機械排煙方式の2種類があって、設置免除方法がいくつもあったね。

建築排煙の風道が防火区画を貫通するときにFDの設置とかは法令上記載がなかったけど消防法では基準があるって本当!?

そこのところ詳しく教えて!

排煙設備には建築基準法と消防法それぞれから規制を受け、設置要件や基準が異なります。消防法に基づく排煙設備は無窓空間に設置が義務付けられ、建築基準法とは異なり在館者が一定以上避難した後に消防隊が活動することを目的としています。

この記事では消防法に基づく建築排煙の設置義務と建築排煙との違い、免除の要件について分かり易く解説します。

消防法に基づく排煙設備とは

消防法に基づく排煙設備の目的は、在館者が避難した後の消防活動の円滑化です。消防活動は救助や消火活動の全般的な活動であり、火災発生後に有害な煙が建物内に滞留したままでは支障をきたします。特に集客能力の高い施設では逃げ遅れの発生により要救助者を救出しなくてはならないシチュエーションが考えられるため消防法に基づく排煙設備の設置が義務付けられ、対象となる用途は以下のとおりです。消防法に基づく排煙設備のことをこの記事では消防排煙と呼びます。

  • 別表第一(16の2)項に掲げる防火対象物で、延べ面積が1,000㎡以上のもの
  • 別表第一(1)項に掲げる防火対象物の舞台部で、床面積が500㎡以上のもの
  • 別表第一(2)項、(4)項、(10)項及び(13)項に掲げる防火対象物の地階又は無窓階で、床面積が1,000㎡以上のもの

(13)項は駐車場や飛行機の格納庫等であり、集客施設ではありませんが消防排煙が必要な用途に含まれています。これは火災発生時に人命危険は集客施設ほどはありませんが、収容される車や飛行機などが燃焼すると著しく有害な煙は発生するため、消防隊の活動支援を設備面でカバーする必要があるためです。

消防法施行令第28条第1項(排煙設備に関する基準)

排煙設備は、次に掲げる防火対象物又はその部分に設置するものとする。

  1. 別表第一(十六の二)項に掲げる防火対象物で、延べ面積が千平方メートル以上のもの
  2. 別表第一(一)項に掲げる防火対象物の舞台部で、床面積が五百平方メートル以上のもの
  3. 別表第一(二)項、(四)項、(十)項及び(十三)項に掲げる防火対象物の地階又は無窓階で、床面積が千平方メートル以上のもの

消防排煙は窓か機械排煙

消防排煙は排煙窓か機械排煙であることが定められています。

消防排煙で定められる排煙窓の基準

排煙口が直接外気に接している場合は排煙窓が認められており、排煙口の大きさは消火活動拠点かそれ以外かで求められる基準が異なります。

消火活動拠点 2㎡以上
(特別避難階段の附室と非常用エレベーターの乗降ロビーを兼用するものにあつては、三平方メートル)
それ以外当該防煙区画の床面積の1/50以上となる面積
オイレスECO株式会社より画像引用

排煙窓だけではなく機械排煙にも共通しますが、手動起動装置又は火災の発生を感知した場合に作動する自動起動装置を設けることと非常電源を附置することが定められています。建築基準法では非常電源の事を「予備電源」といいますが、意味合いは同じです。

消火活動拠点は「特別避難階段の附室、非常用エレベーターの乗降ロビーその他これらに類する場所で消防隊の消火活動の拠点となる防煙区画」の事であり、出火階や出火室突入前のクリアゾーンとして活用されます。ここが煙で汚染されてしまわないように消火活動拠点では排煙口の大きさや給気口の設置など基準が強化されています。消火活動拠点については後で解説します!

消防排煙で定められる機械排煙の基準

排煙口が直接外気に接していない場合は「風道」と「排煙機」の設置が必要です。風洞は必ず排煙機に接続する必要があるため、建築基準法で認められているスモークタワー方式の排煙は消防排煙では不可能です。また、排煙機とは煙の吸い出しを目的としています。まずは「排煙機」について見てみましょう!

排煙機のスペック

排煙機の吸い出し性能についても基準が定められており、排煙窓同様に消火活動拠点かそれ以外かで求められる基準が異なります。 消火活動拠点では240㎥/分(特別避難階段の附室と非常用エレベーターの乗降ロビーを兼用するものにあつては、360㎥/分)の空気を排出する性能が求められており、他の部分は設置根拠によって異なります。

用途等スペック
(16の2)項 300㎥/分(一の排煙機が2以上の防煙区画に接続されている場合にあつては、600㎥/分)
(1)項、(2)項、(4)項、 (10)項、(13)項 120㎥/分又は当該防煙区画の床面積に1㎥/分(一の排煙機が二以上の防煙区画に接続されている場合にあつては、2㎥/毎分)を乗じて得た量のうちいずれか大なる量

地下街以外で複数の排煙区画を1つの排煙機で共用する場合の審査では、1つの排煙機に接続される風道を確認し、一番大きい排煙区画に2㎥を乗じて得た性能を有しているか確認します。区画が小さい場合でも最低スペックが定められていることもポイントですね。

排煙風道と防火ダンパー

建物の規模が大きくなれば風道が防火区画を貫通することは十分にあり得ます。消防排煙ではこの風道が防火区画を貫通する場合の防火ダンパーの基準が定められています。消防排煙ではと強調しましたが、実は建築排煙では風道が防火区画を貫通した場合の防火ダンパーの設置について基準は設けられていません。換気口や通気口では防火区画や主要間仕切りを貫通する場合のFDの基準があるのに、建築排煙の風道には基準が設けられていないのはなぜでしょうか?

答えは建築排煙の目的にあります。建築排煙設置の目的は、火災発生時に発生した煙を有効に排出して在館者の避難を円滑に行わせることにありますね。なので、仮にFDが早期に閉鎖してしまうと排煙設備が上手く機能せず、排出されるはずの煙が防火区画内に留まり、避難の障害となる可能性が出てきます。建築排煙は火災初期での煙を想定していることが分かります。

排煙設備
防火区画を貫通する風道でFDが閉鎖すると煙が抜けない状態になってしまう。

しかし、大多数の在館者が避難した後にで火災が進行すると、排煙風道が防火区画貫通しているため火災拡大を助長してしまう可能性があります。防火区画の耐火時間に比べて排煙風道に求められる不燃材料の方が火災への耐久性が低いためですね。

だからこそ、消防排煙では火災の進行に併せて温度が上昇し、排煙風道内の温度までもが一定以上の温度となればFDを閉鎖し、火災の拡大を助長しないように配慮しています。一定以上の温度は280℃以上とされています。

延焼拡大抑制と在館者避難優先という2つの役割が天秤に掛けられており、280℃が一つの境とされていますが、ガソリン等の爆発的に燃焼する助燃材があると、風道温度も一気に上昇してFDが閉鎖し、機械排煙の役割を果たせなくなってしまう可能性があることを忘れてはいけません。

消防法施行規則第30条第3項ホ

耐火構造の壁又は床を貫通する箇所その他延焼の防止上必要な箇所にダンパーを設ける場合にあつては、次に定めるところによること。

(イ) 外部から容易に開閉することができること。

(ロ) 防火上有効な構造を有するものであること。

(ハ) 火災により風道内部の温度が著しく上昇したとき以外は、閉鎖しないこと。この場合において、自動閉鎖装置を設けたダンパーの閉鎖する温度は、280℃以上とすること。

消火活動拠点での基準

消火活動拠点における消防排煙について、他の部分と異なる基準は大きく分けて次のとおりです。

  • 【吸気口】吸気口を消火活動拠点ごとに1つ以上設置すること
  • 【FD】排煙口又は給気口に接続する風道には、自動閉鎖装置を設けたダンパーを設置しないこと
  • 【排煙性能】排煙窓の場合、窓の面積は2㎡以上
  • 【排煙性能】機械排煙の場合、排煙機の吸い出し能力は240㎥/分以上

【排煙性能】について、特別避難階段の附室と非常用エレベーターの乗降ロビーを兼用するものは求められる性能が1.5倍になります。消火活動拠点においてFDが閉鎖してしまうと、活動している消火隊員に重大な人命危険が生じるため自動閉鎖装置を設けたダンパーは設置ができません。さらに、新しい基準として吸気口の設置が求められています。

吸気口の設置について

消火活動拠点以外では排煙機による吸い出しや、火災熱による膨張での浮力による煙の移動を期待した排煙窓で排煙性能を求めていましたがが、消火活動拠点ではさらに吸気口の設置が求められます。これは吸排気の両方を満たすことでさらに排煙能力を上げたものとなっています。この吸気口は床面や床に近い壁面に設置することが求められていますが直接外気に接している状態であれば吸気窓でも問題ありません。しかしながら、消防職員なら分かると思いますが、吸気口と排気口を同じ壁面に設置したとしても煙の移動は効率的ではありません。なので吸気口が直接外気に接する吸気窓で設ける場合は排気口と対面の位置に設けるようお願いしましょう。もちろん機械吸気の場合でも排気口と離れた位置とすることが有効ですね。

非常電源は建築排煙と消防排煙で基準が異なる!

消防排煙と建築排煙で共通する項目も多いですが、機械排煙の場合、非常電源の基準は特に注意が必要です。建築排煙では非常電源の事を予備電源と呼び、使用できる予備電源の種類は蓄電池か自家発です。

もう気が付きましたか!?

消防法に基づく非常電源では非常電源専用受電も認められていますね。建築排煙と共用で排煙機を設置する場合は非常電源専用受電では建築基準法の予備電源として満足できなくなってしまいます。なので、建築基準法に基づく排煙設備の設置も必要な場合は自家発を選択することが多いです。

(13)項イの自動車車庫では規模によっては建築排煙の設置が必要ない場合もあり得ます。消防排煙のみの義務であれば(13)項イは非特定用途であるため非常電源専用受電設備の設置が可能となる訳です。

消防法施行規則第30条第8項

非常電源は、第十二条第一項第四号の規定の例により設けること。

屋内消火栓設備の非常電源は、非常電源専用受電設備、自家発電設備、蓄電池設備又は燃料電池設備(法第十七条の二の五第二項第四号に規定する特定防火対象物(以下「特定防火対象物」という。)で、延べ面積が1,000㎡以上のもの(第十三条第一項第二号に規定する小規模特定用途複合防火対象物を除く。)にあつては、自家発電設備、蓄電池設備又は燃料電池設備)によるものとし、次のイからホまでに定めるところによること。

〈以下略〉

消防排煙の設置免除

消防排煙の設置免除とは消防法施行令第28条第3項による「排煙上有効な窓等の開口部が設けられている部分その他の消火活動上支障がないものとして総務省令で定める部分」に該当させることです。

消防法施行令第28条(排煙設備に関する基準)

第一項各号に掲げる防火対象物又はその部分のうち、排煙上有効な窓等の開口部が設けられている部分その他の消火活動上支障がないものとして総務省令で定める部分には、同項の規定にかかわらず、排煙設備を設置しないことができる。

この消防排煙の設置を要しない部分は消防法施行規則第29条に定められており、実質次の2つのみです。

  • 排煙窓の設置と同じ基準で直接外気に開放されている部分(常時開放)
  • 主として防火対象物の関係者及び関係者に雇用されている者のみに使用される部分で適応する特殊消火設備(移動式を除く)を設けたもの

この他に消防庁長官が定める部分というのがありますが、記事執筆時である令和2年でも未制定です。

消防法施行規則第29条 (排煙設備の設置を要しない防火対象物の部分)

令第二十八条第三項の総務省令で定める部分は、次の各号に掲げる部分とする。

一 次のイ及びロに定めるところにより直接外気に開放されている部分

イ 次条第一号イからハまでの規定の例により直接外気に接する開口部(常時開放されているものに限る。ロにおいて同じ。)が設けられていること。

ロ 直接外気に接する開口部の面積の合計は、次条第六号ロの規定の例によるものであること。

二 令別表第一に掲げる防火対象物又はその部分(主として当該防火対象物の関係者及び関係者に雇用されている者の使用に供する部分等に限る。)のうち、令第十三条第一項の表の上欄に掲げる部分、室等の用途に応じ、当該下欄に掲げる消火設備(移動式のものを除く。)が設置されている部分

三 前二号に掲げるもののほか、防火対象物又はその部分の位置、構造及び設備の状況並びに使用状況から判断して、煙の熱及び成分により消防隊の消火活動上支障を生ずるおそれがないものとして消防庁長官が定める部分

階段等は令32条特例による設置免除

消防排煙の設置義務が生じた場合は部分や階を単位として設置義務が生じます。そこから設置免除する部分は実質常時開放される部分や特殊消火設備を設けた部分に限られます。なので基準上は階段やパイプダクト、便所などにも消防排煙の設置が必要となってしまいます。しかし、人命危険の大小や有害な煙の発生量等を勘案して、消防本部ごとに特例基準等が設けられています。特例適用を考える場合は排煙区画図にどの基準で設置を免除したいか詳細にカラーリングしてもらった図面の提出を求められることが多く、私自身、消防同意前に特例申請エリアの検討をしていました。

おわりに

建築基準法に基づく排煙設備と消防法に基づく排煙設備の違いは理解できましたでしょうか?

それぞれの排煙設備の立法趣旨が異なることを理解することが非常に重要であると私は考えます。一級建築士の方でさえ、1436号告示や避難安全検証法によって消防排煙の設置免除も可能だと誤解されている方は少なくありません。逆に消防職員であっても防火区画には何としてでもFDの設置が必要で延焼拡大防止のために早く閉鎖した方が良いと誤解している方もいることでしょう。最後になりましたが重要なことなのでもう一度書きます。

建築排煙の目的は在館者の安全な避難のためであり、消防排煙の目的は火災進行後の消火活動の円滑化のためです。両者の役割を理解した設計や指導を心がけましょう!

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