違反処理標準マニュアルのフロー図って各種法令を理解してないとなかなか読み進められないよね。刑事訴訟法や非訟事件手続法とか分かり易く教えて!
消防法令における違反処理は違反処理標準マニュアルに基づき進められることが基本とされていますが、違反処理標準マニュアルの読解には消防法だけの知識では不十分です。刑法や刑事訴訟法、非訟事件手続法について、消防法令と関連付けて分かり易く解説します。
違反の種類(罰則の性格による分類)
行政機関が法令違反を覚知して考える事は「どのように違反を是正させ安全な状態に戻すか」です。この「どのように違反を是正させ安全な状態に戻すか」に関しては当然、行政指導による相手方の任意に基づいての是正方法も含んでおり、それを期待していますが、場合によっては行政指導だけでは違反是正が進まないことも度々あります。行政指導の次のステップとしてどのように行政が動くのかは「罰則の性格」によって異なります。端的に言えば行政指導から命令に進むのか、それとも告発に進むのかの違いです。
命令違反を前提とする罰則規定
これは消防関係法令の違反を理由に命令する根拠法令がある場合のことを指します。
例えば、自動火災報知設備の未設置であれば、消防法第17条第1項に定める消防用設備等の設置維持管理ができていない事を理由に消防法第17条の4命令へと進むことが可能です。
このような命令違反を前提とする罰則規定の違反処理については、以下の様に進行します。
違反の覚知⇒通知⇒警告⇒命令⇒告発(又は使用停止命令等)
規定違反に対する直接の罰則規定
通称、直罰規定と呼ばれ、違反を理由として命令条文が定められていないものを指します。違反理由に対して罰金刑等の罰則が定められています。先ほど出てきた自火報未設置を理由とする設置命令である消防法第17条の4について確認すると、消防法第41条に罰則が定められています。
法令違反を理由として罰則の適用を「告発」により求めていきます。告発により、刑罰を求めていくため、刑事訴訟法の適用を受けます。
消防法第17条の4命令違反を理由とした他の命令
先ほど消防法第17条の4に基づく命令違反は告発によって刑事訴訟法の適用を受けると説明しましたが、告発以外による違反処理も可能ですよね。
ご察しのとおり、消防法第17条の4に基づく命令違反を理由として、使用停止命令を発することも消防機関には認められています。
この場合は、消防法第17条の4に基づく命令が1つの要件として捉えられています。命令要件としては「引き続き、火災の予防に危険であると認める場合、消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める場合又は火災が発生したならば人命に危険であると認める場合」に限定されるため基準の適用は慎重を要します。
このように違反内容によっては「命令違反を前提とする罰則規定」、「規定違反に対する直接の罰則規定」の両方の性格を有することもあり得ます。言い方を変えると、消防法第17条の4命令の履行期限を過ぎれば、どちらも成立する可能性が有り、告発を実施することと使用停止命令を発動することを選択しなければならないという訳ではありません。
違反の種類(罰則の種別による分類)
告発により刑罰を求めると説明しましたがその点についても深掘りします。消防法第9章には罰則について定められていますが、罰則=刑罰との認識は正しいのでしょうか? 答えは否! 刑事訴訟法の適用を受けるかどうかで分類ができます。
刑罰とは
刑法第9条には刑の種類が定められており、これらを違反者に求める場合、刑事訴訟法の適用を受けるため告発によって対応します。⇒行政刑罰
刑事訴訟法については後で解説します。
過料とは
消防法に定められる罰則を一通り見てみると上記の刑の種類に該当しないものが出てきますね。過料という言葉が何度か出てきます。
過料(かりょう、あやまちりょう)は行政法上の秩序罰の事で行政刑罰とは異なります。行政上の秩序罰とは、行政上の義務違反ではあるが、直接的に社会的法益を侵害し、国民の生活に悪影響をもたらさない軽い違反行為(通知義務違反など)に対して科せられる金銭的制裁のことであり、これらを違反者に求める場合、刑事訴訟法の適用は受けません。
違反処理標準マニュアルでは「過料事件の通知」とされており、非訟事件手続法の適用を受けるため、地方裁判所に通知することになります。過料事件の通知等については非訟事件手続法の第5編に定められており第119条を以下に抜粋します。
消防法令における過料を考える!
消防法における過料の例として、防火対象物定期点検特例の管理権原者変更届未届について考えていみたいと思います。
防火対象物定期点検特例(消防法第8条の2の3)の効力を失う条件として、「当該防火対象物の管理について権原を有する者に変更があったとき」というものがあります。そしてこれは、変更前の管理権原者に届け出をさせることで、消防が特例を失効させることで制度が成立しており、勝手に管理権原者が変更されていれば、消防サイドで管理しきれなくなってしまいます。そのため過料という秩序罰により制度が維持されています。
重要なポイントとしては届出の義務を負うのは「当該変更前の権原を有する者」です!
筆者の苦い経験として、テナント変更後の新しい管理権原者に「管理権原者変更届」の提出を求めていたことがありました(汗) 今思えば、無知とは恐ろしいものです…
違反処理と刑事訴訟法
刑事訴訟法の基本的用語
告発や刑事訴訟法について学ぶ中で重要になる基本適用語について以下解説します。告訴や公訴、告発など、よく似た言葉が続きますので頭の中でしっかりと整理しながら読み進めて下さい。
告発と告訴
「告訴」は被害者が捜査機関に対してその事実を申告し、かつ犯人の処罰を求める意思表示になります。
対して「告発」は被害者その他の告訴権者又は犯人以外の第3者が捜査機関に対してその事実を申告し、かつ犯人の処罰を求める意思表示になります。
両者の共通事項としては犯人に処罰を求める意思表示であり、この意思表示が無ければ告発、告訴にはなり得ません。犯人による被害の事実を申告するに留まり、処罰を求める意思表示を伴わないものは「被害届」となります。
告発、告訴は書面でも口頭でも可能ですが、違反事実を明確にするためにも通例書面で行われます。告発、告訴の提出先は検察官又は司法警察員です。どちらを提出先に選択することも可能ですが、最終的に検察官へと告発書類等が送られることになります。
参考ですが、告発、告訴を受理すると捜査する義務が生じます。被害届では捜査義務までは生じません。
公務員の告発義務!?
刑事訴訟法第239条を見ると第2項に官吏又は公吏の告発について定められています。
文面だけを読むと公務員は犯罪行為の存在を思料したときは告発義務が生じるように見えます。しかし、これは当該公務員の職務上正当と考えられる程度までの裁量まで禁止するものではないという考えられ方が一般的です。
公訴と起訴裁量主義
起訴は国家機関のうち検察官のみに認められており、日本では私人による起訴(私訴)が認められていません。公訴とは検察官が特定の刑事事件について裁判所の審判を求める意思表示のことであり、違反処理において公訴と起訴を使い分ける事にあまり必要性はありません。
そして、公訴は検察官のみに認められると同時に、公訴するかどうかは検察官の判断に委ねられています。コレを起訴裁量(便宜)主義と呼びます。
起訴裁量(便宜)主義とは犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況等の理由から検察官が起訴するかどうかを決定できるものです。なので、告発された犯罪行為が全て公訴去れる訳ではありません。
検察官が裁判所の審判を求める必要がないと、公訴する必要が無いと判断した場合には不起訴となります。不起訴はその理由に応じて次の様に区分することができます。
嫌疑なし 捜査の結果、被疑者に対する犯罪の疑いが晴れた場合や犯罪として成立するか否かの心証が得られない場合。
嫌疑不十分 捜査の結果、犯罪としては一応成立しているが、公判を維持するだけの証拠資料が十分でない場合。裁判において有罪の証明をするのが困難と考えられる場合。
起訴猶予 犯罪は成立しているが諸般の事情により処罰するには及ばないと判断した場合。簡単に言うと勘弁してやろうと判断された場合。
その他 被疑者死亡や公訴の時効が完成した場合等
起訴裁量主義により、同じ違反内容だったとしても他の事情により起訴猶予とされることもあります。消防法第17条の4命令違反による告発を例にとると、告発後の消防用設備等の設置の有無や着金までのスピードなど違反者の反省が見えるかどうかによって公訴されるか不起訴処分になるか異なることもあります。
公訴の時効
公訴時効とは犯罪が終わった時から一定期間を過ぎると犯人を処罰することができなくなる定めの事で、検察官が公訴(起訴)することができなくなります。公訴時効の期間はその犯罪の法定刑の重さにより定められ、消防法令違反の多くが3年になります。
また、公訴時効の起算点は原則として犯罪行為が終わった時から進行します。消防法第17条の4命令を例にすると、消防用設備等の設置命令期限を過ぎた時が起算点となる訳です。
おわりに
違反処理マニュアルを読み進める中で重要になる用語について理解は進みましたか? 単純に法令やマニュアルを読むだけでは違反処理の実行は難しいかもしれませんが、それでも行政人として最低限必要な知識を有しておくことは大切です。実務に関連付けながら学習することで「知識」から「スキル」へと変えることが可能となるのです!
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