特定小規模建築物は構造規制が大幅緩和、消防目線での警報設備を解説!

木造建築物が目立つ景観 建築基準法関係

建築基準法改正で200㎡未満の小規模建築物は構造等が圧倒的に緩和されるんだよね。

でも構造を緩和するための条件に警報設備の設置っていうのがあるけど警報設備は自火報の事? それとも住警器とかでもいい?

建築基準法改正により、延べ面積200㎡未満の建物は「特定小規模建築物」と区分され、従来なら3階部分に特殊建築物の用途が入ると耐火建築物等とする必要がありましたが、建物によっては耐火要件や竪穴区画も不要となります。構造緩和のため警報設備の設置を要する用途もあるため自火報やスプリンクラー等の消防設備の理解も必要です。消防目線からの建築基準法改正を解説します。

建築基準法改正の背景

建築基準法の一部を改正する法律(平成30年法律第67号)について令和元年6月25日に施行されています。改正の背景をおさらいすると、次のように発表されています。

建築基準法改正の背景

最近の大規模火災を踏まえ、老朽化した木造建築物の建替え等による市街地の安全性の向上や、建築物の適切な維持管理による建築物の安全性の確保を円滑に進めることなどが課題となっています。
 また、空き家が増加傾向にある中で、住宅をそれ以外の用途に変更して活用することが求められており、建築行政においても、安全性の確保と既存建築ストックの有効活用を両立しつつ、建築規制を合理化していく必要があります。
 さらに、木材を建築材料として活用することで循環型社会の形成や国土の保全、地域経済の活性化に貢献することが期待されており、近年の技術開発も踏まえ、建築物の木造・木質化に資するよう、建築基準の合理化が求められています。

国土交通省HP[建築基準法改正の背景について]より引用

建築規制の合理化と既存ストックの有効活用という面からは、建築基準法第6条第1項第1号の改正で別表第1(い)欄に掲げる防火対象物のうち確認を要するものを当該用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超えるものへと拡大されるとともに、耐火建築物等としなければならない特殊建築物を定める第27条第1項からも、階数が3以下で200㎡未満の小規模な建築物が除かれるようになります。

大きなポイントとしては200㎡以下の用途変更に対する確認申請が不要になる点と構造規制が緩和される「特定小規模建築物」という基準が追加された点です。以下、それぞれ解説します。

200㎡以下は確認申請不要だが… 建築基準法の遵守は必須!!

よく勘違いされるのが「確認申請が不要であれば、建築基準法への適合も不要である」といった誤った考え方です。民泊関連で既存の一般住宅や空き家が改装されることが多くなりましたが、確認申請が不要であっても各種法令は守る必要があります。意匠にこだわった結果、各種基準を忘れていた(汗)ということもあります…

今回改正で確認申請が必用となる面積が100㎡から200㎡へと拡大された背景には建築士への信頼や期待の表れであるとも感じています。小規模な用途変更工事であっても必ず建築士や市町村の建築部局へ相談しましょう。

それと、消防の立場では消火器が義務になる150㎡や50㎡(無窓階)以上で防火対象物として使用開始や用途変更の届け出が必用になることが多いです。消防への届出により検査が必要になることも多く、建築基準法に適合しない理由として非常照明未設置や排煙無窓の居室による1436号告示に基づく内装不適合が多かった気がします。

耐火要件の緩和! 階数が3で200㎡未満は除く

建築基準法第二十七条(耐火建築物等としなければならない特殊建築物)

次の各号のいずれかに該当する特殊建築物は、その主要構造部を当該特殊建築物に存する者の全てが当該特殊建築物から地上までの避難を終了するまでの間通常の火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために主要構造部に必要とされる性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものとし、かつ、その外壁の開口部であつて建築物の他の部分から当該開口部へ延焼するおそれがあるものとして政令で定めるものに、防火戸その他の政令で定める防火設備(その構造が遮炎性能に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものに限る。)を設けなければならない。

  1. 別表第一(ろ)欄に掲げる階を同表(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供するもの(階数が三で延べ面積が二百平方メートル未満のもの(同表(ろ)欄に掲げる階を同表(い)欄(二)項に掲げる用途で政令で定めるものに供するものにあつては、政令で定める技術的基準に従つて警報設備を設けたものに限る。)を除く。
  2. 別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供するもので、その用途に供する部分(同表(一)項の場合にあつては客席、同表(二)項及び(四)項の場合にあつては二階の部分に限り、かつ、病院及び診療所についてはその部分に患者の収容施設がある場合に限る。)の床面積の合計が同表(は)欄の当該各項に該当するもの
  3. 別表第一(い)欄(四)項に掲げる用途に供するもので、その用途に供する部分の床面積の合計が三千平方メートル以上のもの
  4. 劇場、映画館又は演芸場の用途に供するもので、主階が一階にないもの(階数が三以下で延べ面積が二百平方メートル未満のものを除く。

火災時に在館者が安全に避難するためには、在館者が火煙に影響されない地上にたどり着くまでの避難時間を確保する必要があります。在館者が煙に巻かれることなく避難できるかどうかは、建物内の可燃物量(煙の拡大・降下速度の決定要因)と地上に到達するまでの距離が重要になります。

この可燃物量の決定は建物の収容能力に応じており、建築基準法の防火規定においては用途に応じた可燃物量を想定し基準を定めています。

しかし、火災の初期段階は可燃物量は関係ありませんよね。火災の成長パターンはガソリン等の危険物を用いない限りは、火災プリュームの発生から天井方向へと拡大し、天井面から各方面へと燃え広がる天井ジェットへと移行し成長します。

従って、火災の初期段階で避難が完了する程度の小規模建築物であれば、用途の違いによる避難安全性には差が生じないことになるため、200㎡未満という小規模なものを対象とした基準で耐火建築物としなくても良い基準が定められました。

今後、このような200㎡未満で耐火要件が不要となる建築物の事を「特定小規模建築物」と呼称されます。

ポイント

従来は3階以上の階に特殊建築物の用途(い欄1項~4項)が入ったときは耐火建築物等としなければならなかったが、階数が3で延べ面積が200㎡未満のものは例外的に除かれるようになった!

規制緩和となる用途とさらなる条件は警報設備の設置!

報27条第1項第1号では基本的には耐火要件を緩和する用途が記載されていますが、次のものは警報設備の設置が必要となります。

耐火要件を緩和するために警報設備の設置が必要な用途
  • 病院
  • 診療所(患者の収容施設があるものに限る)
  • ホテル
  • 旅館
  • 下宿
  • 共同住宅
  • 寄宿舎
  • 児童福祉施設等(入所する者の就寝があるものに限る)

つまり3階部分が飲食店やスポーツクラブの用途かつ200㎡未満であれば耐火要件はそのまま掛かりませんが、ホテルや病院等の上記の用途が入る場合は警報設備の設置により耐火要件が免除されます。これらの用途の共通事項は「就寝利用の用途」という点ですね。

建築基準法施行令第110条の4(警報設備を設けた場合に耐火建築物とすることを要しない用途)

法第27条第1項第1号の政令で定める用途は、病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎及び児童福祉施設等(入所する者の就寝があるものに限る)とする。

でも、これらはあくまで建築基準法に関する法27条に限定される話であり、消防法の規制は別であることを理解する必要があります。3階部分が飲食店であれば200㎡未満の特定小規模建築物であるため耐火要件は警報設備の設置と関係なく除けそうですが、消防法では特定一階段等防火対象物になれば自火報が必用になりますよね。建築基準法だけに目を向けていたら痛い目にあいそうです…

建築基準法施行令第110条の4で求められる警報設備を解説!

では、病院等の耐火要件を除くために必要となる警報設備について、非常ベルや自火報等の具体例は定まっているのでしょうか。

答えは「自動火災報知設備」又は「特定小規模施設用自動火災報知設備」です。これらを建築設備として設置することが条件となっています。

私の考えでは200㎡未満でかつ3階を有する規模の場合、1階段がほとんどになると思っています。3階に消防法令での特定用途が入れば特定一階段等防火対象物となり消防法での自火報が必要になります。屋外階段等で特定一階段等防火対象物を回避したとしても木造ならば「建築設備としての自火報」が必要になる。このように、木造に対して自火報を設置しなくてはならない範囲がやや拡大されたと考えます。

危惧するポイントとしては、自火報の設置検査のノウハウが建築部局には無いため、「建築設備としての自火報」なのに消防機関に検査を捲られることですかね(汗)

もちろん消防法第17条での設備でも無いため届出や検査義務は消防機関にありません。

令和2年の2月現在では特定小規模建築物の自火報に対して、消防法令の基準に基づいて設置するよう指定確認検査機関から指導されることが多いようです。200㎡未満の3階建て共同住宅でしたが、消防法令の基準通りに自火報が設計されていました。もし仮に消防同意審査にて感知器の設置場所に追加が必要となれば指導(補正処理)とするべきか、建築設備なので不同意とするかで消防機関ごとに意見が割れそうです。

竪穴区画の緩和 戸で区画!?

新たな基準の整備として建築基準法施行令第112条では特定小規模建築物のうち一定の用途について、避難経路となる階段等の竪穴部分に一定の区画を求めています。従来の竪穴区画とは異なり大きく緩和されたものであり、これらも「就寝利用の用途」がメインですが、児童福祉施設等は通所施設にまでも求めています。

それでは新設の施行令第112条第11項、第12項を一度見てみましょう!

建築基準法施行令第112条 11項

三階を病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。次項において同じ。)又は児童福祉施設等(入所する者の寝室があるものに限 る。同項において同じ。)の用途に供する建築物のうち階数が三で延 べ面積が二百平方メートル未満のもの(前項に規定する建築物を除く 。)の竪穴部分については、当該竪穴部分以外の部分と間仕切壁又は法第二条第九号の二ロに規定する防火設備で区画しなければならない 。

ただし、居室、倉庫その他これらに類する部分にスプリンクラー設 備その他これに類するものを設けた建築物の竪穴部分については、当該防火設備に代えて、十分間防火設備(第百九条に規定する防火設備 であつて、これに通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後十分間当該加熱面以外の面に火炎を出さないものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。第十八項において同じ。)で区画することができる。

建築基準法施行令第112条 12項

三階を法別表第一 (い)欄(2)項に掲げる用途(病院、診療所又は児童福祉施設等を除く。)に供する建築物のうち階数が三で延べ面積が二百平方メートル未満のもの(第十項に規定する建築物を除く。)の竪穴部分については、当該竪穴部分以外の部分と間仕切壁又は戸(ふすま、障子その他これらに類するものを除く。)で区画しなければならな い。

第11項 病院、診療所(収容施設)、児童福祉施設等(就寝用途)

第11項では間仕切壁の設置を義務付けるとともに、開口部へは20分の遮炎性能を有する防火設備の設置を求めています。しかし、スプリンクラー設備や水道連結型スプリンクラー設備の設置をすれば10分間の遮炎性能で良いこととしています。

これはスプリンクラー設備を設けた場合は、火災室における火源の急激な拡大を抑制できると考えられているからです。

ところで皆さんは水道連結型スプリンクラー設備の散水状況を見たことがありますか?

はっきり言って、水道連結型スプリンクラー設備による消火は期待できないレベルです(汗)

あくまでも延焼拡大の抑制という位置付けとなるため、初期消火や避難誘導の重要性は変わらない事を補足しておきます。

施行令第112条第11項

特定小規模建築物である病院、診療所(収容施設)、児童福祉施設等(就寝用途)

→ 間仕切壁 + 防火設備(20分 or 10分)

第12項 児童福祉施設等(通所施設)、ホテル、共同住宅等

第11項との最大の違いは防火設備ではなく「戸」で良いことです。これは第11項の用途と比較すると利用者の避難時間は短くなることが理由とされています。

これらの間仕切壁や戸について一定の時間的な基準は設けられてはいませんが、火災時の接炎によって直ちに貫通するおそれのあるものは対象外としています。

間仕切壁の具体例は両面9.5mm以上の石膏ボード張り、戸の具体例はフラッシュ戸が挙げられています。

戸については自火報連動閉鎖や遮煙性、遮炎性が求められるため竪穴部分の火煙による汚染防止という観点は従来規定の考え方と変わりませんね。

施行令第112条第12項

特定小規模建築物である児童福祉施設等(通所施設)、ホテル、共同住宅等

→間仕切壁 + 戸

おわりに

今回の建築基準法改正で200㎡という一つのラインが引かれましたね。小規模であれば避難の時間は早くなるため建築規制は緩和されるという考え方ですが、消防目線は同じとは限りませんね。新宿歌舞伎町の雑居ビル火災や長崎県グループホーム火災で我々が学んだことは小規模であっても火災が発生すれば多くの死者が発生する可能性が有り、設備や建物の規制だけでは変わらないという事です。小規模施設であるがために防火管理者の選任義務は生じない可能性も高いですが、防火意識の普及啓発は重要であり、立入検査等で補完するしかないと考えています。

皆さん、査察を行いましょう!

予防技術検定にチャレンジ!

チャレンジ問題1

建築基準法第2条に基づく特殊建築物について、次のうち特殊建築物に該当するものを1つ以上選べ。

  1. 学校
  2. 病院
  3. 工場
  4. 危険物の貯蔵場
クリックして答えを見る。
答え すべて特殊建築物 建築基準法第2条に基づく用語の「特殊建築物」と建築基準法27条に基づく「耐火建築物等としなければならない特殊建築物」は別の用語であることに注意!
チャレンジ問題

建築基準法第27条について、 耐火建築物等としなければならない特殊建築物に該当しない建築物の規模用途を1つ以上選べ。 なお、各階の床面積は延べ面積を階数により等分したものとする。

  1. 階数が3で3階を共同住宅の用途とする建築物(延べ面積180㎡)
  2. 階数が3で3階を飲食店の用途とする建築物(延べ面積180㎡)
  3. 階数が2で2階をホテルの用途、1階を自動車車庫の用途とする建築物(延べ面積400㎡)
  4. 階数が3で3階を無床診療所の用途とする建築物(延べ面積600㎡)
クリックして答えを見る。
答え 2及び4 1は階数が3で200 未満であるが、警報設備の設置が記述されていない。警報設備が設置されていれば耐火建築物等としなければならない対象から除外される。3は2階の面積が300 ㎡未満であり、ホテルとしては耐火建築物等とする必要は無い。しかし、1階が自動車車庫で 150 ㎡以上となるため耐火建築物又は準耐火建築物とする必要がある。4は無床診療所は病院等に該当しないことに注意が必用!

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