消防吏員が命令権者にもなれるってこと知ってるよ!
でもイマイチ使えるタイミングや事例がイメージできないなぁ(汗)
誰が誰に命令をするのか教えてほしい。
物件の命令根拠で3号と4号って違うの?
防法第5条の3では防火対象物内において、屋内階段内の可燃物の撤去や避難器具前の障害物件の除去を消防吏員でも命令することが可能です。消防法第5条の3第1項命令についての命令権者と受命者、物件の内容(3号と4号)について分かり易く解説します。
消防法第5条の3における命令権拡大 消防法改正の背景は?
消防法第5条の3における命令権者の拡大は新宿歌舞伎町の雑居ビル火災を契機に法改正されましたね。新宿歌舞伎町の雑居ビル火災を受け、消防の権限拡大から10年以上が経っています。
新宿歌舞伎町の雑居ビル火災と言えば、複合用途と特定1階段等防火対象物というワードを思い浮かべる方が多いと思います。
平成13年(2001年)9月1日の新宿区歌舞伎町ビル火災は、延べ面積500㎡程度の小規模なビルで発生したにもかかわらず、44名の尊い命を奪い、昭和57年(1982年)のホテルニュージャパン火災(死者33名)を超える大惨事となりました。
複合用途や小規模な防火対象物に焦点を当てると新宿歌舞伎町の雑居ビル火災以前では次のものが印象的です。
- 1976年12月の沼津市三沢ビル(サロンらくらく酒場)火災(15人死亡)
- 1978年3月の新潟市今町会館(スナックエルアドロ)火災(11人死亡)
これらの火災を受けて1978年11月の消防法施行令の改正では防炎物品にじゅうたんを追加しており、複合用途や小規模な防火対象物について多数の死者を伴う火災とは20年以上が経過していることになります。
新宿歌舞伎町の雑居ビル火災で、死者44名という大惨事となった要因としては、1つしか無い階段内に物品存置、避難訓練の未実施などの消防法令違反があったことが指摘されています。
消防法第5条の3の概要
消防法第5条の3では防火対象物内において、屋内階段内の可燃物の撤去や避難器具前の障害物件の除去を消防吏員でも命令することが可能です。非常に大きな権限になりますがポイントが幾つかあるため適正な執行を行うためにも法解釈を確実なものとする必要があります。
消防法第5条の3命令は消防吏員でも可能!
命令権者は消防長、消防署長その他の消防吏員となっており、採用1年目の新人消防士であっても命令することが可能です。
注意点としては消防職員では無く消防吏員に限定される点です。受付のみの事務職員は消防職員であっても消防吏員ではありませんよね。
実務上は立入検査でも現場活動でも2名以上の小隊で動くことが多いです。その場合、隊長名(その隊の最高責任者)で実施することが望ましいです。
命令の受命者は物件が起点となる点が重要なポイント!
受命者は「火災の予防に危険であると認める物件若しくは消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める物件の所有者、管理者若しくは占有者で権原を有する者」とされています。
簡単にまとめると邪魔な物件についてその人の権限で動かせる人です。例えば居酒屋のビールケース等が階段室に放置されていた場合、店長がいなくてもアルバイト店員がそのビールケースを移動させることは可能ですよね。アルバイト店員の権限で移動させられるならば、アルバイト店員は物件の管理者となり、本来の受命者となり得ます。
「店長に聞かないと、うちの物件かすら分かりません…」と言われても諦めない!
特に緊急の必要があると認められる場会には、先ほどの受命者以外に「当該防火対象物の関係者」が受命者に追加されます。つまり、物件とは何の関係が無くても関係者に対し命令が可能です。例えば物件を所有するテナントが定休日で特に緊急の必要があると判断した場合は、他のテナント(防火対象物の関係者)に対し命令できます。
でもまぁ法令上他のテナントに対して命令ができたとしても実務上はあまり選択しませんよね。その場合は建物所有者を受命者に選定することが多いです。
措置命令の内容について、第三条第一項各号に掲げる必要な措置とは何?
防火対象物における措置命令では、第三条第一項各号に掲げる必要な措置を命ずることが出来るとされています
もちろん、ご存じだと思いますが、消防法第3条第1項の命令は屋外における措置命令となっており、どちらも命令権者に「消防吏員」を含むことと、受命者は「物件の所有者、管理者若しくは占有者で権原を有する者」が共通していますね。
消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める物件とありますが、これは消火、避難等消防の活動に支障になる場合一般をいい、必ずしも公設消防の活動に支障となる場合に限られず、防火対象物の関係者の消火や避難の活動も含むものとなっています。
上下開放型のハッチ式避難器具が良い例ですね。基本的には防火対象物の避難に使用することを目的としていますが、公設消防が使用することも考えられていますね。
第3号と第4号の物件の違いを教えて!
第1項各号で必要な措置が列記されています。注意点は3号と4号の関係性です。
端的に言えば3号は燃える物件、4号は燃えないけど邪魔な物件として分かれています。5条の3命令ではこの各号を引用していますが、命令根拠をどう考えるかは注意してください。
例えば、不燃性のロッカーが階段室内に所狭しと置かれており、避難の障害になると判断した場合は根拠となるのは4号のみですね。
逆に階段室内に可燃性の段ボールが山積みにされていた場合は避難経路幅を狭めていなくても命令対象です。物件はもちろん3号に該当します。だって、放火され階段室内で燃焼してしまう可能性があるのだから〈火災の予防に危険であると認める物件〉ですよね。
燃える物件と燃えないけど邪魔な物件が混在する場合は3号及び4号を併記して命令します。
命令できる対象は物件だけであり、工作物は対象外となることを認識しよう!
命令できるのは〈物件〉に限られることを忘れないようにしましょう。工作物である場合は〈物件〉とはならないため、撤去や改修を求める場合は消防法第5条の命令対象となります。これは消防吏員命令の特性上、受命者が容易に工事等を行うことなく危険な状態を回避させることを目的としています。
例えば階段室内に木造倉庫が増築されている場合は消防法第5条の3の対象とはなりません。
筆者の経験ではホテルの屋内階段が日本庭園の様にオシャレに工事されていたことがありました。部下とは互いの顔を見合わせ「物件をはるかに超えているな」と対応に困ったことがあります。その時は他の階段で5条の3命令を発動していたため、階段区画の安全確保に関する説明も容易で、別の日に改修して頂けました。一瞬、第5条第1項命令が頭を過りましたよ…
他に苦慮した事例は学校の階段下部分がパーティホールの様に工事されていたこともありました…竪穴区画が防火シャッターであったため、防火区画であることすら知らなかったそうです。
ロッカー等がある場合、簡単なビス止め程度であれば工作物とせず「物件」と取り扱うことが妥当ですね。
命令内容 事例解説とちょっとした疑問
事例解説については平成14年10月24日消防安第107号に記載されています。対象を抜粋しますのでこちらもしっかり確認しましょう!
問6 次のような場合、標識はどこに設置するのか。
① 複数のテナントが存する防火対象物について一つのテナントのみに命令を発した場合
答え 命令を発したテナントの出入口に設置することを原則とする。なお、必要に応じて防火対象物の出入口に設置する。
② 複数のテナントが存する防火対象物について複数のテナントに命令を発した場合
答え 命令を発したテナントの出入口ごとに設置することを原則とする。なお、必要に応じて防火対象物の出入口に設置するが、この場合設置場所等の状況を勘案して標識を一つにまとめる等の手段を考慮する。
③ 防火対象物全体にかかる措置命令を発した場合で、当該防火対象物に出入口が複数存する場合
答え 防火対象物全体にかかる措置命令については主要な出入口に設置する。なお、出入口の使用状況から判断して、一箇所の標識の設置では不十分な場合は、複数設置することができる。
問15 消防法第5条の3第1項の除去命令の要件「階段に、一人でさえ通行できない多量の物件の存置」に該当し、除去命令を発した場合の次のそれぞれの事例の対応はどのようにすべきか。
① 除去命令が発せられると物件を除去するが、違反を繰り返し行う場合
答え 告発により対応することを検討する。
② 通行可能な状況まで物件を除去・整理したが、まだ、階段に避難障害となる物件を存置している場合
答え 障害の程度によるが、消防法第8条の2の4の管理違反について適正に指導を継続する。防火管理者選任義務対象物に対しては、同法第8条第4項(防火管理適正執行命令)の適用も考慮する。
③ 除去命令を防火対象物の関係者であるビル所有者に発した後、是正に着手する前に、当該物件の所有者で権原を有する者に命令を発することができる状況になった場合
答え 本来の受命者が判明したことにより、同法第5条の3第1項に基づく「特に緊急の必要があると認める場合」を適用する必要がない場合はビル所有者に対する命令を撤回し本来の受命者に対し除去命令を発する。
もう一つ注目してほしいポイントがあります。
防火対象物の外部に物件が存置されている場合は命令根拠は3条?それとも5条の3?
正解は3条です! 物件が防火対象物に属していようがいまいが屋外は3条の対象となります。その場合、公示の方法にも違いがありますよね。3条第1項命令は公示がありませんので、物品販売店舗の屋内外に物件が存置し避難障害となっているパターンは注意を要することを覚えておいてください。
代執行については第3条の記事で詳しく解説していますのでそちらをご覧ください。
おわりに
消防法第5条の3についての命令内容は良く理解できましたか?
命令をする時は誰が誰に命令をするのか、命令される相手は受命者となり得るかの判断は重要になります。また、命令の対象は工作物ではなく、物件に限定されること、物件は3号と4号に分かれる事の理解や命令要件となり得るかの判断は社会からも問われる時代です。
東京消防庁がPH階へと続く屋内階段内の不燃性ロッカーに対し5条の3命令を発動しましたが、裁判で命令内容は不適当と判断されました。物件に対する危険性の判断は消防機関の責務です。
階段室内に燃える物件(3号物件)があれば、放火される可能性があるから「火災予防上危険」であり、燃焼時には煙が出て階段室内に充満するから「消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める」訳です。
燃えないけど避難や活動障害となっている物件(4号物件)は燃えないから階段室内にあっても「火災予防上危険」とは言えない訳です。
これらを物件ごとに考えることが今の時代求められています。
東京消防庁〈平成26年(行ウ)第71号 除去命令処分取消等請求事件〉(外部サイト資料です)
しかし、令和元年7月18日に発生した京都アニメーション放火火災でも分かるように、避難経路が屋内階段しかない場合は屋上部分へと避難を試みるのが人間の心理です。PH階へと続く屋内階段も命を救うかもしれない避難経路であるため、私たちは強く重要性を訴えましょう!
コメント
コメント失礼します!!
当消防本部では、屋外であろうが建物内から避難できないほどの障害になっている物件(避難口外に置かれてドアが開かないetc)に関しては5-3を発令すべきだという意見が多いです‼️また、連送、外栓に関しても建築物に帰属する設備であることから操作障害となる物件は建物内の火災危険に繋がるものとして5-3であるべきという意見も。
また、3条にはない『公示』をすることで利用者へ危険性を伝えることができるという点からもこういう意見が多い理由かと。(個人的には屋外にあるもの=物件の所有者は対象物と関係性無し(第三者)の可能性も高い=その場合名宛人は第三者となる=対象物の公示に名宛人として第三者の名前を書く=公示は対象物への制裁ではないとはいえ少し違和感、、も感じますが、、)
また、3条と5条の3では罰則も大きく違いますし、慎重に判断すべきだとは思います。
ご意見頂ければ嬉しいです(^ー^)
K様 コメントありがとうございます。
屋内と屋外で命令の根拠法令が異なる点については平成14年10月24日消防安第107号の質疑応答にて建物に付属する物品であるかどうかに関係無く、使い分ける旨が記載されています。判断基準としては床面積が発生すれば屋内として5条の3、床面積が発生しなければ屋外として3条として使い分けていました。当本部では命令書に5条の3と3条を併記できるため、命令書では屋内外の物件を全て記載し、公示は5条の3の対象物のみ記載する方式としていました。