建築基準法に基づく排煙設備は告示1436号や避難安全検証法で設置を免れることができるけど、消防法で排煙設備の設置が義務付けられた場合って考え方がすごく難しいよね(汗)
とりあえず建築排煙の規制について分かり易く教えて!
排煙設備には建築基準法と消防法それぞれから規制を受け、設置要件や基準が異なります。特に消防法に基づく排煙設備が義務付けられた場合は、無窓階等により在館者が避難した後に消防隊が活動することを目的として排煙設備の設置が義務付けられるため、排煙機の能力やFDの設置の考え方に注意が必要です。建築基準法に基づく排煙設備の目的は火災時に在館者を安全に避難させることです。
この記事では建築基準法に基づく建築排煙の設置義務と免除の要件について分かり易く解説します。
建築基準法に基づく排煙設備とは
建築基準法に基づく排煙設備の目的は、火災が発生した場合に在館者の避難等を円滑に行わせるために設置されるものであり、大きく分けて次の3つに分類することができます。
- 特別避難階段の附室や非常用エレベーターの乗降ロビー
- 地下街の各構え
- 建築基準法施行令第126条の2
今回主に解説するのは「建築基準法施行令第126条の2」に基づく排煙設備になり、建築基準法に基づく排煙設備のことを以下「建築排煙」と呼称します。
建築基準法施行令第126条の2に基づく建築排煙の設置義務と設置免除
建築排煙の設置義務が生じる対象について
非常に長文で読みづらそうに見えますが整理すると以外と簡単に纏める事ができます。
番号 | 概要 | 設置要件 | 免除要件 |
---|---|---|---|
(1) | 用途と規模 | 法別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供する特殊建築物で延べ面積が500㎡を超えるもの | ー |
(2) | 階数 | 階数が3以上で延べ面積が500㎡を超える建築物 | 建築物の高さが31m以下の部分にある居室で、床面積100㎡以内ごとに防煙壁で区画されたものを除く。 |
(3) | 無窓の居室 | 第116条の2第1項第2号に該当する窓(排煙上有効な窓)その他の開口部を有しない居室 (※排煙無窓の居室) | ー |
(4) | 規模 | 延べ面積が1000㎡を超える建築物の居室で、その床面積が200㎡を超えるもの | 建築物の高さが31m以下の部分にある居室で、床面積100㎡以内ごとに防煙壁で区画されたものを除く。 |
(3)については排煙上の無窓の居室に対して排煙設備の設置が義務付けられますが設置範囲はあくまで排煙上の無窓の居室に限られます。(4)も同様に規制範囲は該当する居室だけです。
しかし、(2)と(4)には排煙壁による100㎡以内の区画を施すことで設置義務を免れることが可能です。
防煙壁とは
建基令第126条の2の本文中で次のように定められています。
間仕切壁、天井面から50cm以上下方に突出した垂れ壁その他これらと同等以上に煙の流動を妨げる効力のあるもので不燃材料で造り、又は覆われたもの
建築排煙の設置免除について
建築基準法施行令第126条の2第1項の後半部分では建築排煙の設置免除の対象が定められています。
第1号 宿泊用途での防火区画による建築排煙免除
法別表第一(い)欄(二)項とはホテルや共同住宅のような寝泊りがある用途です。これらの用途では準耐火の防火区画によりその床面積を100㎡以内に抑えることで建築排煙の設置免除が可能です。共同住宅に限りこの防火区画の面積を200㎡とする緩和が認められています。共同住宅によっては高層階の一部を200㎡近くに設計していることがありますので、その場合この緩和基準が使われています。
第2号 学校等の建築排煙免除
何かと規制が緩和される学校においても、やはり建築排煙も緩和されます。学校の他には体育館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場又はスポーツの練習場についても建築排煙が免除されており、その理由はこれらの用途は建築物の構造や利用形態から見て、火災発生の恐れが極めて少なく、屋外への避難も容易であると考えられています。
防火防災担当者から言わせれば、これだけ規制緩和されてる用途なんだから人の防火教育だけには力を入れてほしいものですね。学校の廊下に学習資料のプリント(もちろん可燃物)が山積みされている光景を見る度に考えてしまいます…
第3号 階段、EV部分の建築排煙免除
法文通り、階段の部分、昇降機の昇降路の部分の建築排煙の設置免除が可能ですが、特別避難階段の附室や非常用エレベーターの乗降ロビーに設ける建築排煙は設置免除はできません。
第4号 不燃物品の倉庫等の火災発生のおそれが少ない場所の建築排煙免除
基本的な条件は以下の2つを満たすことです。
- 機械製作工場、不燃性の物品を保管する倉庫その他これらに類する用途に供する建築物
- 主要構造部が不燃材料で造られたもの
物と建築物の不燃性の両方が揃うことで建築排煙の設置免除が可能となります。
第5号 告示1436号に基づく建築排煙の設置免除
火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分として、天井の高さ、壁及び天井の仕上げに用いる材料の種類等を考慮して国土交通大臣が定めるものとされており、これは平成12年建告1436号に定められています。その中でも特に使用頻度の高い部分について以下解説します。
告示1436号に基づく建築排煙の設置免除
火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じな い建築物の部分を定める件 (建設省告示第1436号)‐4‐ニにより、高さ31m以下の建築物の部分の室、居室は以下の条件を満たすことにより建築排煙の設置が免除されます。(法別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物の主たる用途に供する部分で、地階に存するものを除く。)
室に対する建築排煙免除(建告1436号)
これらはあくまで「室」が対象であり、「居室」ではありません。一般的には倉庫や物置等が該当してきます。
内装制限+戸の制限
内装制限については、室の壁及び天井に面する部分の仕上げを準不燃材料で行う。
戸の制限については、居室や避難経路に面するものは防火設備が必要であり、それ以外については戸か扉で間仕切る必要がある。(屋外に面する開口部については対象外)
100㎡以下の防煙壁による区画
室の床面積を100㎡以下ごとに防煙壁により区画することで建築排煙の設置が免れます。
居室に対する建築排煙免除(建告1436号)
こちらの規制対象は「居室」であるため、事務所や作業室等が対象となります。
100㎡の準耐火構造の区画+準不燃の内装制限
居室の床面積を100㎡以内に抑え、準耐火構造での間仕切り(開口部は防火設備)、さらには準不燃材料での内装制限により建築排煙を免除することが可能です。
100㎡以内で下地不燃+仕上げ不燃
居室において最もメジャーな排煙免除の方法と言っても過言ではないのがこの方法です。下地と仕上げをともに不燃材料で行うことで建築排煙の設置が免除されます。
避難安全検証法に基づく建築排煙の設置免除
避難安全検証法により火災時に天井付近に溜まる煙の降下時間を一定の計算で算出し、全ての避難者が直通階段や地上への避難を終了するまでの間、煙やガスの危険性に曝されずに安全に避難できる事が確かめられたものについては、一定の避難関係規定について適用が免除されます。排煙設備については設置、構造が適応除外とされています。
避難安全の検証が可能な建築物
構造は火災に強いことが求められる
避難安全検証法適用の特徴として、建物は火災により早期に構造体自体が燃焼してしまい、耐力を失う事で避難が有効に行えない事が無いように、主要構造部にも一定の防火性能や耐火性能を求めています。なので避難安全性能の検証を行う事ができる建築物は火災に強い主要構造部(耐火、準耐火構造又は不燃材料で造られたもの)を有するものに限定されています。
在館者は自力で避難することが前提
自力で避難することが困難だと考えられる用途である病院や児童福祉施設等では避難安全検証法の適用対象とはされていません。
避難安全の検証は「階」か「全館」
避難安全の検証は「階」と「全館」の2種類があり、適応範囲が異なります。しかし、どちらでも排煙設備の設置や構造について適用が除外されます。今回は排煙設備についての解説であるため、以下参考程度に避難安全性能の種別について説明します。
根拠法令 | 避難安全性能 | 対象 |
---|---|---|
建築基準法施行令第129条 | 階避難安全性能 | 適応する対象が建築物の一つの階のみ |
建築基準法施行令第129条の2 | 全館避難安全性能 | 適応する対象が建築物全体 |
階避難安全性能について
階避難安全性能では、対象となる階のどこで火災が発生した場合においても、対象となる階の全ての者が直通階段(避難階の場合は屋外)へ避難が終了するまでの間、居室や避難経路において避難上支障になる高さまで煙やガスの降下が無いことを計算で算出します。
ポイントは階避難安全検証ではその階を通らないと避難できない場合はその者も計算に含めます。また、平屋建ての場合では、階避難安全性能が検証できれば、全館避難安全性能も有しているとみなされます。
全館避難安全性能について
階避難安全検証とは異なり、建築物内のどこで出火しても屋外へ 避難が終了するまでの間、居室や避難経路において避難上支障になる高さまで煙やガスの降下が無いことを計算で算出します。
排煙設備の種別
建築基準法に基づく排煙設備は自然排煙方式と機械排煙方式の2種類が認められています。どちらにも共通する基準としては次のとおりです。
- 床面積500㎡以内ごとに防煙壁(不燃材料で造られた間仕切り壁や垂れ壁)で区画すること
- 排煙口は不燃材料で造り、防煙区画部分のそれぞれについて、当該防煙区画部分の各部分から排煙口の一に至る水平距離が30m以下となるように、天井又は壁の上部に設けること
- 排煙口には、開放された場合を除いて閉鎖状態を保持し、かつ、開放時に排煙に伴い生ずる気流により閉鎖されるおそれのない構造の戸その他これに類するものを設けること。
- 排煙口には、手動開放装置を設けかつ、見やすい方法でその使用方法を表示すること。
自然排煙
建築排煙では自然排煙を認めていますが、排煙口は直接外気に接して設ける必要があります。その際の排煙口の大きさは防煙区画部分の床面積の1/50以上の開口面積が求められています。
自然排煙方式では風道に直結することは認められていません。そもそも自然排煙方式での煙の排出は火災による温度上昇に伴う浮力の上昇と屋外からの外気風の吸出し効果に依存しています。なので水平方向に延びた排煙風洞では火災による温度上昇に伴う浮力の上昇による煙の移動の効果は小さく、風洞内に煙が滞留してしまう可能性が非常に高いです。
例外的に垂直方向にのみ延びた縦ダクトは機械排煙を設けない自然排煙方式が認められています。
消防活動でも垂直換気の重要性は認められており、アメリカの消火活動では一般住宅火災でも当然のように屋根を破壊し換気口を作成するそうです。日本の木造瓦葺の屋根では活動中に崩落危険があるため考えられませんね(笑)
おっと、脱線から戻り次は機械排煙について解説します。
機械排煙
排煙機は、どこか一つでも排煙口が開放すれば自動的に起動して、一定基準以上の空気を排出する能力を有することが定められています。さらに、電源を必要とする排煙設備には、予備電源(非常電源)の設置が必要であり、30分以上の容量を持つ自家発又は蓄電池が必要です。
また、少し以外に感じるかもしれませんが、排煙風道が防火区画を貫通する場合について、防火ダンパー(FD)の設置については規定はありません。
えっ、でも風道の設置基準は不燃材料だけで、防火区画の耐火性能には劣るし、いたずらに貫通部分だけが残ってしまうのでは?と考えた方も多いと思います。確かにその通りで火災が成長した場合には風道は焼け落ち貫通部だけが残ってしまいます。
しかし、建築排煙の目的は在館者の安全な避難であり、火災発生からあまり時間が経っていない状態で使用されることが想定されています。そんな中、早期にFDが閉鎖してしまえば本来必用な煙の排出が上手くいかずに排煙設備の機能が果たせなくなってしまいます。なので実務上では防火区画の貫通部には作動温度280℃に設定した温度ヒューズ式のFDを設けます。
おわりに
建築排煙の目的である在館者の避難について当記事は参考になったでしょうか? 消防排煙を理解するためには、建築排煙の設計方法や根拠法令だけでなく、目的の違いを理解する必要があると私は考えています。
コメント