【防火安全基準についての歴史】建築基準法の大改正から日本の市街地大火対策を振り返る!

消火隊の放水活動 建築基準法関係

建築基準法改正で木造化が推進されるけど、今までの耐火促進と逆行してるじゃん…

戦後からの市街地大火対策ってどういう考え方だったの?

「8分消防」戦略って何?

この記事では、建築基準法改正による木造推進化のタイミングを捉え、戦後からの市街地大火対策の経緯と変遷を解説し、上記のような疑問を解決します!

令和の時代から昭和の火災を振り返る! 市街地大火との闘い!

平成から令和の時代に移り、木造推進化の改正建築基準法も施行されました。建築物の防火性能や消防力が向上したこの時代では「火災が発生した!」と言えば戸建て住宅や、ビルでの火災をイメージしますよね。

しかし、昭和の時代のイメージは同規模ではなかったことを知っていますか? 当時「火災」のイメージは街や街区の規模となることが多く、日本は長年「市街地大火」と戦い続けてきました。

近年での「市街地大火」といえば2016年(平成28年)12月22日に発生した糸魚川市大規模火災が記憶に新しいですね。被災エリアは約4万㎡とすさまじい規模です…

糸魚川市大規模火災の概要
(総務省消防庁糸魚川市大規模火災を踏まえた今後の消防のあり方に関する検討会より)

火災の時間経過

  1. 出 火 平成28年12月22日(木) 10時20分頃
  2. 覚 知 平成28年12月22日(木) 10時28分
  3. 鎮 圧 平成28年12月22日(木) 20時50分
  4. 鎮 火 平成28年12月23日(金) 16時30分

火災の状況等

  • 出火場所 糸魚川市大町1丁目2番7号 ラーメン店
  • 出火原因 大型こんろの消し忘れ
  • 焼損棟数 147棟(全焼 120棟 半焼 5棟 部分焼 22棟)
  • 焼失面積 約40,000㎡(被災エリア)
  • 焼損面積 30,412㎡
  • 負傷者 17人(一般2人 消防団員15人) ※中等症 1人 軽症 16人

被災者状況
120世帯 224人

(消防庁発表資料より抜粋)

糸魚川大火災の全体像(消防庁発表資料より抜粋)

消防法や消防組織法、建築基準法が制定された年代である1946年(昭和21年)から1951年(昭和26年)までの6年間の間に焼損面積が3万3千㎡を以上の市街地大火なんと18件も発生していたのです!糸魚川大火災クラスと同等かそれ以上の規模の火災が1年間に3件のペースです(汗)

1947年(昭和22年)を例にとると…

  • 4月17日 新潟県両津町   315戸焼損
  • 4月20日 長野県飯田市  3742戸焼損
  • 4月29日 茨城県那珂湊町 1508戸焼損
  • 5月16日 北海道三笠町   488戸焼損

木造密集市街地や消防体制の未整備、戦後という社会の混乱が原因でした。

このように、消防法や建築基準法は制定当時は市街地大火への対策に重点を置いたものであり、現在のようなビル火災や用途に特化したような作り込みにはなっていませんでした。

消防組織法制定から現代までの市街地大火件数のまとめ(3年ごとを表示)
※2016年の糸魚川大火災は焼損面積 30,412㎡で33,000㎡未満ですが参考に表に入れています

制定時の消防法と建築基準法の特徴

消防法の条文の多くは消防活動等のための消防機関への権原付与であり、消防用設備等の規制や防火管理の制度については全て市町村消防の定める条例へと委任した内容となっていました。

建築基準法はどうかと言うと、防火安全対策の中心は市街地大火対策であり、大規模建築物に対する基準も他の棟への延焼防止対策に主眼を置いたものとなっていました。そのため、建築物内部の棒安全対策は十分とは言えない状況です。

不燃都市の構築を目指し、防火地域を拡大しよう! でもお金が足りない…

当時の日本があこがれたヨーロッパの不燃都市の景観イメージ

市街地大火とならないようにするためには何が一番の解決策だと思いますか? そう、街自体が延焼しない不燃都市となれば解決しますね。都市の主要部分は防火地域として指定することで、日本の都市を耐火構造のビルが立ち並ぶ火災に強い不燃都市とすることを考えました。

しかし、敗戦国の日本にはお金がありません(汗) 都市全体を不燃化する防火地域とすることが理想ですが、ビルが建たなければ意味がない。さらには、人が少なければ都市部の税収が…

苦肉の策で考えたのが、不燃ではないけれども一定の防火性能を義務付ける「準防火地域」です。

木造密集地域を準防火地域とすることで、屋根の不燃化、外壁軒裏の延焼するおそれのある部分をモルタルで被覆、延焼のおそれのある開口部には防火設備を入れる。木造密集地でもこれらの措置を行い防火構造の建築物を中心とすることで、一定時間延焼を防ぐことが可能と考えました。

でも準耐火で主要構造部が耐火でない以上、いずれは燃焼します。そこで活躍するのが今も昔も同じ、消火隊です! 延焼拡大する前に消火隊が現場到着し、消火活動を実施する。これを準防火地域における市街地大火対策の基本戦略としようと考えられました。もちろんお金が無いこの時代における一時的な措置と考えたため、準防火地域は徐々に防火地域へと変更する戦略のつもりでしたよ。

※1968年(昭和43年)までは建築大臣が防火地域・準防火地域を指定していたため一括管理が可能でした。

この基本戦略が成立するためには消防力の充実強化が不可欠であるため1953年(昭和28年)に消防施設強化促進法が制定されました。この法律の目的はズバリ市町村消防の人員数や車両数を増やし消防力の強化を促進することです。

こうして日本の市街地大火対策は20分(22条地域)~30分(防火構造)程度の防火木造と消防隊の早期消火という戦略をもって今日に至ります。もともと地震の多い日本にはレンガやコンクリート造の不燃都市が戦略的に適さないと判断されたことも一因かもしれませんね。

早期消火の消防戦略 8分消防というスローガン!

当時〈8分消防〉というスローガンが掲げられましたが、その意味を知る消防職員も少なくなりました。先ほど準防火地域での防火措置は次の3点であることを説明しましたね。

  • 屋根の不燃化
  • 外壁軒裏の延焼するおそれのある部分をモルタルで被覆
  • 延焼のおそれのある開口部には防火設備

屋根不燃地域(22条地域)ではでの防火措置ここから開口部の防火設備が除かれますね。

これらの措置により、燃焼する棟の開口部から炎が噴き出しても、火炎が外壁に達してからおよそ20分~30分は延焼しないと考えられるものです。

8分消防の描いた次のようなストーリーを想像してみて下さい!

何らかの理由で火災が発生したとします。

火災発生から居住者が気づくまでの間にも火災は拡大します。

居住者が火災の発生に気づき119番通報や初期消火を試みますが、初期消火は失敗!火災は拡大し、窓ガラスを破り他棟へと延焼拡大しようとします。

他棟に炎が到達するとそこから最短で20分がタイムリミットとなります。

2棟以上の火災となると消防力を火災規模が上回る可能性があるため、確実に1棟で火災を完結させる。

そのためには出動から8分以内に第1線を延焼防止線として放水開始し20分というタイムリミットに間に合わせる!

8分消防と準防火都市戦略はほぼ成功した!? 

この異例とも言える不燃都市の構築から外れた戦略は功を奏し1976年(昭和51年)の酒田大火を最後に暫く市街地大火が無い時代が続きました。

しかし、阪神淡路大震災や東日本大震災のように消防力が著しく機能しない場合は、消火隊の到着が遅れ、市街地大火へと発展してしまいます。では、この課題に対応するためには不燃都市となる防火地域を拡大させることが有効であることは多くの消防職員が気づきますよね。

防火の観点からは「すべて防火地域でいい!」と考えたくなりますが、市町村の運営者側の観点は異なります。防火地域が拡大するということは、建築の自由が制限されるため、移住者等の減少に繋がり、税収減を招くと考えます。そうなると防火地域への移行はなかなか難しく、準防火地域や22条地域のままで不燃化は促進されない状態です。

大規模な震災発生時には消防力が劣勢となり市街地大火となる可能性があります。しかし、市街地大火となるのは震災等のイレギュラーに限ると考えられていましたが状況が一変します。なんと、糸魚川大火災では南からの強風により大きく延焼拡大しました。下の地図を見ると発生個所から北方向へと延焼拡大したことが分かりますね。この地域は準防火地域ですが、50年以上前になされた準防火地域の指定以前に建てられた非防火構造のストックが約6割を占めていたことも延焼拡大の要因と考えられています。

糸魚川大火災での焼損範囲(消防庁発表資料より抜粋)

市街地大火対策の防止を不燃都市の建築では無く、防火構造&消防力という方法論にゆだねた結果次の問題点が現代でも引き継がれています。

  • 消防力が期待通りに活動できない場合、市街地大火が発生する都市構造を温存してしまった。
  • 市街地では8分消防が必須となり、世界でも類を見ない膨大な消防予算が必用になり続けた。
  • 木造モルタル中心の貧弱な都市景観を温存ししてしまった。
  • 消防署及び出張所が多箇所に必要

建築基準法改正で木造が推進されるが消防に求められることは当時と同じ!早期消火!!

糸魚川大火災での火災鎮火後の状況、燃焼後も建っているのは耐火建築物のみ(消防庁発表資料より抜粋)

防火地域では建築物の不燃化により延焼拡大が大きく抑制された都市設計となっていますが、準防火地域や22条地域はそうではありません。何らかの要因で火災が延焼拡大し、消防力を大きく上回れば一瞬にして街そのものを燃やしてしまいます。主要構造部自体が燃焼し倒壊すれば広範囲に延焼拡大します。

建築基準法改正により木造での建築が推進される結果、都市の主要構造の多くが可燃物となる可能性もあります。しかし消防に求められる仕事は今も昔も変わらず、延焼拡大する前に消火することです! 早期消火や延焼方向の見極め、屋内進入等は昔ながらの戦略なのかもしれませんが今は装備が大きく向上しています。火災件数が減り、経験値が少なくなった今の時代こそ業務の取捨選択を適正に行い、火災に備える訓練する時間を確保する事こそが重要な気がします。

まとめ

  • 建築基準法や消防法の制定時の目的の大部分は「市街地大火対策」であった。
  • 防火地域以外の市街地の準防火地域や法22条地域では防火モルタル+8分消防という世界的に見ても稀有な戦略が実施された。
  • 現代でも当時の問題点を引き継いでおり、一度火災規模が消防力を上回れば市街地大火に発展する危険性を有している!
  • 建築基準法改正で木造が推進されたとしても消防機関に求められることは「早期消火」であることに変わらない!

次の時代である〈ビル火災対策の変遷〉について知りたい方はこちらの記事をどうぞ!

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