phase2 118号通知の限界、そして49号通知 (昭和50年5月1日)へ

開放バルコニーと防風板の共同住宅 共同住宅規制の変遷
連続バルコニーと隔て板

118号通知に基づく特例で消防用設備等が何も付いていない共同住宅があることを知ったよ。

次の時代の通知として49号通知が発出されたのは知っているけど、その背景が知りたいな。

昭和50年代に出た49号通知の目玉って何だったんだろう?

この記事では118号通知から49号通知へと移り変わった時代背景と課題について解説し、上記のような疑問を解決します。

建物の高層化に伴い昭和36年8月1日に発出された118号通知の限界が来る

118号通知が発出された時代背景は防火管理制度や消防用設備等が消防法令で定められるようになる法令改正(昭和36年4月1日)の直後でしたね。しかし、118号通知により防火管理者の重複選任を認め、消防用設備については耐火構造+小区画で設計すればそれぞれの住居を別の建築物とみなし、消防用設備等の設置を不要としていました。しかし、共同住宅の高層大規模化に伴い118号通知の限界が来てしまいます。

118号通知の課題その1 建物の高層建築化を想定していなかった

118号通知が発出されたタイミングでは想定していなかったポイントがあります。それは高層建築物の出現を予想していなかった点にあります。耐火構造+小区画という特例条件をクリアしてしまえば消防用設備等を全く設置しなくても高層の共同住宅が建築可能になってしまいます。つまり、11階以上のスプリンクラー設備さえも特例免除できてしまう訳です。

118号通知で想定していた階層は4~5階程度であり、高層建築物特有の火災性状や危険性は考えられていません。

スプリンクラー設備についても11階以上の階に設置対象が拡大し義務付けられたのは昭和39年7月でしたが、100㎡以下に防火区画すれば免除もできてしまいます。

消防法施行令第12条 第5項(昭和39年07月01日~)

第一号から第三号までに掲げる防火対象物以外の別表第一(一)項から(六)項まで、(十二)項ロ及び(十五)項に掲げる建築物の十一階以上の部分のうち、建築基準法施行令第百十二条第五項から第七項までの規定により区画された部分以外の部分で、当該部分の床面積の合計が100㎡をこえるもの

118号通知の小区画の基準は70㎡以下でしたのでスプリンクラー設備の免除要件も十分満たせてしまいます

118号通知の課題その2 2方向避難という考え方をしていなかった。

118号通知で考えられていた住居の大きさは30~50㎡程度の小規模なものです。これぐらいの小規模な住居であれば火災に気づき易く、避難動線も短いですね。

仮に避難経路が玄関方向にしか無かったとしても逃げ切れる可能性は高いです。

しかし、個々の住居が大きくなれば火災への発見が遅れるとともに、建物規模が大きくなれば他の居住者に知らせる事にも時間を要します。避難経路が玄関方向に1つしか無ければ、住居が激しく燃焼していた場合、共用廊下を通っての避難は難しくなります。2方向避難という概念はそのような万が一の時に備えて、玄関方向以外に避難経路をもう1つ用意しておくという考え方です。

でも当時からバルコニー自体は存在していたのですよ。避難のためと聞かれたらそうではありませんが… バルコニーは専用庭程ではないけれども使い勝手の良いスペースとして一定の需要がありました。

多くの需要があるため、公的共同住宅の標準設計にも入ってお り、民間マンションでもごく普通に設置されていました。しかし、118号通知ではバルコニーの利用方法が定められていなかったため、設置するバルコニーを第2の避難経路として設計するかどうかは設計者次第となっていました。

昭和36年8月1日118号通知発出後の時代の動き

  • 1961年(S36年) 都市計画法に「特定街区」制度が導入
  • 1963年(S38年) 「容積地区」の制度が創設され、「容積率規制」が導入
  • 1964年(S39年) 消防法令に高層建築物に関する設備規定が追加(屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、誘導灯、消防用水、連結送水管設備)
  • 1966年(S41年) 消防法令で避難器具、自動火災報知設備に関する規制強化(旅館、ホテル及び病院等への自火報の遡及設置と煙感知器の検定品目への追加)
  • 1968年(S43年) 霞ヶ関ビル完成(超高層建築物時代の幕開け)
  • 1969年(S44年) 建築基準法令で竪穴区画規制の新設
  • 1970年(S45年) 建築基準法改正で非常用エレベーターが高層建築物で義務化(他に排煙設備、非常用照明、非常用進入口の設置も義務化)
  • 1972年(S47年)5月 大阪市千日デパートビル火災
  • 1972年(S47年)12月 スプリンクラー設備の設置対象拡大、自火報の特定用途防火対象物への遡及設置
  • 1973年(S48年)8月 建築基準法改正により、2方向避難についての要求範囲拡大、避難階段、特別避難階段の防火戸に対する遮煙性能及び煙感知器連動閉鎖の要求
  • 1973年(S48年)11月 熊本市大洋デパート火災

昭和50年5月に新たな共同住宅特例である49号通知が発出される

昭和36年に発出された118号通知は時代の変化とともに前述のような➀高層建築物を予想していなかった課題、②2方向避難を考えていなかった課題が現れました。

これらの課題に対応するため昭和50年5月に、現行共同住宅特例の原型ともなる「共同住宅等に係る消防用設備等の技術上の基準の特例について」が発出され、118号通知は廃止とされました。

49号通知の特徴として以下のような点が118号通知から進歩したと言えます。

49号通知の特徴
  1. 「2方向避難」及び避難経路の「開放性」の考え方が整理された。
  2. 住居と共用部分の間の開口部の面積を原則2㎡以下とし、住戸等の区画性能を詳細に規定した。
  3. 118号通知とは異なり、消防用設備ごとに緩和条件を設定した。
  4. スプリンクラー設備については、「規則13条区画」の考え方を前提として、各住居については言及せず、床面積が100㎡を超える可能性のある共用室についてのみ緩和条件を設定した。
  5. 自動火災報知設備の設置の要否について、 階数や避難性能 (二方向避難の可否や避難経路の開放性)に応じた細かい条件を示すとともに、自火報を設置する場合の感知方式や鳴動方式等を共同住宅の特性に合わせて整理した。
  6. 3階以上の階にある住居の床面積を100㎡以下とした。

昭和51年12月に49号通知の運用基準として190号通知が発出!

さらに、「二方向避難」と避難路の外気への「開放性」の条件については、昭和51年12月に49号通知の運用基準として位置付けられる「共同住宅等に係る消防用設備等の技術上の基準の細則(190号通知)」が発出され、さらに詳細な基準が示されてます。

この通知では、バルコニーを用いた二方向避難の原則を示すとともに、バルコニーが第2の避難路として認められるかどうかについて15のパターンを図解して例示しています。

2方向避難の例〈階段室型〉

また、避難経路の開放性についても、片廊下型や階段室型の共同住宅の廊下や階段が外気に開放されていると認められるかどうかについて、その原則を示すとともに、 その典型的な例を図示しています。

廊下の開放性について

この細則は、当時、共同住宅の設計が多様化しつつあり、 設計者の側も消防機関の側も、「2方向避難」や「避難路の開放性」の判断方法について明確な基準を必要としていたことから定められました。

内容については、 両者の意見を汲み上げただけでなく、 当時は実施例が少ないが将来一般化する可能性があると考えられるパターンまで視野に入れた先進的なものであり、今に至ってもほほ原型のまま用いられています。

まとめ

  • 昭和36年8月118号通知により耐火構造+小区画で設計すればそれぞれの住居を別の建築物とみなし、消防用設備等の設置を不要としていた。
  • 建物の高層化が進み、118号通知の内容が時代に適合しなくなるとともに、ビル火災特有の火災性状が判明してくる。
  • 昭和50年5月に新たな共同住宅特例である49号通知が発出(2方向避難や開放廊下の概念が示される)
  • 昭和51年12月に190号通知が発出(49号通知の運用基準として15のパターンを図解)

「118号通知の限界」と「2方向避難や避難路の開放性を定めた49号通知」については良く分かりましたか? どちらの通知文についても今では探すこと自体が大変になってきましたね(汗)

今回、記事執筆の中で久しぶりに190号通知を見返しましたが、連続バルコニーや隔て板による避難経路の確保の考え方は平成の最後まで変わりませんでしたね。令和の新たな時代でまた、新たな基準が生まれるのでしょうか? 建築基準法改正により木造推進の特定共同住宅が生まれる可能性も否定できないかもしれませんね…

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