共同住宅の規制変化 phase1 昭和36年118号通知 共同住宅の各住居は別の対象物と考える!

低層の共同住宅 共同住宅規制の変遷

昭和36年4月から消防法施行令で各消防用設備の基準が定められたんだよね。でも古い共同住宅で何も設置されていないことがあったんですよ。

上司に質問したら共同住宅特例で何も設置されていないことが適法だって説明されたんですけどイマイチよく分からない…

共同住宅特例のスタート地点である118号通知を教えて!

共同住宅って何か教えて下さいと聞かれたらあなたはどう教えますか?

えっ、共同住宅が何かって!? 共同住宅と言えば共同住宅としか答えられないよ(汗)

このような回答とならないように、イメージでは無く理論的に解説します!

共同住宅の特色として、複数の住戸によって構成され、戸建て住宅の集まりのような性格を有していますね。しかし、就寝施設であり、お年寄りや子供などの災害弱者も生活をするため潜在的な火災危険性を有しています。その危険性からか、消防法令上は、 政令別表第1(5)項口として、ホテルなどの宿泊施設と類似するグループに分類されています。

建築基準法ではどうでしょうか? 建築基準法でも法別表第一 (2)項に分類され、ホテルや病院等と同じグル ープで特殊建築物として規制されています。

建築基準法上はホテルも共同住宅も同じような形態で建築することが可能であるため、 共同住宅に係る消防用設備等の技術基準は、 基本的には、ホテル等とほぼ同様の火災危険性を前提として定められています。 その一方で、共同住宅については、居住者が避難経路を熟知していることを期待できるため、人命危険はホテルに比べると少なく、夜間であっても避難経路に迷う事は少ないと考えられています。

そうそう、よく似た建物で〈長屋〉がありますが、あれは共用部分が無いため〈共同住宅〉には区分されないのです。

この記事では、そんな共同住宅の規制の特例について変遷を解説します。

共同住宅規制は昭和36年4月1日に改正消防法施行令に定められスタートする!

昭和36年4月1日以前は消防用設備等の基準は市町村条例で定められており、名称も〈消防の用に供する機械器具〉だったんですよ。同様に消防法第8条も基準は市町村条例で定められており、施行令改正により〈防火責任者〉から〈防火管理者〉制度へと規制強化されました。

改正消防法施行令により用途ごとに消防用設備等の規制が行われますが、共同住宅はホテル等とほぼ同様の火災危険性を前提として定められています。しかし、共同住宅の特性を考えると、ホテルに比べ火災報知設備や屋内消火栓設備の習熟は難しいですよね。ホテルの従業員の様に統率的に教育を継続することは難しい… 

だったら、ホテル等とは別のアプローチである建築的手段 (耐火構造の床、バルコニー 、常時外気に開放される開口部)による防火安全対策をとる方が、総合的な防火安全性能は高くなると考えられました。

でも、共同住宅だけ法令中で緩和措置を定める事はあまりにも法令が複雑になり過ぎる… 仮に整備できたとしても他の用途と比べても緩和内容が突出している… 

ということで、令32条の特例条件として提案しようと考えられ118号通知が発出されます!

わずか4か月で特例通知発出!? 昭和36年8月1日 自消乙予発第118号消防長庁予防課長通知

先のような経緯で「消防法の一部改正に伴う共同住宅の取扱いについて」という文書が昭和36年8月1日に自消乙予発第118号消防長庁予防課長通知として発出されました。(通称118号通知)

118号通知は、消防用設備等の設置とは異なるような、建築的手段 (耐火構造の床、バルコニー 、常時外気に開放される開口部)での防火安全対策をとる手法、考え方が記されるものです。

改正された消防法施行令から4か月後に、公営住宅等の防火管理者の選任に関する特例運用の方法などとともに 「消防法の一部改正に伴う共同住宅の取扱いについて」として発出されています。この基準は、当時の耐火構造の共同住宅の多くを占めていた公営住宅や公団住宅の建設主体と連携をとって作成されたものなのです。

118号通知の内容その1 防火管理者は管轄区域ごとの重複選任を認める!

防火管理者の責務に反しない限り、管轄区域内の2以上の防火対象物において公営住宅等の防火管理者の重複選任を認めています。

昭和36年8月1日 自消乙予発第118号消防長庁予防課長通知

1 公営住宅等における防火管理者の選任について

 消防法第8条及び消防法施行令(以下「令」という。)第1条の規定によれば、収容人員50人以上の共同住宅にはそれぞれ防火管理者を置かなければならないが、公営住宅等においては、その管理の実態により、公営住宅にあつては公営住宅監理員の、日本住宅公団の管理する共同住宅にあつては団地管理班の、各種住宅協会及び住宅公社の管理する共同住宅にあつては管理事務所等の管轄区域ごとに、当該区域内にある2以上の共同住宅について同一人を防火管理者に選任しても差し支えない。ただし、消防法施行令第4条の趣旨に反するものであつてはならないものとする。

118号通知の内容その2 耐火構造+小区画で消防用設備規制を大幅緩和する!

特例基準の内容は、現行の省令と比べると圧倒的に簡易的なもので驚きますよ。条件を満たしたものについてはそれぞれの住居を別建築物とみなし、消火器、屋内消火栓、動力消防ポンプ、自火報、火通、非常警報設備、避難器具の設置を免除できるとしています。

条件の1つめは耐火構造です。次の4点を満たせばそれぞれの住居を別の建築物とみなします。

  • 当該住戸と他の住戸とを区画する壁及び床を耐火構造+当該壁及び床には開口部が存しない
  • 当該住戸と廊下、階段等の共用部分とを区画する壁を耐火構造+当該壁の開口部の面積の合計が4平方メートル以下
  • 上記の共用部分は不燃材料で造る
  • 上記の壁の開口部にそれぞれ甲種防火戸(面積1平方メートル以下の開口部については甲種防火戸又は乙種防火戸)を設けること。(開放廊下式の共同住宅の住戸と開放廊下とを区画する壁の開口部で、延焼のおそれのある部分以外の部分にあるものについては、この限りでない)

条件の2つめは小区画です。3階以上のそれぞれの住居を70㎡未満にすれば3階50㎡以上であっても消火器の設置を不要としています。

そして、この条件の2つを両方満たせば消火器、屋内消火栓、動力消防ポンプ、自火報、火通、非常警報設備、避難器具の設置を免除できるとしています。

つまり、耐火構造+小区画で安全性を確保すれば消防用設備等の設置は不要としています!

昭和36年8月1日 自消乙予発第118号消防長庁予防課長通知

2 共同住宅に係る消防用設備等の技術上の基準の特例について共同住宅は、いわば個人住宅の集合体であり、その構造によつては出火等の危険性が著しく低いものがあることにかんがみ、次の基準により令第32条の特例を認めて差し支えない。

⑴ 主要構造部を耐火構造とした共同住宅の住戸が次の(イ)から(ニ)までのすべてに該当するときは、当該住戸はそれぞれ別の建築物とみなして、令第10条(消火器具)、第11条(屋内消火栓設備)、第20条(動力消防ポンプ設備)、第21条(自動火災報知設備)、第23条(消防機関へ通報する火災報知設備)、第24条(非常警報器具又は非常警報設備)及び第25条(避難器具)の規定を適用すること。

イ 当該住戸と他の住戸とを区画する壁及び床を耐火構造とし、かつ、当該壁及び床には開口部が存しないものであること。

ロ 当該住戸と廊下、階段等の共用部分とを区画する壁を耐火構造とし、かつ、当該壁の開口部の面積の合計が4平方メートル以下であること。

ハ ロの共用部分が不燃材料で造られたものであること。

ニ ロの壁の開口部にそれぞれ甲種防火戸(面積1平方メートル以下の開口部については甲種防火戸又は乙種防火戸)を設けたものであること。ただし、開放廊下式の共同住宅の住戸と開放廊下とを区画する壁の開口部で、延焼のおそれのある部分以外の部分にあるものについては、この限りでない。

⑵ ⑴に該当する共同住宅の住戸で3階以上の階にあるものについては、その床面積が70平方メートル以下である場合に限り、令第10条第1項第5号の規定にかかわらず、消火器具の設置を要しないものとすること。

⑶ 住戸のすべてが⑴又は⑵に該当し、消防用設備等の設置を要しないものとされる共同住宅の共用部分については、令第10条、第11条、第20条、第21条及び第23条から第25条までの規定は適用しないものとすること。

118号通知が発出された時代背景や建物を解説!

当時の耐火構造共同住宅(民問マンション含む)は、4~5階建がほとんどで、1つの住戸面積も30~50㎡程度でした。

共同住宅の規模についての水準がこの程度である限り、118号通知に基づき設計すると防火安全性能が十分に確保されるとともに、建設する側、住む側両方にメリットがあると考えられました。

建築する側のメリットは消防用設備等の設置が無いこと及び設計スタイルが均一化されることです。住む側のメリットは消防用設備等の設置及び維持のためのランニングコストが大幅に削減できることです

その結果、公的住宅供給主体は標準設計をこの118号通知にガッチリ合わせ、民間マンションの多くも118号通知を前提に設計されました。

昭和35年に改正消防法施行令が施行され、そのわずか4か月後に118号通知が発出されましたが、結果から見ると、その後に共同住宅の大量供給が始まっているため「耐火構造+小区画」という118号通知の戦略は一定の成果を挙げていると言えるでしょう。

私が勤めていた消防機関ではこの118号通知に対し個々に令32条の特例認定証を交付していなかったようです。なので、年期の入った共同住宅に立入検査に行くと、何も消防設備が設置されていないため「フルセットの違反建築物だ!」と驚くことが良くありました(汗) 

ここまで読んで下さったあなたなら「118号で適用の可能性があるな」と冷静に判断できますよ!

まとめ

  • 昭和36年8月から昭和50年5月に発出された49号通知までの間については耐火構造+小区画という戦略で安全が確保されている可能性が高い
  • 設置免除される消防用設備等は令第10条(消火器具)、第11条(屋内消火栓設備)、第20条(動力消防ポンプ設備)、第21条(自動火災報知設備)、第23条(消防機関へ通報する火災報知設備)、第24条(非常警報器具又は非常警報設備)及び第25条(避難器具)

過去私が調べた時はネットではあまり118号通知が検索して探せませんでしたので、参考で118号通知の全文も以下に載せておきます。

消防法の一部改正に伴う共同住宅の取扱いについて見出し

昭和36年8月1日 自消乙予発第118号

各都道府県消防主管部長あて 消防庁予防課長

 消防法の一部改正に伴う一般的指示事項については、昭和36年5月10日付自消甲予発第28号「消防法の一部を改正する法律等の施行について」により別途通達したところであるが、消防法施行令(昭和36年政令第37号)別表第1 ⑸項ロに掲げる共同住宅については、次により取り扱われるよう御配意願いたい。

 なお、貴職管内の市町村に対してもこの旨示達願いたい。

1 公営住宅等における防火管理者の選任について

 消防法第8条及び消防法施行令(以下「令」という。)第1条の規定によれば、収容人員50人以上の共同住宅にはそれぞれ防火管理者を置かなければならないが、公営住宅等においては、その管理の実態により、公営住宅にあつては公営住宅監理員の、日本住宅公団の管理する共同住宅にあつては団地管理班の、各種住宅協会及び住宅公社の管理する共同住宅にあつては管理事務所等の管轄区域ごとに、当該区域内にある2以上の共同住宅について同一人を防火管理者に選任しても差し支えない。ただし、消防法施行令第4条の趣旨に反するものであつてはならないものとする。

2 共同住宅に係る消防用設備等の技術上の基準の特例について共同住宅は、いわば個人住宅の集合体であり、その構造によつては出火等の危険性が著しく低いものがあることにかんがみ、次の基準により令第32条の特例を認めて差し支えない。

⑴ 主要構造部を耐火構造とした共同住宅の住戸が次の(イ)から(ニ)までのすべてに該当するときは、当該住戸はそれぞれ別の建築物とみなして、令第10条(消火器具)、第11条(屋内消火栓設備)、第20条(動力消防ポンプ設備)、第21条(自動火災報知設備)、第23条(消防機関へ通報する火災報知設備)、第24条(非常警報器具又は非常警報設備)及び第25条(避難器具)の規定を適用すること。

イ 当該住戸と他の住戸とを区画する壁及び床を耐火構造とし、かつ、当該壁及び床には開口部が存しないものであること。

ロ 当該住戸と廊下、階段等の共用部分とを区画する壁を耐火構造とし、かつ、当該壁の開口部の面積の合計が4平方メートル以下であること。

ハ ロの共用部分が不燃材料で造られたものであること。

ニ ロの壁の開口部にそれぞれ甲種防火戸(面積1平方メートル以下の開口部については甲種防火戸又は乙種防火戸)を設けたものであること。ただし、開放廊下式の共同住宅の住戸と開放廊下とを区画する壁の開口部で、延焼のおそれのある部分以外の部分にあるものについては、この限りでない。

⑵ ⑴に該当する共同住宅の住戸で3階以上の階にあるものについては、その床面積が70平方メートル以下である場合に限り、令第10条第1項第5号の規定にかかわらず、消火器具の設置を要しないものとすること。

⑶ 住戸のすべてが⑴又は⑵に該当し、消防用設備等の設置を要しないものとされる共同住宅の共用部分については、令第10条、第11条、第20条、第21条及び第23条から第25条までの規定は適用しないものとすること。

特定共同住宅等の消防用設備等技術基準解説改訂版

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