避難上必要な施設等の管理 具体的な取り扱いと上位措置の命令について!

屋内階段 査察、違反処理実務

避難上必要な施設等の管理についてって消防法8の2の4だよね。

対象って防火戸だけなの? 守らなかったらどうなるの?

上位措置としての命令について教えて!

消防法第8条の2の4の避難施設の維持管理については消防法や消防法施行令ではあまり具体的な取り扱い内容が定められていませんよね。これらは平成14年の消防安第107号に具体例が示されています。上位措置としては消防法第5条の3や法第8条第4項があり、どちらを選択すべきか特徴について解説します。

避難上必要な施設等の管理についていつから法整備されたの? 消防法改正の背景を探る!

消防法第8条の2の4は新宿歌舞伎町の雑居ビル火災を契機に法整備されました。

平成13年9月1日の新宿区歌舞伎町ビル火災は、延べ面積500㎡程度の小規模なビルで発生したにもかかわらず、44名の尊い命を奪い、昭和57年のホテルニュージャパン火災(死者33名)を超える大惨事となりました。

このような大惨事となった要因としては、階段上の物品存置、避難訓練の未実施等消防法令違反があったこと等の事実が指摘されています。

この火災を踏まえ、全国の小規模雑居ビルの一斉立入検査が緊急に実施されます。その結果、何らかの消防法令違反があるものが9割を超える等の事実が判明し、階段上の物品存置、避難訓練の未実施等消防法令違反はこの新宿歌舞伎町の雑居ビルに特有のものではなく、同種の小規模雑居ビルで共通の問題であることが明らかとなりました。

このような防火安全対策の課題から法改正によって、①消防機関による違反是正の徹底、②防火対象物の関係者による防火管理の徹底、避難・安全基準の強化がなされました。

新宿歌舞伎町の雑居ビル火災を契機とした法改正内容
消防庁法改正説明資料より抜粋

消防法第8条の2の4で定められる内容はざっくり過ぎる!?

消防法第8条の2の4では具体的な取り扱い内容はあまり記載されていませんよね。

基本的事項として避難上必要な施設の維持管理として定められています。

対象としては施行令別表第1に定められる防火対象物ですが、18項の延長50m以上のアーケード、市町村長の指定する山林及び総務省令で定める舟車は除かれています。

この法律のポイントは避難施設の防火安全上の維持管理を管理権原者に対し義務付けている点です。管理権原者ってこの消防法第8条の2の4以外でも出てきますがイメージできましたか?

そうです!消防法第8条の防火管理者の選任義務でも出ていますね。防火管理上の最終的な責任者を管理権原者であることを定めたことと同様に、避難上必要な施設の防火安全上の維持管理についても管理権原者の責任としています。

法第八条の二の四

学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、当該防火対象物の廊下、階段、避難口その他の避難上必要な施設について避難の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないように管理し、かつ、防火戸についてその閉鎖の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないように管理しなければならない。

令第四条の二の三(避難上必要な施設等の管理を要する防火対象物)

法第八条の二の四の政令で定める防火対象物は、別表第一に掲げる防火対象物(同表(十八)項から(二十)項までに掲げるものを除く。)とする。

具体的な取り扱いは消防安第107号で解説される。

法令内容だけでは具体性に欠け、指導方針が分からない(汗)。

そんな消防関係者の声が聞こえてきそうですが、具体的内容は消防安第107号でQ&A方式で解説されています。以下その内容を抜粋していますので、見てみたいと思います!

消防安第107号

平成14年10月24日

「消防法の一部改正に伴う立入検査及び違反処理に関する執務資料について」の送付について

法第8条の2の4関係

問21 消防法第8条の2の4に規定する「防火戸」とは、建築基準法第2条第9号の2ロに規定する「防火設備」のうちの「防火戸」を意味しているのか。

 答え お見込みのとおりである。

問22 消防法第8条の2の4で閉鎖障害について管理する対象として防火戸が定められているが、防火シャッターについては、管理の対象としては含まれないのか。

 答え 防火シャッターについては防火戸に含むものである。

問23 平成12年7月に火災予防条例(例)第41条が改正され、「防火戸」を「防火設備」に、「閉鎖」を「閉鎖又は作動」に改めた経緯があるが、消防法第8条の2の4に規定する防火戸の維持管理について、防火設備のうち「防火戸」のみを管理の対象に限定した理由は何か。

 答え 

1 「防火戸」を「防火設備」としなかった理由は、防火戸以外の防火設備としては、ドレンチャー以外には想定し得ないが、かかるドレンチャーに関しては物件の放置又は存置があっても区画形成の支障となることにはならず、避難障害としてとらえて管理すればよいためである。

2 平成12年7月の火災予防条例(例)第41条の改正は、同年4月の建築基準法施行令の改正により防火設備に関する技術上の基準が性能規定化されたことを受け、今後、防火戸以外の防火設備の設置が増加する可能性があることから、「防火戸」を「防火設備」とし、あわせて、「閉鎖」以外の作動方法によって防火設備の機能を果たすものが出現する可能性があることから、「閉鎖」を「閉鎖又は作動」としたものである。

問24 消防法第8条の2の4において「防火戸についてその閉鎖の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないよう管理しなければならない。」と規定しているが、防火戸は元来、建築基準法施行令第112条の規定に基づき防火区画の開口部の防火措置として設置されるもので、火災時に閉鎖するよう維持管理することも建築基準法第8条にて建築基準法令上の義務となっている。この件について、火災予防上の効果を上げようと消防機関と特定行政庁とが合同検査を実施した場合、建築基準法令と同様の規定を消防法に規定したのでは、指導の現場が混乱するおそれがあるがどう考えるか。

 答え

1 消防法第8条の2の4は、防火戸の周囲の物件に着目して規制するものであり、当該防火戸の周囲に物件が放置され、又はみだりに存置されないよう管理を義務づけるものである。

2 一方、建築基準法令は、防火設備の機能そのものに着目して規制するものであり、当該防火設備が火災時に正常に機能するように当該防火設備について維持管理を義務づけるものである。

したがって、消防法令と建築基準法令との間で競合関係は生じないものである。

問25 自主的に設置された避難階段上に避難上障害となるような物品が置かれている場合、消防法第8条の2の4の規定が及ぶか。

 答え 避難として使用可能な階段に避難の障害となる物品が置かれている場合には、消防法第8条の2の4の適用がある。

基本的には防火戸等の設備自体への規制ではなく、その防火設備等の周囲の物件等の維持管理を定めていることが良く分かりますね。具体的な例としては屋内階段内に多量の避難の支障になる物件が存置していたり、防火戸の周囲に段ボール箱等が積み上げられ閉鎖障害となっている場合などは消防法第8条の2の4に違反していることになります。

ん!? これって消防法第5条の3命令の対象じゃないか! ピンときた方も多いと思います。

消防法第8条の2の4の上位措置は法第5条の3又は法第8条4項

上位措置はタイトルの通り2種類あります。1つはその物件の所有者、管理者又は占有者で権原を有する者に対して行う消防法第5条の3命令。もう1つは管理権原者に対して防火管理者に適切に防火管理業務を行わせることを命じる消防法第8条第4項命令です。命令権者や受命者、措置内容は微妙に異なるため適切に選択して下さい。即時性を求める場合は消防法第5条の3第1項が効果的です。

法令第5条の3第1項第8条第4項
命令権者消防吏員を含む消防吏員は含まない
受命者物件の所有者、管理者又は占有者管理について権原を有する者
措置内容物件の除去防火管理上必要な業務の執行
注意点物件の危険性について第3条を準用する3号又は4号どちらを適用するのか判断が必用消防法第8条第1項が適用される防火対象物に限定される。

おわりに

消防法第8条の2の4は建築基準法とは切り離して考えます。建築基準法上必要な階段だからでは無く、避難できる可能性がある階段全てに対し防火安全上の維持管理を義務付けています。

特に着目すべき点は「避難の支障になる物件」が存置されることと防火戸の閉鎖障害となる「楔」について規制強化が図られていますね。

消防法第8条の2の4には罰則規定が設けられていません。その理由は消防法第5条の3や消防法第8条第4項に命令権を定めています。具体的な火災危険を説示し、消防機関自らが火災危険を排除するため、罰則を担保に命令の履行義務を定めています。

そのため消防機関へ与えられた権限を良く理解する必要がありますね!

そうそう、どちらの命令もその2次措置は消防法第5条の2に基づく使用停止命令です。

物件をどかさなかったらどうなるんだ!?と詰め寄られてた最終的に営業停止(使用停止)を命じる必要があることを説明しましょう!

告発するとか、命令で標識を張り付ける等の説明をするよりもこれが一番効果があります!

予防技検定にチャレンジ! 避難施設の維持管理編(問題数3)

チャレンジ問題1

消防法第8条の2の4に関する次の記述について誤っているものを1つ選べ

  1. 立入検査にて区画形成の防火戸の降下位置に物件が存置されていたため、消防法第8条の2の4を根拠法令に違反指摘した。
  2. 自主的に設置された避難階段は、避難障害物品が存置されていても消防法第8条の2の4を根拠法令に違反指摘することはできない。
  3. 延長50m以上のアーケードに避難障害物品が存置されていても消防法第8条の2の4を根拠法令に違反指摘することはできない。
  4. 消防法第8条の2の4は、防火戸の周囲の物件に着目して規制するものであり、当該防火戸の周囲に物件が放置され、又はみだりに存置されないよう管理を義務づけるものであり、建築基準法令に基づく維持管理と競合は無い。
クリックして答えを確認する!?
答え 2 →避難として使用可能な階段に避難の障害となる物品が置かれている場合には、消防法第8条の2の4の適用がある。
チャレンジ問題2

消防法第8条の2の4に定める避難上必要な施設等の管理に関する記述として、次の中から誤っているものを1つ以上選べ。

  1. 避難上必要な施設等の管理をようする防火対象物は令別表第一に掲げる全ての防火対象物である。
  2. 避難上必要な施設等の管理を要する防火対象物の立入検査で、防火戸の閉鎖障害となる物件が放置されていた場合は、当該条文を根拠に適正管理を指導することができる。
  3. 避難上必要な施設等の管理を要する防火対象物の管理について、権原を有する者は、当該防火対象物の廊下、階段、避難口その他避難上必要な施設について避難の支障になる物件が存置され、又はみだりに存置されないように管理しなければならない。
  4. 屋内避難階段は消防法第8条の2の4に定められる避難上必要な施設等に該当する。
答えを確認する!?
答え 1  令別表第一の全てではなく、(18)項~(20)項は除かれる。
チャレンジ問題3

消防法第5条の3及び同法8条の2の4についての記述のうち、誤っているものを1つ選べ。

  1. 消防法第5条の3第2項における措置を行う場合、公告を行わなければならないが、この場合の公告期間である「相当の期限」とは公示送達に必要な期間である2週間(民事訴訟法第112条)と消防法第5条の3第2項の規定による措置の履行に要する期間を加えた期間である。
  2. 消防法第8条の2の4で閉鎖障害について管理する対象として防火戸が定められているが、防火シャッターについては管理の対象として含まれない。
  3. 自主的に設置された避難階段上に避難上障害となるような物品が置かれている場合であっても、消防法第8条の2の4の規定が及ぶ。
  4. 連結送水管の送水口の前(屋外)に看板がおかれ、使用不能となっている場合の違反処理は屋外における消防の活動に支障となる物件であるため、消防法第3条第1項第4号による違反処理を検討する。
クリックして答えを見る!
答え 2 防火シャッターについても対象です。

コメント

  1. 植田和秀 より:

    屋内避難階段や屋内階段の・・・避難階の階段裏や避難するに当たって、障害にならないスペースに置かれている・・・ロッカーやごみ箱や傘立てについて・・・指摘できる根拠法令を建築基準法や消防法や火災予防条例で探しているとき、貴サイトに行き着きました。よくご存じですねー!これからも、参考にさせていただきます。感謝

    • あっちゃん より:

      植田様 コメントありがとうございます、非常に励みになります。階段下を物入の様に使用されると可燃物である場合は特に危険性が高いですね。不燃のロッカー等で整然とされている場合は消防法での指摘は難しいかもしれませんね。建築部局では避難階段や特別避難階段では物置との区画という面で厳しく取り締まるようですが、竪穴区画ではあまり強く指導しないそうです。

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